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浅草の街路27本ガイド

取材・データ: 2003年12月〜2004年4月
本記事掲載: 2016年2月27日

突然ですが、東京を代表する観光地である「浅草エリア」(ここでは浅草寺・浅草神社・雷門、花やしきを中心とする台東区浅草1・2丁目の範囲を指す)には27本もの名前の付いた街路があります。本稿は、それを前提に記述されています。

▼地図の中の道路名をクリックすると、 その道路の全景を見ることができます。

すなわち、東は馬道通り、西は国際通り、南は雷門通り、北は言問通りに囲まれた一角、ということになります。
上に載せた地図を1つずつクリックするのも大変でしょうから、街路の様子を一覧にしてみましょう。

すると以下のようになります。

(※図中の番号は下記の表の街路名と合致する)

街路名 写真
1.仲見世通り
2.新仲見世
3.ひさご通り
4.花やしき通り
5.初音小路
6.六区ブロードウェイ
7.五重塔通り
8.西参道
9.ロックフラワーロード
10.公園本通り
11.たぬき通り
12.すしや通り
13.食通街
14.公園通り
15.グリーンロード
16.平和横丁
17.オレンジ通り
18.伝法院通り
19.仲見世柳通り
20.公会堂横通り
21.公会堂東通り
22.浅草中央通り
23.メトロ通り
24.かんのん通り
25.雷門柳小路
26.いなり通り
27.ふれあい通り

・・・たくさんありますね。そして、狭い範囲にバラエティ豊かな景観。1つの町に様々な表情。「混乱」しているわけです。カオスと言ってもいいでしょうか。ここに気づいていただければ、本稿の目的はほぼ達成されたのと同じです。

ここからは、「浅草の街路27本」の彩を構成している「道路の付属物」に着目していきます。急に論文調になりますが、より深く「道路のパーツ」を楽しんでいただけるものと信じます。では、 混沌とした魅惑の「道路の付属物」の世界をご堪能ください・・・

重要な補足:私は、浅草における「バラエティが豊か」な景観の状態を善悪で判断していません。ただただ楽しんでいます。強いて課題を挙げるとすれば、街としての統一されたイメージは「ない」ということなのですが(以下を読んでいただくと分かります)、「統一したイメージをつくろう」という意思が各々の形成者にないのであれば、別にそれはそれでいいのではないかと思っています。「カオスな街」でよいのであれば、その部分にこそ魅力があるのですから。


小論文:浅草の街路景観 〜道路の付属物調査から〜

<目次>
序章 浅草の街路の様相

第1章 道路の付属物調査の概要
(1)道路の付属物とは何か
(2)調査範囲
(3)調査方法

第2章 道路の付属物から見た浅草の景観分析
(1)道路の付属物データベースから
(2)「道路の付属物」から見た浅草の景観

第3章 浅草の街路景観を考える
(1)街路景観の整備とその矛盾
(2)街路の結節点に見る問題
(3)浅草の街並み
(4)課題


序章 浅草の街路の様相

浅草を歩いていると、実に様々な顔をした街路に出会う。

門前商店街の仲見世通り、古くからの店が立ち並ぶ伝法院通り、興行街たる六区ブロードウェイ、電飾の美しいオレンジ通り。街路ごとに、それぞれ違った景観を楽しめる。多様なものが混在する浅草という場には、独特の魅力がある。

一方で、浅草エリア「全体」の景観について改めて見てみると、「混乱状態」にあるとも言える。多くのモノが溢れ、様々な街路が雑多に混在・集積し、煩雑な街並みが形成されている。街路上で視覚的な情報が氾濫することで、浅草という街全体の景観 形成には大きな混乱が生じているようにも見えるのである。

ここでは、浅草における「景観の混乱」について、その実態を示した上で、それが何故引き起こされ、どのような問題を孕んでいるのか探っていきたい。

そこで今回は、浅草を各々の街路に分解し、街路を構成している基本的な部品である「道路の付属物」について調査した。これは、浅草における「道路の付属物」が、他の街と比較して多種かつ多量に存在しており、この「道路の付属物」を調べることで、景観の混乱状況の根源を示すことが出来ると考えたためである。

以下、浅草の各々の街路を「道路の付属物」の面から調査・比較し、浅草全体における「景観の混乱」の様相をみていく。

第1章 道路の付属物調査の概要

ここでは、街路各々の景観を構成する基本的パーツ「道路の付属物」を調査対象とした。各街路についてそれぞれ「道路付属物の現況調査(悉皆調査)」を実施、サンプリング並びにデータベース化を行い、街路ごとに比較した。

(1)道路の付属物とは何か

 「道路の付属物」とは、街路景観を構成する基本的な部品(パーツ)のこと、すなわち、電灯、装飾物、路面のタイル、看板等を指す。

ここでは「街路ごとの景観を特徴付けるパーツ」、すなわち各街路における景観の統一要素としての付属物のみを取り上げる。 具体的には、装飾パーツ、入り口のアーチ、アーケードの屋根、街路灯、照明類、路面タイル、店舗の看板(統一デザインのものに限る)、シンボル(オブジェ・フラッグ・顔ハメ看板)、街路名板の11カテゴリに分けられる(以下、その分類を示す)。

<分類>

カテゴリ
1)装飾パーツ
2)入り口のアーチ
3)アーケードの屋根
4)街路灯
5)照明類
6)路面タイル
7)統一の店舗デザイン看板
8)シンボル(オブジェ)
9)シンボル(フラッグ)
10)シンボル(顔ハメ看板)
11)街路銘板

なお本研究においては、道路標識、「商品陳列」や「置き看板」など店舗ごとの宣伝物や装飾物、駐車車両、歩行者等は考慮しない。

(2)調査範囲とその概要

浅草一丁目・二丁目における「名前のある街路」を調査対象とした。名前のある街路は、それがない街路と比して各々の付属物の特徴がつかみやすいと判断したためである。対象となる街路は上記の地図に示した27本である。

(3)調査方法

調査は、2003年12月7日・11日・19日の3回実施した。

調査対象となる27街路の道路の付属物を目線の高さから撮影、前述の11カテゴリに分類し、街路別・カテゴリ別に横断検索が可能なデータベースを作成した。なお、各付属物の街路内での位置を把握できるような写真と、これらの付属物の総体としての全景写真を撮影し、分析の際の一助とした。

第2章 道路の付属物からみた浅草の景観分析

上記の調査を踏まえ、道路の付属物データベースの作成結果を示した上で、道路の付属物からみた街路ごとの景観状況を分析する1)

(1)道路の付属物データベースから

「道路の付属物データベース」をまとめた結果を、カテゴリ別・街路別の2点から示す。

<1>カテゴリ別

1) 装飾パーツ
最も多かったのは、全国的に見られるような木を模ったプラスチック製の装飾物である。街路ごとに色・形がすべて異なっていた。どれも目立つ色遣いである。また、提灯を掲げているケースも多く見受けられたが、これも街路によって色・形が全て異なっていた。

2) アーチ
一般に、かなり大きく派手なものを掲げる傾向があった。他の街路との差異化を図り、自らの街路を強く目立たせようとする意図が感じられた。特に、すしや通りと新仲見世のアーチは、自らを強烈にアピールしていると言える。

3) アーケードの屋根
屋根の形状も様々な様相を示しており、アーチ型、平面型など様々なパターンが見受けられた。骨組みの構造も街路毎に様々であった。

4) 街路灯
街路灯は電灯のほか、装飾パーツやシンボルとなるフラッグ、街路名板などを含んでいる場合が多く、道路の付属物の中で最も目に入りやすい重要なであると考えられる。街路ごとに様々なパターンがあり、色・形・電灯の個数など、どの街路も各々に大変特徴あるものとなっている。

5) 照明類
街路ごとに明確な差異化が計られていた。かなり凝ったデザインの電灯が多く形状が多様であるほか、光についても様々な種類があった(白色、緑や橙など)。

6)路面タイル
単色・石畳の仲見世通りをはじめ、カラフルな六角形のタイルを使った六区ブロードウェー、たぬきの絵がペインティングされているたぬき通り、様々な舗装パターンのある六区フラワー通りなど、街路毎に多種多彩な舗装が行われていた。

7)店舗の看板
街路ごとに一体感を保つために、店舗の看板を同じデザインとしている街路もあった(アーケード商店街は特にその傾向が強い)。いずれも照明と一体化され、形状が街路単位で統一されている。

8)シンボル(オブジェ)
景観上のシンボルとして、ユニークなオブジェを配置している街路も見られた。六区ブロードウェーにおいては「六芸神」2)が、たぬき通りでは11の「願掛けたぬき」3)がそれぞれ設置されている。いずれも街路のイメージを明確に打ち出すもので、景観上の意味は大きい。

9)シンボル(フラッグ)
フラッグは、大変目につきやすい付属物である。街路ごとにどれも全く異なったデザインとなっていた。設置方法としては、街路灯に掲げられる場合、屋根から吊り下ろされる場合、地面に幟として掲げられる場合の3パターンがあった。フラッグの機能は基本的には装飾であるが、街路名を明示する役割も果たしている。中には街路のキャッチフレーズを示すものもあった4)

10)シンボル(顔ハメ看板)
顔を入れられるようにした「顔ハメ看板」は、六区ブロードウェイ、五重塔通り、たぬき通りに見られた。六区ブロードウェイは前述の「六芸神」すべての置き看板5)が設置されており、壮観である。伝法院通りでは、街路灯にシンボルとなる装飾物「だじゃれ看板」6)を配置しており、強烈なアピール要素となっている。

11)街路名板
街路名板は、街路灯の上部または目線の位置のどちらかに設置されるケースが多い。歩行者が街路名を知るための重要な手掛りとなるが、位置・形状・書体など、どの街路も全てばらばらであった。

以上のように、浅草という街には非常に多くの種類のパーツが溢れていることが示された。その点だけでも景観の混乱状況が示されよう。同じカテゴリのパーツであっても、街路ごとにその様相が全く異なっていることが分かった。例外的に統一されていたのは、電柱の看板に見られる装飾イラスト7)および「江戸開府400年」のフラッグのみであった8)

色彩的に見ると、伝統的な色彩9)を多用する街路がいくつか見受けられたものの、そうした色を一切使用しない街路も多く、傾向をはっきりと類型化することはできなかった。また調査の過程で、これらの付属物の多くは固定されたものではなく、季節ごとイベントごとに絶え間なく更新され、随時流動していることが分かった。これも、景観の混乱状況の一因であると考えられた。

<2>街路別

1)仲見世通り
雷門−浅草寺を結ぶ形で看板・電飾・石畳が整備され、統一的な景観が整備されている。景観の特徴として、季節・イベントに合わせて非常に頻繁に装飾パーツが更新される点が挙げられる。屋根は着脱式で、屋根のあるなしでも大きく景観が異なる。

2)新仲見世
仲見世通りを横切る形で東西に伸びる近代的なアーケード商店街で、看板・路面タイルが全面的に整備されている。入り口の看板が巨大で非常に目立つことが景観上の大きな特徴である。

3)ひさご通り
朱色の入り口が目立つアーケード商店街で、屋根に掲げられた10枚のフラッグがシンボルとなっている。「江戸」を意識した景観整備が行われているようだ。

4)花やしき通り
「花やしき」を抱えているためアーチ・街路灯・装飾物ともに伝統色というよりも原色が多用され、にぎやかな印象を受ける。

5)初音小路
路地の上に置かれた藤の木の棚が印象的である。入り口の看板を除くと、統一的な装飾物は見られない。

6)六区ブロードウェイ
興行街としての「浅草六区」を強く印象付ける「六芸神」のオブジェ、看板、フラッグが非常に目立つ装飾物となっている。かなり背の高い街路灯、路面の舗装パターンが非常にカラフルである点など、他の街路との明確な差異化がなされている。

7)五重塔通り
昔ながらの装飾が目立つ街路である。調査段階においては、つくばエクスプレスの新駅完成に伴う街路灯の更新などの整備工事中で、今後景観の状況に大きな変更があるものと予想される。

8)西参道
ひょうたん池跡地・奥山などの雑然としていた地域の区画整理を行って共同建築様式で誕生したアーケード商店街が西参道である。建物が共通の規格で、看板も路面も統一されており、入り口から出口まで街路全体がひとつの街としてセット化されている印象がある。屋根に掲げられたフラッグ、幟が目立つ。

9)ロックフラワー通り
「花」に関する装飾が目立つが、必ずしも全ての装飾物が花と関係しているわけではないようだ。路面に「69(六区)」とタイル舗装がなされていたり、入り口のアーチに鐘や電光掲示板などが設置してあったりと、パーツで見ると様々なものが雑然と組み合わさっている街路である。

10)公園本通り
昔ながらの飲み屋街を連想する街路で、装飾は少ない。街路単位の装飾というよりも、店舗の装飾に目を奪われがちであった。

11)たぬき通り
「かわいい願掛けたぬきの街」をコンセプトとした景観整備が行われている。11の「願掛けたぬき」のオブジェが設置され、街路の大きなアピールとなっている。街路灯・路面・フラッグのいずれも「たぬき」をモチーフとし、統一的な街路景観が整えられている。

12)すしや通り
入り口のアーチが非常に目立ち、周囲に強烈な印象を与えている。アーケード内では共通のフラッグ・看板・装飾物などによって統一が図られている。

13)食通街
街路灯は比較的落ち着いたデザインであるが、木を模った装飾物、ちょうちんが街路灯を彩ってきらびやかにしている。

14)公園通り
電灯・街路名板のみが統一されており、他の街路と比べるとおとなしい印象を受ける。

15)グリーンロード
路面(車道)が緑色のタイルで統一され、周囲の街路と明確な差異化が図られている。「グリーン」ではあるが街路灯は茶色、道路の歩行者部分も別色のタイルで整えられている。

16)平和横丁
特段の特徴は見受けられなかった。

17)オレンジ通り
オープンモール街としてモダンな景観造成が行われた経緯がある。アーケード撤去と植栽の配置によって、他の街路と比較して非常に落ち着いた街並みが形成されている。街路灯が独特のデザインによって形作られているのが特徴で、夜になると街路全体がオレンジ色に浮かび上がって美しい。

18)伝法院通り
古くからある商店街らしい付属物構成となっている。朱色に塗られた街路灯が美しく、電灯のデザインも凝っている。付属物は、入り口の大きなアーチと、前述の「だじゃれ看板」が大きなアクセントとなっている。

19)仲見世柳通り
24本の柳が街路のシンボルである。街路灯・歩道ともによく整備されている。派手に装飾された街路が多い浅草においては比較的落ち着いた街路のひとつである。

20)公会堂横通り
浅草公会堂の南側面を通る道路であるが、路地的な印象が強く、装飾物に目立った特徴は感じられなかった。

21)公会堂東通り
浅草公会堂の完成で旧名から改称10)、同時に街路灯が整備されたというユニークな経緯をもつ。付属物に華美な装飾は行われず、かなり落ち着いた印象を受ける。

22)浅草中央通り
街路灯に全ての装飾物が集中して配置されている。入り口部分の街路灯はステンドグラスやフラッグが付属し、街路を大きくアピールするものとなっている。その他の街路灯は木を模った装飾物をたたえ、昔ながらの商店街の雰囲気を出している。

23)メトロ通り
地下鉄の浅草駅から浅草寺への近道であったことから名のついた通りで、戦前は「浅草の山の手」と言われていた。その歴史に添うような格調ある街並みが形成されており、タイル舗装・街路灯がよくマッチングして落ち着きが見られる。

24)観音通り
アーケード型商店街の中では最も装飾が少なく落ち着いた印象を与える街路である。入り口のアーチもおとなしい印象を与える。

25)雷門柳小路
現在柳は存在しない。付属物は街路灯のみで、柳を意識してか緑色で統一されている。電灯には柳の絵があしらわれている。

26)いなり通り
通常の路地のような印象を受ける街路である。街路灯・街路名板ともに相当に古く、パーツが随時更新される傾向の強い浅草においては「残された街路」という印象を深くする。

27)ふれあい通り
街路灯・フラッグが整備された一般的な商店街という印象がある。街路灯・街路名板とフラッグが茶色系統の色で統一されており、華美さは少ない。どの街路も、街路単位で見ると整合性があり、一般にそれぞれの特性やコンセプトに合わせて統一・整備されていることが分かった。よって、付属物は街路それぞれで大きく異なっていた。

(2)「道路の付属物」から見た浅草の景観

以上の結果から付属物について見ると、まず個数の多さだけで景観の混乱状況を示すことが可能であった。しかし重要なのは、同じカテゴリの付属物であっても、街路ごとに全く異なった様相を示しているという点である。これは、各々の街路において、 統一されたコンセプト・趣向のもとで、まったく独自に景観整備が進められてきた結果であろう。

これらの付属物の集積としての「街路全体」をそれぞれ比較してみても、街路と街路が明確に差異化されていることが分かる。この差異が街路の集積としての「浅草全体」の景観の混乱を生み出していることは明白 である。

ここで、街路単位でみたとき景観は統一に整備されているが、街全体で見ると景観の整合性が大きく損ねられているということが明確となった。「部分」でみると混乱状態になくとも、それが集積して「全体」としての浅草という場を形成するとき、そこに景観の混乱が生じるのである。

第3章 浅草の街路景観を考える

前章で、浅草は街路ごとに景観が統一されていても、全体で見るとひとつの街としての一体性が損ねられていることが示された。部分は整合されていても、全体になると整合を欠いてしまう。浅草には、このような矛盾が内包されている。ここでは、その矛盾について考察し、浅草における景観の混乱の実相を示したい。

(1)街路景観の整備とその矛盾

浅草の街路景観における混乱の最大の原因は、「浅草全体」が意識されず、街路単位で景観整備が行われてきたことにあるものと言える。街路単位で景観が整えられた結果として、街路と街路は個別化し分断され、浅草の 「街全体」としての景観構成は曖昧なものとなり、現在の混乱状況が生じているものと考えられる。

では、何故街路ごとに景観整備が行われてきたのか。その背景として、まず第1に街路、またはそれを構成する商店街ごとに特性が大きく異なるという点が挙げられる。例えば、門前商店街としての仲見世通り、興行・歓楽街としての六区ブロードウェイの2つを挙げてみても、建物の構造、店舗構成から来客層まで大きく異なる11)。どの街路も基礎構成、役割が相違うわけであるから、街路単位で観整備せざるを得ないという側面があろう。

第2に、浅草の地域特性という点が考えられる。浅草のような観光地・歓楽街においては、各々の街路が何らかのコンセプトを持って整備されることは自然と言えよう。このとき、他の街路(商店街)が統一的に装飾されてはっきりと目立つ場合、自らの街路も目立たないと周囲に埋もれてしまうという危機意識、競争意識が発生するものと思われる。特に浅草では、狭い範囲に多くの街路が混在しているから、この意識はかなり大きなものになると予想される。その結果として、街路 、特に商店街単位での差異化、独自化が進められていったものと考えられる。

以上を勘案すると、浅草において、様々な街路が差異化され景観が混在することには必然性があるものと考えられる。また、そもそも「ごった煮」の現状が、浅草の魅力のひとつであるとも言える。

問題となるのは、「ごった煮」の状況そのものではなく、街路ごとに景観が個別化されすぎてしまったことによる「浅草という場」の一体的な景観の分散化・希薄化にあるものと考えられる。この端的な例は、「街路の結節点」に表出する。

(2)街路の結節点に見る問題

浅草において、街路と街路が交わる「街路の結節点」においては、必然的にここまでで論じてきた「部分」と「部分」との矛盾が噴出していることが見て取れる。ここでは、様々なパーツが多量に混在し、「情報の洪水」状態となっている。

例を以下に挙げる。


仲見世通りと新仲見世


仲見世通りと新仲見世(人物顔モザイク処理)


メトロ通り・かんのん通りと新仲見世


仲見世通りと伝法院通り


仲見世通りと仲見世柳通り


六区ブロードウェイとすしや通り

上記のように、 各々の街路の「道路の付属物」同士が互いに相克し干渉し合い、訪れる者の視点を混乱させる。結果として、「街全体」としての繋がりは喪失され、場の一体的な景観が希薄化してしまう。ここに、 ここまでみてきた「景観の混乱 」の根本があると考えられる。(1)でみたように、景観の混在は必然かつ魅力であっても、このように行き過ぎれば「煩雑」「乱雑」であり、美観上も課題となり得る点ともなる。

個別的に過ぎる景観状況が続けば、この混乱はより「深化」することが予想される。

(3)浅草の街並み

浅草全体における「景観の混乱」の様相は、以下のようにまとめられる。

< 浅草は、様々な街路が溶け合ってひとつの街を形成している。その街並みには、一種の魅力がある。しかし、道路の付属物が氾濫し、多様な街路が集積した浅草は、街全体で見ると「景観の混乱」が発生している。これは、街路ごとに景観が明確に差異化・独自化されてきたことを原因とする。だが、この差異化には必然性があった。問題は、街路の差異化そのものではなく、「浅草全体」が殆ど意識されず、街路が過度に個別化されて整備されてきたという点にある。この「過度の個別化」が続く以上、浅草における街路景観の混乱状況は深まっていくと予想される。 >

今後は、この混乱状況そのものについて、必然的な「混在」は許容しつつ、行き過ぎた混乱についてはそれを収束させるようなバランスの取れた景観整備が重要であると思われる。そのためには、街路ごとの特性を考慮しつつ、「浅草全体の場のつながり」を考えた統一的な景観整備も必要となろう。

浅草の多様な街路が、個別的に存在しているのではなく、互いに溶け込みあって混在していると感じられるとき、浅草という場のもつ独特の魅力は、よりいっそう増すことだろう。

(4)課題

今回の調査では、「道路の付属物」というパーツの分析を通じて浅草における景観の混乱の様相を示した。今後は、建物の高さ・材質・種類および道幅、人通り、時間帯による景観の変化を含めた総合的な考察が必要となる。同時に、実際に街路整備に関わった商店街等の関係者や、浅草に訪れる人々のもつ浅草の景観に対する意識の把握が求められよう。

また、浅草全体の景観状況の歴史的経緯については今回論じられなかった。各時代の景観整備の背景についての考察も肝要である。

◆参考文献と注釈

1)分析に当たっては、各商店街の成立の経緯並びに景観整備のコンセプトなど各街路の概要を把握する必要が生じた。ここでは、台東区商店街連合会によるWebサイト「Get!大江戸TAITO」を参考とした。(URL: https://www.oh-edo-taito.com/

2)「六芸神」は戯神(おどけがみ)・話神・踊神・奏神・唄神・演神(えんじがみ)である。

このように、「六芸神」を祭る鳥居も用意されている。

3)「願掛けたぬき」は人情たぬき・大黒たぬき・天神たぬき・開運たぬき・小町たぬき・大師たぬき・地蔵たぬき・愛情たぬき・不動たぬき・夫婦たぬき・招福たぬきの11種類 ある。

このように、「願掛けたぬき」それぞれに祠が用意されている。

4)五重塔通り「奥山おまいりまち」、たぬき通り「かわいい願掛けたぬきの街」、西参道「素敵がいっぱいの街」、など。

5)「六芸神」の置き看板は以下の通り。順番は注釈の2)による。

     +

6)「だじゃれ看板」の内容は以下の通り。

    

   

順に、「唐人につりがね(提灯につり鐘)」、「玉あげがんほどき(玉あげがんもどき)」、「ねたものふうふ(似たもの夫婦)」、「えんましたの力持(縁の下の力持)」、「大竹のみ(大酒飲み)」、「はだかで田っぽれ(裸でかっぽれ)」、「おやおやうずばっかり(おやおやうそばっかり)」、「目刺は物をおこらざりけり(昔は物を思わざりけり)」、「はねがはたきの世の中じゃ(金がかたきの世の中じゃ)」である。なぜだじゃれの装飾が行われているのかは不明。

※なお、この「だじゃれ」は更新されているらしく、以前は「かかしがわるけりゃあやまろう(私が悪けりゃ謝ろう)」、「梅づらしいおきゃく(珍しい客)」、「そまの兄弟(曽我の兄弟)」、「ろうそくまて(盗賊まて)」、「顔になげたるこて八丁(通いなれたる土手八丁)」、「小犬の竹のぼり(鯉の滝のぼり)」というバリエーションも存在したらしい。

(参考:Webサイト「だじゃれTV」の「だじゃれお国自慢」 URL:https://edge.tsano.net/~gan/file/local.htm

電柱に見られる共通の装飾は以下の通り。  

 

8)「江戸開府400年」のフラッグは以下の通り。

9)「伝統色な色彩」は以下を指す。

仲見世通り(看板上)

伝法院通り(アーチ側面)

西参道(アーケード側壁)

10)かつて千葉銀行浅草支店があったことから「千葉通り」と称していた。

11)仲見世通りは低層・専門商業の建物で統一されている一方、六区ブロードウェイにおいては低層〜高層までの建造物が混在し、種別も専用商業のほか遊興・興行施設が存在しており、街路の基礎的な構造・役割が異なっている。

 (付図)新仲見世のアーチはデザインが多種多様である(統一の意思は感じられない)

  

  

(了)


・・・と、以上を踏まえたうえで、ぜひ「浅草の道路付属物データベース」をご堪能ください。


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