ストレスによって適応障害などと診断され、長期の休養に入った・・・・はいいものの、肝心の「休み方」は分かりません。なぜなら、ほとんどの人は本当の意味で「休む」ということをしてこなかったからです。「休む」のは行楽地で長蛇の列に並ぶことであって、「心と体を開放する」という休み方は、おそらくほとんどの人は何十年もできていない・・・と思うのです。
一般的に、精神ダメージからの回復には、3つのフェーズがあると言われています。初期は「とにかく休養する時期」、続いて「活動しだす時期」、最後に「復職準備の時期」です。今回は、この3つのフェーズごとの「休み方」を、私自身の経験も踏まえてまとめてみました。
※適応障害 学びのまとめなどもご参照ください。
心身ともに疲弊しきっている状態です。無理してトップスピードで走り切ったマラソンのゴールテープを切った直後で、倒れこんでいるイメージというのが分かりやすいでしょうか。特に最初の2週間程度はまだまだ緊張状態にあって、どっと疲れが出がちです。身体的には体調を崩したり、酷い身体の凝りで活動も特に低下しやすいです(むしろ、しばらくは休む前よりもかなり体調が悪いなんてこともあります)。また、仕事のことが気になって焦燥感から心が休まらない時間も多々あります。
よく「休みになると風邪を引く」という現象があると思うのですが、この感覚に近くて、「ホッとすると疲れが出る」「疲れは後から自覚する」というやつです。この時期の「具合の悪さ」は、<緊張がゆるむと、一気に来る>パターンの「ひどいバージョン」だと思ってください。
とにかく自由に過ごします。徹底的にダラダラ過ごすことが目標です。イメージとしては、「やりたいし、できる」ことだけをやるということに尽きます。「やりたいが、できない」ことや、「やったほうがよい(義務感)と思うが、できない」ことには手を出さないことです。
動けないですし、大抵は毎日眠くなるはずです。その場合は、 とにかく睡眠欲の赴くままに寝ましょう。起きたいときにおきて、昼寝もして、寝たいときに寝ます。食べたいときに食べたいものを食べましょう。マンガでもゲームでも動画視聴でも、音楽鑑賞でも散歩でも、なんでもいいのでやりたいことをやりたいだけやればよいでしょう。
なお、この段階では疲労のデメリットが気分転換のメリットを上回ってしまいがちなので、「運動」「旅行」などのアクロバティックな活動は極力避けることが望ましいとされています。
仕事(ストレス源)からいったん、完全に離れることが最重要です。原則、職場との連絡は(診断書や休職関係の書類のやり取りを除いて)すべてシャットアウトし、「仕事のことを徹底して考えない」状態を物理的に作ることが最大の「くすり」になります。
動物園の動物は、よく暑い日の昼間にはダラーンと寝ていますよね。あれは、暑いから余計なエネルギーを使わないために、ただ動かないでいるのです。ここでいう「休む」というのは正にそのイメージです。ストレスでやられているのだから、動きたいときに動けばいい。人間も動物ですから、一度「動物としてのあるべき姿」にまで戻るくらいの休み方をしてよいかと思います。
クルマに例えると、ガス欠でエンジンの動かなくなった状態です。ブレーキも壊れています。ガソリンが完全に切れているのにアクセルを踏むことは不可能です。ブレーキも 壊れていて危ないですよね。ですから、ガソリンを補給して、また痛んだブレーキも修復して、また動けるようになってから動かせばよいのです。
なお、そばでずっと寝ていられると、ついつい身近な人は「ゴロゴロしていないで、ちょっとはジムで運動をしてみたら?」とか、逆に心配して「せっかくの機会だし、ちょっと温泉旅行でも連れて行こうか?」と声をかけて、無理にでも家から出そうと(親切心から)声をかけてしまいたくなりがちです。しかし、この時期は「ゴロゴロすることに全ステータス割り振り」が最適解。とにかく、徹底的に「ダラダラ」に徹する期間を過ごすことが、早期の回復につながります。
またこの時期には、あまり「復職の時期」や「その先(復職か、転職か)」などの「将来の選択」に関することを考えるのは好ましくありません。やがて考えるべきときが来ますが、心身が回復していないうちにこれをやると、不安が憎悪し、せっかく休んでいるのに症状をしばしば、悪化させます。
しっかり休めてくると、頭がすっきりしてきて、自分で自覚できるほどに心身ともに健康になっていきます。「休むことが大切」というのを、肌身にしみて実感するようになります。どれだけ自分が「心を亡くす」ほどに「忙しく」していたのかを痛感するとともに、その「持続不可能性」に気づくようになります。
何よりあれほど「休むこと」に抵抗していたのに、自分がいなくても職場は問題なく回っていることを知ります。「休んだらもう世界の終わりだ」と思っても、別に世界は何も終わっていないことに気づきます。いい意味で、休むことに「あきらめ」がついてきます。
世界は自分中心にまったく回っていませんし、労働の輪廻から降りたところで誰かがその代わりをやるだけなのです。そのシンプルな事実に気づくと、心が軽くなってきます。自分は何を以て「自己実現」しようとしていたのか、そもそも稼得手段が「目的」になっていたのではないか、 など「職場」に抱いていた空虚な幻想に気づき、いい意味での「諦観」を身につけることができるようになります。
一方で、ただダラダラしていることには少しずつ飽きてきます。「退屈だな」「やることがないな」と思うようになってきます。気力も体力も補充され、徐々に身体を動かしたくなります。
緊張が解け、心身ともに健康になっている自分を実感し、ようやく「動こうかな」という気持ちになってくる時期です。
ここで、急速にギアチェンジしていきなり「復職」しようとしたり、突然ジムで激しい運動をしてしまう・・・というまじめな人もいますが、その「まじめさ」が、適応障害を引き起こしたことを忘れないようにしましょう。
体調がよくなっているのは、単に「ストレス源から離れていること」と「しっかり休んでいるから」に過ぎません。このまま復職しても、同じことを繰り返す恐れがあります。したがって、だいたいこの時期に入ってから、復職に向けて、「自分自身の認知に問題はなかったか」・・・すなわち、「自分自身の行動のクセを見つめる」という認知行動療法的アプローチが取られる場合が多いようです( もう一方の軸である環境の問題については、次期の「復職準備期」にかけて産業医を交えて調整が入る事が多いです)。
そもそも、すでに長期間「ダラダラ」しているので、いきなり行動をしても、筋力低下などが著しく、簡単に疲労をしてしまいます。少しずつ、活動の強度をあげていくのがよいでしょう。
「趣味を生きる」。仕事とはまったく、無関係な世界を生きます。ジョギングでも、ちょっとした小旅行でも、サイクリングでも、読書でも、美術鑑賞でも、森林浴でも、 銭湯でも、なんでもよいので自分が心の底から「やりたい」と思うことをします。「やりたいこと探し」ですね。自分の心が本当に動くこと、すなわち「感動体験」をたくさんしていきたい時期です。 「お日様ってあたたかい!」「空気がおいしい」「こんなきれいな花が」「こんなところにお店が」「おもしろい本だなぁ」「素敵な絵だなぁ」「気持ちいいなぁ」という「発見」と「感動」を繰り返すことです。このように新たな(これまで忘れていたような)「発見」と「感動」が連鎖すると、復活のために必要なエネルギー、すなわち、「自分の感情と向き合うこと」 、もっと言えば「自分を大切にすること」ができるようになってきます。
そして、それは「ジムにでも行ったほうがよいのかな」とか、「この機会に資格でも勉強したほうがよいかもしれないな」のような、「義務感」や「実利」に一切関わらないことであることが重要です。一般的に、「したほうがよいのかな」と自問するようなことは、本当に「やりたい」こととはいえないでしょう。
本当にやりたいこととは、誰に言われずとも、そして対価をもらわずとも、自発的にやってしまうことを指します。
当然ですが、「仕事のこと」について考えることは避けます(とはいえ、「そういえば今の職場について考えなくなってきているな」ということにはっきり気づける時期ではあります)。
最初は、ちょっとした遠出でも疲弊してしまい、落ち込むことがあるかもしれません。ただ、体力がついてくればそれもやがて回復してきます。
そもそも 基本的に、この時期は体力が100%は回復していません。長期間の「ダラダラ」によって、筋力をはじめ基礎体力は大きく低下しています。上記で「義務感はダメ」と書きましたが、それでも、「基礎体力」はある程度戻しておかないと、「仕事をする体力(集中力)」を取り戻せません。ですから、最低限度の「運動」(筋肉の維持)はしたほうがよいでしょう。といっても、例えば「毎朝日光浴を兼ねた近所の散歩を15分間」や「毎日5分のラジオ体操」「週末は近所のサイクリング」「週1回は水中ウォーキング」などのうち、続けられるものだけで十分でしょう。
なお、いくら「好きなこと」といっても、「海外旅行」や「トライアスロンにチャレンジ」「難関資格を取得するぞ」など、負荷の大きい活動をいきなりすることがないようにくれぐれも留意したいものです。「活動」といっても、「 自宅で映画鑑賞」「近所のスーパー銭湯通い」「空いている時間帯の美術館巡り」など、「体や心の癒し」になるものからはじめるのがよいでしょう。
また、上述の通り、「義務感」や「実利」に関わる活動は、要するに「仕事」と同じですので、原則として避けるようにします。繰り返しになりますが、「したほうがよいのかな」と自問するようなことは、自分が本当に「やりたい」こととはいえないのです。
徐々に、ちょっとした遠出くらいでは疲れることもなくなって、自信がついてきます。心身ともにリラックスした状態が継続し、これまでの社会人人生では得られたことがないような心の「余裕」や「ゆとり」を実感できるようになってきます。
すると、「休むこと」自体に、少しずつ飽きてきます。あれほど「働けるかな?」と心配だったのが嘘のように、徐々に「もしかすると働けるかも」、そして「まあ働 いてもいいかも」という気持ちになってきます。
ポイントは自発的に「働いてもいいかも」と思えることです。本心に「さすがにそろそろ働かないとまずいんじゃないか」「働かないといけない」という気持ちがあるようならばまだそれは「義務感」による擬勢ですし、ましてや「早く復帰しろと周囲にせかされている」状態では、まったく自発的なものとはいえません。
「そろそろ働くための準備をしたい」という本人の自発的な意思を大前提として、あくまで「休息」に軸足を置きながらも、生活のリズムと意識を「職場のリズム」に戻していく時期です。
起床・就寝時間を徐々に規則正しくしていきます。例えば「23時就寝・7時起床」などです。
1週間くらいかけてリズムが整ってきたら、この起床と就寝のリズム維持に加えて「出勤練習」をすることが多いようです。医療機関や職場等の指示にもよりますが、だいたい1週間から2週間程度、実際の通勤ルートで「模擬出勤」し、さらに職場の近くで業務時間と同じくらいの時間を過ごす(ここで 数時間程度の軽作業をする場合もあるようですね)ことを繰り返します。これによって毎日同じリズムで生活ができると判断されると、いよいよ「復職が可能」と診断されるケースが多いようです。
主治医から復職の診断書が下りたら、最後に産業医面談へと進みます。そしてここで、最終的な「環境調整」をしていきます (まず主治医から復職時期の診断書が下りてから復職に向けたプログラムがスタートする場合もあるので、順番はケースバイケースです)。
出勤練習中に、不安感からパニック発作などが起こることもあり得ます。その場合は、「まだ、復職の時期ではない」ということです。出勤練習は、問題なく復職できるかの「みきわめ」の意味もあるのですね。
環境調整は、「残業禁止」「休日勤務禁止」「出張制限」「時短勤務」「転勤の制限」「配置転換」「クレーム処理業務等への従事制限」「車の運転制限」など、多岐にわたります。産業医面談も含め、「再発防止」のために慎重に調整していきます。