6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16

2016年に日本の出生数が100万人の大台を割れたことは記憶に新しい。それからわずか4年で、90万人台も割れることがほぼ確実な情勢だ。前年比5%を超えるペースでの出生数減少は、1989年以来、実に30年ぶりの大幅減だともいう。

(参考)19年の出生数が急減(日経)

10年で20万人減少、そして団塊ジュニアも全員が45歳を超えて出産適齢期を過ぎた。「令和ベビー」を期待する向きもあったようだが、もはや鍋の底が抜けたような状況だ。

このような状況で、かつて2位にまで登り日本の一人当たりGDPは26位にまで転落。PICAの順位も捗々しくない。様々なデータから見ても、明らかに「国力」が減衰している。

日本人の平均年齢は48歳を超えて世界トップだ。もはや「若者の国」ではなく、「壮年の国」である。まもなくこれが「老年」となっていく。

ただ、周りがみんな平等に年老いているので、悲壮感はない。どちらかというと、黄昏時を、のんびりと過ごして、そのまま散っていく・・というような、「はかなさ」といえようか。

そんな「黄昏ゆく日本」を概観し、今後の在り様を探ってみるコラムである。


■ファミレス

あるファミレスの「サーロインステーキ」ランチを注文したところ、これまで食べたことのないような硬さと脂身で、半分以上が食べられなかった。

昔はファミリーレストランといえば「高級」「特別」が相場だったが、本当に変わってしまった。全部ではないが、今や「シングル向けの安飯屋さん」であることを存在意義にしているお店もあるようだ。「安かろう悪かろう」とはよくいったもので、確かに数百円でステーキを食べようとした自身の浅はかさを恥じるしかない。

もはやファミレスは、そもそもが「ファミリー」で行くところではなくなってしまったのかもしれない。なぜならば、標準的なファミリーはイオンのフードコートにいるからである。

■外国人観光客

「爆買い」という言葉に象徴されるように、とにかく爆発的に増えたのが外国人観光客だ。出国する日本人の数はここ20年で年間1500万ー1700万人くらいと横ばいなのに対し、訪日外国人はこの20年で300万人台からざっと2400万人台へ、2000万人以上という驚異的な伸びを示している。

ただでさえ日本人の購買力は落ちているのに、さらに「円安」とくれば、海外旅行はもはや「金持ちの道楽」である。一方でどんどん購買力をつけた外国人にとって、「円安」であればそれはもう、要するに日本は「安く行ける観光地」なのである。

もはや日本人が(ロックフェラーセンターなどを)「爆買い」する時代ではない。外国人に「買われる」立場になってしまったことを自覚するべきなのである。

■少子化

もはや歯止めの利かない少子化。男女雇用機会均等法を契機とする晩婚化・非婚化が加速し、そもそも「子どもを産める女性」が減っている現状を鑑みると、この流れはどれだけ政府が「産めよ、殖やせよ」とやったところで物理的に解消する見込みがない。

一番の原因は「将来不安」であろう。これだけ「国の借金が膨らんでいる」「年金が破綻するかもしれない」「社会保険負担が爆発的に増えている」「いつまでもあると思うな会社と雇用」と聞かされて、子どもを1人育てるのに、まずは自分たちがどうなってしまうのか、子育て世代は不安でしかない。これでは子どもはつくれない。

これに加えてありうるのが、「共働き疲れ」であろう。誰もがキャリアウーマン志向であるはずがなく、「夫の稼ぎがあれば、子育てに専念したい」という女性だっているのだ。社会が本当にダイバーシティ化を目指すのならば、「女性の社会進出が絶対善」という独善的なポリコレ志向は今すぐ唾棄し、「バリキャリは思い切り働けて、そうでない人はそれなりに」生きていける社会を志向すべきなのだ。

もはや公然の秘密となっているが、「保育園に本当は落選したい」という家庭は、実は非常に(おそらく統計に出ないレベルで)多いのである。実際はこんなこと正直にSNSに上げようものなら大炎上必至なので「表になかなか出てこない」だけだ。

育児休業の給付や企業の育休制度が「保育園の有無」で決まるから、すぐに復帰する気がない人でも、「とりあえず保育園に申し込む」(で、当選しても辞退する)のである。一部は、「当選したからやっぱり通わせざるを得ない」という人もいる。だから、倍率は見かけ上はすごく上がり、一時期ブームになった「保育園落ちた」云々みたいな家も出てくるのである。どうも、こんな厄介なことになっているのだ。1億2000万人のうち、どんなに多くても90万人×3(年間)=270万人=全国民の2.3%というニッチな問題なので、高齢者の医療問題(全国民の28.4%)と比べるとどうしても「緊急の」政策課題とはなりにくいのだ。

これは制度の問題である。保育園等に関係なく、育児休業給付金と同等の給付を一律で2年間受けられるようにすればよいだけだ(社保の免除を含む)。これだけで保育園の倍率はぐんと下がる。あとはバリキャリでも、家庭に入るでも、好きに選択したらよいのだ。

ちなみに予算規模は、例えば平均支給額151万円×90万人(年間出生数)=1兆3590億円となる。これはちょうど、(19年12月時点の)東京五輪の想定経費(1兆3000億円)とほぼ同額でもあり、また、少し古いが2015年度に会計検査院が指摘した「税金の無駄遣い」指摘額(1兆2000億円)とも近似している(※ミスリードを防ぐために申し添えておくと、17年度は過去10年で最小の1156億円とされているので、年度によってその規模はことなることは特に記しておきたい)。

たぶん、これくらいの規模で直接給付を行わないと、「子どもを産むことが不安」な社会は解消されないと思われる。

もっとも、これをしたからといって、母親の絶対数が少なくなっている以上、出生数の「下支え」にはなっても、ここから劇的に「100万人」「150万人」と出生数が回復するわけではないのだが・・・

■再雇用と賃金抑制

一昔前まで、日本は高齢化によって深刻な人手不足になるので、若者の給与水準が上がるはず・・・とまことしやかにささやかれていた。しかし、実態はそうなっていない。なぜならば、定年を迎えた団塊の世代が、豊富な「経験」と「知識」をもって、再雇用、シニアワークに勤しんでいるからである。

シニア労働者は、企業にとっては「安い賃金で経験値の高い労働者を雇用できる」というメリットがあり、政府にとっては「税金の払い手が増える(年金の貰い手が減る)」というメリットがあり、本人たちにとっても「ボケ防止になる」というメリットがある。誰も損をしないシステムなのだ。

だが、これも世の常。「経験」という誰も逆らえない財産をもとに、いつまでも一線を引かない年寄りがいればいるほど、若者の機会と、ひいては社会の活力は奪われていくのである。

もはや日本は「老人の国」。票も老人が持っていれば、カネも老人のもの。若者は金も権力もないから、絶対に逆らえない。そして、どんどんカネを吸い上げられ、いつまでも苦しんでいく。

■消費崩壊

高齢化で所得税の担い手が減り、グローバル化によって法人税も安定財源ではなくなってきた。本来、税はビルトインスタビライザーの機能を果たすべきものだった。しかし政府は「経済の安定」ではなく、「安定した財源確保」を優先し、もっとも「広く浅く」税を徴収できる手段である「消費税」を、ついに財源のトップに据えてしまった。もはや本末転倒ここに極まれり、である。

誰でも生きている限りは消費をするから、この国で生活させてやる証として、消費額の1割は税として持っていくぜ、と。つまりはそういうことだ。人頭税に等しい。

さらにここに謎の軽減税率やポイント還元が絡み合って、異常に複雑な税制となってしまった。もはや「どの店が10%で、どこが5%で・・・」と、いちいち考えてはいられない状況だ。様々な税率が絡み合い、正確にこの制度を説明できる人はもはや皆無であろう。

おじいさん・おばあさん世代でかたくなにキャッシュレスに移行しない人の言い分を見てみると、「なんだかよくわからないから」「大変そうだから」である。

どう考えても優先度の高い医薬品が「10%」で、発行者のプロパガンダメディアである新聞が「8%」など、論理的に説明のつかないことをやっている。こんなもの、誰も「よくわからない」のだ。一言でいうと、「面倒くさい」のである。

かつて三越の前身である越後屋は、世界で初めて定価販売(現金掛け値なし)を行い、その明朗会計で現代に続く栄華を極めた。

人様に金を出させるのなら、「わかりやすく、シンプルに」が一番。だからただでさえ「10%」と痛税感が高いところへ、こんな複雑なシステムを入れてしまっては、消費意欲を削ぐに決まっているではないか、と。

■ポイント、ポイント、・・・・ポイント。

官製キャッシュレスブームにより、多数のフェリカないしクレカ決済、およびQRコード決済が、まさに雨後の筍のように生まれている。

釣り文句は「ポイント還元」。事業者は、消費者のことを「ポイントに釣られるダボハゼ」ぐらいにしか思っていないのではないか・・・というくらい、徹底的にB層を狙って「ポイント、ポイント」で攻めている。

あんなに人を馬鹿にした広告で、腹を立てるなというほうがおかしい。「ポイントあげます」と、「ポイント」に言葉を変えるとソフトなのだが、「ポイント」の部分を「金」に変えると要は「金やるぞ、ほら。金が欲しいんだろ?」としか言っていない。

口を開けば誰もかれもがポイント、ポイント。これを「金」に変えると、いかに拝金資本主義の奴隷として我が国の庶民が資本に飼い慣らされてしまったか、が分かるというものだ。

こう書いたものの、消費者側からするとキャッシュレス決済にしないと大損だ。というのも、手数料無料のクレカは顧客側からはリボで、店舗側からは決済手数料で儲けている。ポイント還元の原資は店舗側からの決済手数料だ。畢竟、いくらポイントが還元されたところで価格にその原資は上乗せされているからである。

「いつもニコニコ現金払い」は、態度としては清貧だが、しかし、「同じ阿保なら踊らにゃソンソン」で、ポイントを還元してもらわないとはじまらないのだ。

ちなみに有名な話だが、「ポイント還元」と「割引」はまったく違う概念である。どちらかを選べと言われたら、間違いなく「割引」を選ぶことが肝要だ。

例えば10%の「還元」と「割引」でみてみよう。定価1000円(税抜)の品物を買ったとする。

(1)「10%ポイント還元」の場合は・・・
*1回目の買い物
【支払】1000円+100円(消費税)=1100円
【還元】1000円×0.1=100ポイント(円)

*次回の買い物で同じ商品をポイントを使って購入した場合
【支払】1000円-100ポイント(円)+90円(消費税)=990円
【還元】900円×0.1=90ポイント(円)

*合計のポイント(購入権利):190ポイント/2100円当たり(9.09%)

(2)「10%割引」の場合は・・・
*1回目の買い物
【支払】1000円×0.9+90円(消費税)=990円
【値引】1100円-990円=110円

*次回買い物でも10%割引で購入した場合
【支払】1000円×0.9+90円(消費税)=990円
【値引】1100円-990円=110円

*合計の割引額:220円/2200円当たり(10%)

ちなみにこれを数式化すると、以下のようになる(ポイント還元率(%)=xとおくものとする)。

実割引率Y(%)= X /( 100% + X )

この計算式で行くと、以下の通りとなる。

  • 3%還元→ 2.91%
  • 5% → 4.76%
  • 10% → 9.09%
  • 20% → 16.67%

よく「20%還元!」という広告を目にするが、実割引率は「16.67%」である。実店舗で「2割引」をしているのであれば、目先のポイント還元に気を取られることなく、躊躇なくそちらでの購入をしてよいことになる。

■地上波テレビ離れ

ゴールデンタイムに君臨していた「ドラえもん」と「クレヨンしんちゃん」が、ついに「土曜日の夕方」という、当の子どもすら見ていない時間に遷されてしまった。

もはや地上波テレビ局は、「子どもや若者の見るもの」ではなく、「高齢者が見るもの」に完全にシフトチェンジした感がある。

会社でも20代の若者が「テレビを持っていない」というのがもはや普通になった。肌感覚だが、地上波テレビを習慣的にみているのは、生まれた時からテレビ漬けで育った団塊の世代前後の高齢者と、30代中盤以降の独身世帯である。

統計でもなんでもなく恐縮だが、これ以外の世代は、もう、驚くほど地上波テレビに依存した生活を送っていない。

アマゾンプライムを筆頭に、「見たいときに、見たい番組」を好き勝手にみられるし、地上波で本当に見たい番組は録画することができる。タイムシフト視聴がむしろ習慣化しており、「決まった時間に、決まった番組を見る」ということはおろか、「ながら見」自体も消えようとしている。ちなみにキッズは「YouTube」でヒカキンやマイクラの実況を見ており、なおさらテレビからは遠ざかっている感がある(ヒカキンの動画の視聴数を見ると、「テレビに出演する」系の動画より、圧倒的に「やってみた」系のほうが稼いでいる)。

ちなみにまだ、かろうじて「人気のテレビ番組」は残っているが、それでも週間視聴率が20%に届かないことが普通になった。むかしは「5時から男のグロンサン」など、「名物CM」があったものだが、今や「人気のCM」などまったく思い浮かばない。

よく、「テレビ離れ」というが、何のことはない。みんな「画面」は見ているのだ。離れたのは、明確に「地上波テレビ」そして「若者」である。

ゴールデンタイムに健康ものは若者にとって興味がない。クイズも学校の勉強でたくさんだ。草食化が進んでいるのに恋愛ドラマでもない。もはや「地上波テレビ」と「若者」の組み合わせが終わっているのだ。

・・・今はそれでよい。高齢者で視聴率がとれるのだから。ただ、高齢者が入れ替わり、「習慣化(馴化教育ともいう)」を受けていない若者たちがいずれ高齢者になった時、果たして今までのような番組を見るのだろうか。

■東京オリンピック狂騒曲

驚いた。札幌でマラソンをやるとは。
驚いた。天井スカスカのスタジアムができるとは。
驚いた。ボランティアとして、学徒動員をやるとは。

驚いた。暑さ対策が「朝顔」と「氷風呂」とは。

一度はじめたら、とまらない。なぜなら、「やること」が目的になってしまっているから。異を唱えれば非国民。心頭滅却すれば火もまた涼し。戦時中の精神構造とどこが違うのか。

軽減税率で骨抜きにされたマスコミも、こぞってこの「国力衰退の象徴」たる儀式に異を唱えることなく協力するのだ。戦時中の精神構造とどこが違うのか。

もはや完全に残念なことになっている(出だしのエンブレムから)のに、臭いものにはふたをして、とにかくやっちゃえ、どうせ国民の金だから、と。

■まとめ

【政治家(せいじか)】特定の国民の利益を代表して、人のお金で自分のやりたいことをやる人のこと。

【報道(ほうどう)】国民のためと称して、国民を為政者の思うままにコントロールできるよう、一律で白痴化する手段のこと。


公開:2019年12月23日 

※これは思考実験です。小説風にお届けします。前回掲載した「ポリコレ万歳20XX」の「逆」バージョンです。つまり・・・


20XX年X月X日

朝、目覚ましの音が鳴った。やわらかい女性の声だ。
「午前7時です。誰もが起きていらっしゃる時間ですわよ。午前7時です。誰もが起ききていらっしゃる時間ですわよ・・・」

4年前の「ポリコレ抑制法(政治的に正しい社会抑制法)」の施行に伴い、ステレオタイプの社会を全国民挙げて進めていくことになった。

例えば目覚まし時計の声1つをとっても、ポリコレ抑制法の恩恵を受けている。毎朝決まった時間に女性の声で起こされたほうが心地よいに決まっているのだ。

ポリコレ抑制法第1条にはこうある。「社会の統制を守るため、万人のあらゆる状況に配慮して社会を構成することを禁ずる」

・・・私は眠い目をこすりながらテレビをつけた。ニュースを見ようと思ったからだ。NHKのニュースをつける。今日から、NHKは完全に税金で運営されることになった。受信料を支払う必要はもうないのだ。「社会構成員全員が、等しく情報に触れられる権利」が、「受益者負担の原則」を上回った好例と言える。

50代のベテラン男性アナウンサーと、20代のアシスタントの女性が出てくる代わり映えのしないニュース番組が、「ステレオタイプの重要性」を伝えるニュースを延々と読み上げている。

ポリコレ抑制法は社会のあらゆる「政治的に正しい」動きを規制しており、毎日のようにポリコレ抑制精神に反する人々の摘発、糾弾が続いている。

ポリコレ抑制法ができてからというもの、政治の世界では約1%の政治家が「政治的に正しい発言」のせいで「欺瞞だ」「偽善だ」と糾弾され辞任したが、むかしのいわゆる「失言」で辞任する政治家は皆無になった。

変な揚げ足取りがなくなったおかげで国会論議がとてもスムーズに進んで、政策決定のスピードは段違いに早くなっている。経済界でも多くの企業がポリコレ抑制法のおかげで余計な消費者保護対策から逃れ、史上空前の好景気を謳歌している。いいことづくめだ。

世の中はどんどん「本音」で満ち溢れてきている。飛び込むニュース記事の見出しは「真実」「実話」「糾弾」のオンパレードで、嘘偽りがまるでなく、まるでユートピアのようだ。4年前と比べると、本当に夢のような世界。

そんなことを思いながら、朝食の納豆を準備する。納豆のパッケージには注意書きが1つも書いていない。商品名はおろか、賞味期限すらわからない。ただ「納豆」ということだけがわかる。シンプルであり、すべて「自己責任」の世界だ。

いつ買ったものか忘れたが、とにかく私は早く納豆が食べたかったので、特に何も考えずにパッケージを開けた。ちょっとすえたにおいがしたが・・・

***

これから出勤だ。私は経営コンサルティングの会社に勤めている。ポリコレ抑制法によって「働き方改革」は棄却され、「会社に決まった時間に出社する」という常識は強化されていった。誰もが薄々気づいていたことだが、皆で同じ時間に同じことをしたほうが、気が楽だったのだ(Aさんは9時出勤、Bさんはフレックス、Cさんはリモートなど、ややこしくてしょうがない!)。毎朝9時に出社すればよいのだが、今日は打ち合わせ。早く出社したほうが上司の評価も高まるというものだ。

昨晩、風呂敷残業で作ったプレゼン資料を鞄にしまう。コンプライアンス抑制も進み、顧客データは、いつでも自由に持ち出せるようになった(何の事前申請もいらなくなって、仕事がスムーズになった)。おかげで持ち帰り残業もし放題だ。Yシャツにネクタイ、スーツを着て、革靴を履いていつも通り出社である。

駅に着いた。いつもと変わらぬ改札口を抜け、ホームで電車を待つ。アナウンスが流れている。「まもなく、1番線に電車が参ります。」

電車が来た。女性専用車両はとっくの昔に消え去ったが、とにかく通勤電車は混んでいる。通勤は60分くらいだが座れやしないので、ただただ流れに身を任せる無駄な時間だ。おっさんが隣でタバコを吸っている。ポリコレ抑制法の結果、電車内の禁煙は「個人の嗜好の自由」にもとる、とのことで禁止されたのだ。そもそも喫煙者は税金で社会にも貢献している。これもお国のためだ、私はむせながら燻る紫煙をがまんした。

***

会社の最寄り駅につく。少し時間がある。トイレに寄ろう。私は特に疑問も持たずに「男性専用」と書かれたトイレに入り、気分良く用を足した。

***

会社にはすでにチームのメンバーがそろっていた。毎日顔を付け合わせている、どうということもない仲だ。

上司は山田。50代の男性だ。単身赴任中で、1男1女の父でもある。もうすぐ息子さんは大学受験なので、毎日のように願掛けをしている。

実務のトップは佐藤。40代の男性だ。社内結婚をした奥さんがいて(寿退社)、もうすぐ中学生になる娘が1人。

ほかに、田中。30代の男性だ。もうすぐ小学生になる娘が1人。

アシスタントが女性の中野。会社の近くに住む20代の独身だ。よく、山田から「彼氏はいるの?」と軽口をたたかれている。一昔前ならハラスメントとられたようだが、ポリコレ抑制法が登場してからは、むしろ「周囲から口うるさく言われたほうが晩婚化の抑止になる」と、こういった発言は奨励されているのだ・・・

山田、佐藤、田中、中野、そして私が、1つの部署として契約企業の経営コンサルティングに携わっているのである。

***

以下、「政治的に正しい」が抑制された生活は続く・・・

  
公開:2019年11月18日

※これは思考実験です。小説風にお届けします。


20XX年X月X日

朝、目覚ましの音が鳴った。AIの声だ。
「午前7時です。この時間に音を鳴らしてくださいというお客様の事前の設定をもとにこの音声は流れております。午前7時です。この時間に音を・・・」

いつもながら理屈っぽい目覚ましだ。4年前の「ポリコレ法(政治的に正しい社会増進法)」の施行に伴い、単純に「おはようございます」という音声を流すことは違法になった。なぜなら、この時間から寝る人もいるからだ。ポリコレ法第1条にはこうある。「万人のあらゆる状況に配慮して社会は構成されなければならない」

・・・私は眠い目をこすりながらテレビをつけた。ニュースを見ようと思ったからだ。NHKのニュースをつけようとするが、つかない。あ、そうだった。今日から、「受益者負担の原則」が徹底され、ジャンルごとに定められた料金を払わないとNHKの番組を見ることができなくなったのだった。「災害緊急放送」は無料なので申し込んでおいたのだが、「ニュース・報道」のジャンルに登録するのを忘れていた。月500円はちょっと躊躇する額だ。

しかたないので、月300円で契約している広告なしのネットニュースを見る。

ポリコレ法は社会のあらゆる「政治的に正しい」動きを規定しており、毎日のようにポリコレに反する奴らの摘発、糾弾が続いている。

ポリコレ法ができてからというもの、政治の世界ではほぼ9割の政治家が失言で辞任し、特に害のない発言しかしないお飾りの議員だけが国会に残っている。経済界でも多くの企業がポリコレ法に引っ掛かり、巨額の罰金が科せられてどこも火の車だ。

世の中はどんどん「正義」で満ち溢れてきている。飛び込むニュース記事の見出しは「平和」「平等」「博愛」のオンパレードで、まるでユートピアのようだ。4年前と比べると、本当に夢のような世界。

そんなことを思いながら、朝食の納豆を準備する。納豆のパッケージには注意書きがびっしり詰められたマイクロコードがある。これをスマホで読み込んで、「同意」を押さないと蓋が開けられない仕組みだ。

賞味期限について、その根拠。成分表示について、1つ1つの製法や産地、トレーサビリティについて。それぞれの成分のアレルギーの可能性について。正しい食べ方について。調理の方法と注意点について。また、「納豆は”畑の肉”と称されるが、実際は肉ではありませんのでベジタリアンの方でも安心してお召し上がりいただけます」という表記もあった。

全部で1TBもあるファイルだが、すっかり普及した5G回線によって、スマホの画面には注意書きが一瞬で読み込まれる。私は早く納豆が食べたかったので、特に何も考えずに「同意」を押した。

***

これから出勤だ。私は経営コンサルティングの会社に勤めている。ポリコレ法によって「働き方改革」が浸透し、「会社に決まった時間に出社する」という常識は雲散霧消した。いつ出社したってよいのだが、今日は打ち合わせ。本当はオンラインで家にいたまま打ち合わせをしたかったのだが、会社のサーバーに入っている顧客の経営情報を勝手に持ち出せない(なにせUSBメモリに1行のメモを入れるだけで、数百のセキュリティ認証手順が必要なものだから)ので、「会社でやったほうが早いね」ということになっただけだ。TシャツにGパンをはき、スニーカーを選んで3か月ぶりの出社である。

駅に着いた。1つしかない「右利き専用改札口」を抜け、安全柵で囲まれたホームで電車を待つ。アナウンスが流れている。「まもなく、1番線に電車が参ります。」最初は東京弁だ。続いて「まもなく、1番線に電車が参りまっせ。」と大阪弁。さらに「まもなく、1番線に電車が参るんやでなも。」と名古屋弁。・・・このあと、法律で決まっている20種類の方言でアナウンスが流れ続ける。「ことばの多様性の尊重」というやつらしい。来月からは「標準方言」が36種類にまで増やされることがすでに閣議決定されている。

アナウンスは続いて、英語(米英2種類)、中国語(2種類)、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、アラビア語・・・エスペラント語まで、50種類が流れ続ける。これまた「日本で幅広く使われている言語」を流すことが決まっているからだ。「ことばのユニバーサル化を推進する」というやつだそうだ。これも来月からはなんと100種類まで拡充されるという。

一言「電車が来ます」と放送するだけで3分半もかかるので、都市部ではずっと音声が流れっぱなし状態だ。もはや誰も聞いていない。何のためにやっているのだろう、ふと疑問もわく。

疑問といえば、駅や町のあらゆる看板は500種類もの言語で埋め尽くされていて、もはや何が書いてあるか肉眼ではまったく読めなくなっている。これも何のためにやっているのだろう、とふと思うこともあるのだが、そんなことを公に言えば「ユートピアを破壊する悪魔」と罵られるので誰も言わない。

もっとも、幸いにして「スマートグラス」を誰もが持っているので、それを看板にかざすとAR画面に、その人が設定した言語で看板が表示されるようになっているのだが・・・。

電車が来た。1本目は女性専用車両、妊婦専用車両、女子学生専用車両・・と、「ウーマン号」だったので私は乗れなかった。6本くらい待って、ようやく「日本人男性、独身、30代、会社員、標準年収」が乗れる車両を1両だけ見つけたので、それに乗り込む。

ラッシュなどとっくの昔に消え去ったので、久しぶりの通勤電車は空いていて快適だ。20分くらいだが座って乗りたかったので、500円を支払って「座席着席eチケット」を使う。「立って乗っても座って乗っても同じ運賃なのはおかしい」というポリコレの原則に従い、「電車やバスなどの公共交通機関で座るときはプレミア料金を支払う」ことが決まったのは3年前の今頃だったな、と懐かしく思う。

***

会社の最寄り駅につく。少し時間がある。トイレに寄ろう。今は「性差別禁止」が厳格に社会化され、トイレの種類もすごく増えた。昔は「男女」しかなかったというのだから、おぞましいことこの上ない。

今は「M・W・L・G・B・T・T・Q・Q・I・A・A・P」の13種類の性的志向別にトイレ設置が義務付けられている。多くの駅でエキナカが廃止され、駅の中はトイレだらけになった。しかし、ポリコレを推進していく上ではやむを得ぬこと、と鉄道事業者は「駅のポリコレ化」を進めていったのである。これもまた、よい時代だ。

そんなことを考えながら、私は「男」のトイレに入り、気分良く用を足した。

***

会社にはすでにプロジェクト・チームのメンバーがそろっていた。全員がそろうのは1年ぶりだ。

上司はキャサリン。40代独身の女性である。結婚はせず、3人の男性パートナーと週替わりで暮らしているらしい。実務のトップはチェン。50代のゲイだ。20代の女性と結婚していて、子どもが生まれたばかり。半年間の育休明けである。

ほかに、20代の男子学生リー。彼はとても優秀で、中学のときに飛び級で大学に入り、今は3つの仕事をこなす傍らうちでも働いている。ビーガンで、エコロジストのミニマリスト。いつもほとんど何も身に着けておらず、冬はとても寒そうだ。

もう1人が女性の中野(旧姓使用)。30代の子持ちだ。4人の子どもがいる。中野(旧姓使用)は、結婚したときに夫婦別姓にしようと、もともとの姓である「中野」で「住民登録センター」に登録したところ、間違えて中野(旧姓使用)と打ち込んでしまったため、本名が中野(旧姓使用)になってしまったという面白いおばさんだ。本人もネタにしていて、初対面の人にいつも「どうも、中野 かっこ 旧姓使用 かっことじる です」と自己紹介して強烈なインパクトを周囲に与えている。

このキャサリン、チェン、リー、中野(旧姓使用)、そして私が、1つのチームを組んで契約企業の経営コンサルティングを行っているのである。

***

以下、「政治的に正しい」生活は続く・・・


公開:2019年11月4日

NHKは慌てすぎだ。いきなり3分番組『受信料と公共放送についてご理解いただくために』を始めたからだ。それも何度も。「まさか」の1政党の大躍進のためのアレルギー反応とはいえ、はっきり言って異常である。

受信料(しかも一番高い衛星放送契約だ)を払っている立場からすると、こんな教条的な番組を作る金をまず返せ、と思う。お金を払っている視聴者からすると「金を払っていない人」のことなど実はどうでもよくて、「金を払っている人」のための施策をちゃんとしろよ、と強く思う。それが普通ではないか。

しかし本当に番組の内容には驚いた。とにかく「いいから金払え」というとても脅迫的な内容だったからだ。こちらはしっかり視聴料を払っているのに、なぜ視聴者を脅すようなことをするのか。はっきり言って悲しかった。「加入するときに散々脅迫しているのだから、見てからも脅迫するなんてひどい」としか思わない。

以下、『受信料と公共放送についてご理解いただくために』で放送された12の主張について、しっかりと突っ込みを入れていく。

【主張1)最近、受信料に関する問い合わせが多い】
→そもそも、「問い合わせ」とはどのような内容なのか。その問い合わせへの回答は適切になされているのか。

【主張2)放送法解説のくだり】
→法律を盾に視聴者を脅すわけか。
→法律を盾に取るのなら、究極的には「根拠法を変える行動をとれる議員を当選させる」とか、「最高裁判所裁判官の国民審査をする」というのも国民の選択肢であることは、決して忘れてはならない。 今回の「N国」の躍進は、そういう声が国民の中である(単純に「見えやすい既得権益の権化」としてヘイトを集めている、あるいは安定政権下で上級国民に対する庶民のルサンチマンが蓄積している)ということである。「法律を盾に取る」のは、余計にルサンチマンを掻き立てる。はっきり言って悪手だ。
→というか、「法で運営」を主張するのなら、<役員>を国民によって選挙させろ、という議論にもなるのではないか。果たしてそれでもよいのか。

余談だが、こちらがNHKにされたことは絶対に忘れないぞ。
<我が家が受けたNHKからの怖い訪問>
1.私の妻が独身時代、テレビが家になくて、携帯もガラケーでワンセグも視聴できない状態だというのに、「携帯でも金は払うもんだ!」と強く押しかけられてものすごく怖かった、という話。
2.新婚時代、ケーブルにテレビをつないでもいないのに「電波を検知しました」と加入を迫ってきた話。
3.そして数年後。引っ越した先のマンションでの出来事。小さな娘を寝かしつける時間帯に無理やり押しかけて、「BSが見られるマンションなので加入しなければなりません」と言って、接続するケーブルを買っていない、と言っているのに無理やり「分配器」と「ケーブル」を買うことを約束させ、高額な衛星放送契約を(夫の留守中に)結ばせた話。その場でNHKの営業センターに電話をして、「合意の下です」という宣言もさせられた。

これらのやり口は絶対に許さない。絶対にだ。まずはNHK自身が、こういう加入のさせ方をさせているという事実を認めるべきではないのか。

【主張3)放送受信規約説明のくだり】
→典型的なミスリードである。「法律」と「規約」の違いを敢えて述べないこすっからさしか感じない。
【主張4)特定の利益や視聴率に左右されず】
→では今後、紅白や大河ドラマや朝の連ドラの視聴率が1%でも気にしない、ということか。
→あまり大っぴらには言わないが、「みなさまのNHK」を標榜しておいて、実は<高齢者しか見ていない>NHKになっているのではないか。どこが「みなさま」なのか。すでに高齢者の利益にしかなっていないのではないか。
→そもそも、「特定の利益に左右されない」のだったら「N国」を「ニュース7」や「NHKスペシャル」で取り上げろ、という話でもある。 明らかに社会現象なのだから。
→そして利益を求めないなら、テレビテキストはただで配り、オンデマンドも無償化するということなのか。

【主張5)福祉/防災/過疎地放送】
→弱者を盾にしてどうする。批判できない主体を持ってくるのは卑怯だ。というか、「弱者救済」「非常時対策」を標榜するのなら、それこそ税金を投入したらどうか。

【主張6)国際放送もやっています】
→放送法に規定があるのは知っているが、原則論で言えば海外の視聴者からも徴収すればよいのではないか。なぜ、海外の視聴者のために日本在住の視聴者が負担をしなければならないのか。それがそもそも不公平ではないか。その明確な説明が無理なら、「公共性が高い(らしい)海外放送」はすべて税金(※)でやればよい話だ。
(※国から年間30億円を超える交付金=税金が出ていることは承知の上で書いている。私は「すべて」と書いた。)

【主張7)放送技術開発もがんばっています】
→技術をないがしろにするものではないが、それでも「お前らのためにやっているんだ」という上から目線が非常に気になる。こういう言い方をするのなら、果たして「4K」「8K」を「視聴者側から」要求しただろうか、と言い返すほかない。 技術は大切だと思うだけに、こういう「お願い番組」で技術開発を全面に出して視聴料徴収の根拠にするのは、むしろ技術への冒涜だと私は憤る。

【主張8)スマホの普及で必要な情報が簡単に手に入れられるようになった】
→だから何だというのか。テレビと関係ないではないか。 というか、大多数の国民にとって、メディアが限られた時代と比べて、情報源が広がることはむしろとてもいいことではないか。

【主張9)(ネットやスマホのせいで)関心のない多様な課題に触れることができなくなる】
→そもそもNHKを見ない層にそれを訴えても無駄ではないか。
→何より、得る情報を選択する権利は国民にある。「よい情報に国民を善導しよう」などそもそも大きなお世話である。そういう立ち位置がそもそも尊大だと思わないのか。
→国民に与える情報をコントロールしようとするNHK側の傲慢な態度こそ、問題である。これに気づかずこういう放送をしてしまうことそのものが、大問題であることに気づくべきだ。

【主張10)誰にも簡単に発信でき、不確かな情報が拡散する】
→不確かな情報は、マスメディアからも大量発信されていると思うが、どうか。
→小学生のとき、「リサイクル」といういかにもなテーマでNHKが自分の小学校の取材に入ったときも、取材時間に合わせて列を作って順番に缶を捨てさせられるなど、普段と全然違う状態でゴミを捨てさせられたぞ。これのどこが「正確」なんだ?
→NHKとは無関係だが、「サンゴ事件」だけでなく、数々の虚報で内憂外患を誘発している新聞社もあるじゃないか。 マスメディアも不確かな情報を拡散しているという自覚はないのか。どうして自分たちだけ無謬性があると信じて疑わないのか。

【主張11)(主張8・9)〜を懸念する声もあります】
→誰の声よ。自分の声ではないのか。 「声もあります」といって、「自分たちの主張ではないですよ」という逃げを打つ。こんなの卑怯以外の何物でもないじゃないか。

【主張12)視聴料を払っている人が不公平と感じることがないよう〜丁寧に説明する】
→だから「公平性」を訴えるなら「ペイビュー方式」もしくは「スクランブル」しかないじゃないか。今の「誰でも見られる環境」がそもそも不公平なのではないか。 先述したが、海外視聴者からも徴収しなければ、そもそも国際レベルで不公平ではないのか。
→受益者負担の観点からみれば、「見ていない人の分を割り引け」、という議論にまで発展しかねない。現にそう主張する向きも出ているではないか。
→そもそも「公平性」はNHKが言うことではなく、払っている側が主張すべきことだ。

・・・ということで、今回のこの『受信料と公共放送についてご理解いただくために』は、余計に「対上級国民ヘイト」を惹起しかねない番組であり、お金を払っている身としてはとても残念であった。

そもそも、厄介な相手に絡まれたときの鉄則は「相手にしない」ことだ。客観的に見れば、よせばいいのにどんどんどんどん自分から傷口を大きくしてしまっている。

「国民から国政レベルで信任が得られるくらいには、NHKが忌避されている」という事実に慌てまくって、NHKは突然、ネット上に「いいから金払え。法律で決まってんのやぞ」という脅迫的なPDFを掲載した。かと思えば、放送でも「いいから金払え」という国民脅迫をやってしまった。脅迫だけでない。この放送は、保身と啓蒙性ばかりが先立ち、全然納得できる内容がない、という衝撃的なものだった。

こうやってしまった以上、ますます「NHKってこのままでいいの?」という国民的議論は拡散していく。「権力者の保身」ほど、庶民のルサンチマンを掻き立てるものはないからだ。

そもそもNHKが恐れるのは、「ほとんど見ていないがまあ支払ってはいるよ」「徴収方法に納得はしていないが、法律だし払うもんは払うよ」という、圧倒的大多数、すなわちサイレントマジョリティーが動くことだろう。スクランブル化したら、真っ先に(無理矢理結ばされた)衛星契約は外そう、と思っている人も、私も含めて少なくはあるまい。こうした視聴者離れを何より危惧しているはずだ。

一般的にサイレントマジョリティは日常生活に忙しいので、ホットエントリーにならない限りは、いずれ忘れていく。NHKは「バカな国民を忘れさせる」方向に舵を切ればよかったのだ。しかし現実は、大慌てで、多くの国民の神経を逆なでするような燃料投下をしてしまった。

いや、普通に考えてこの展開、現在進行形で面白過ぎるでしょ。「強き者との闘い」というのは、庶民にとって物凄いエンタテインメントでしかないからである。

言うなれば、コロッセオの中で、猛獣使い(N国)と猛獣(NHK)が闘っている図である。これは娯楽だ。庶民はNHKの視聴料(=入場料)を払って、あるいは払わずに、ただただN国とNHKのバトルを愉しむのである。

今後は「新社屋建設」「ネットからの徴収」など、より庶民のルサンチマンを掻き立てるイベントが待っている。「N国」がちょっと動き出しただけでこんなに慌てて、他人事ながら心配になってくる。無謬性を標榜する大組織ほど批判に弱いということか。もう少し落ち着けば、こんなに面白いことにはならなかったのに。残念だ(棒読み)。

さて。冷静に日本の政治状況を考えて、実際にNHKがスクランブル化する可能性は低いと思う。しかし、それでも今回の参院選と続く「N国騒動」を受けて、NHKの「インターネットからの視聴料聴取」などの新たな財源確保作戦は格段にハードルが上がったと思われる。「好き勝手はできない」という緊張感が為政者(NHKも当然含まれる)と国民との間に醸成されているのは、非常によいことだ。

しかし、繰り返しになるが、返す返すも残念な放送であった。視聴者に向かって「いいから金払え」はないだろう。例えればすぐわかる。レストランで飯食ってる客に「無銭飲食はダメだよ。みんなおカネ出してるからあんたもちゃんと金払ってね」とメニューで言ってるようなもんだ。普通にとんでもなく失礼である。

本来はそうではなくて、ごくごく普通に「視聴料に見合う番組づくりとサービスを提供して参ります」と言えば、こんな憎悪を集めることもなかったのだ(「視聴料に見合う番組とサービス」に自信がない、あるいは提供できていないというなら、それこそ「受益者負担」の公平性を毀損しているではないか)。 結果的に、ますます面白いエンタテインメントが展開されることになるではないか。残念である(楽しみだ!)。

ともかく、「いいから金払え」「公平性が大事」というのがいかに自己矛盾に満ちた発言か。そして失礼極まりない発言か。こういう無神経極まりない放送を平気でできる傲慢さを、視聴者は決して許してはならないのである。

私はNHKの『ブラタモリ」やドキュメント番組、教育番組にはとてもお世話になっている。NHKの良質な番組には期待するからこそ、まずはNHKの自己改革に期待するのだ。しかし、それができないなら「政治的改革」に期待するしかない。今回のNHKの放送は、NHK問題の根深さを、沈黙せる子羊たちに気づかせてしまったのではあるまいか。


公開:2019年8月12日

19年8月2日未明に「消費税ブギ」という記事を投稿した。その数時間後、2日の日中のニュースが、これだ。
・「夏のボーナス3.4%下落 経団連の最終集計」(朝日)
・「夏のボーナス3%減」(日経)

景気が良いのにボーナスが下がるということはあり得ない。どう取り繕っても、景気は決して良くなっていない。実額こそ過去2番目の水準だというが、物価も社会保障費も上がっている中で、「実額」なぞ何の意味もない。官製で株価や賃金、東京一極集中現象で不動産価格、自由貿易の均衡破綻で輸入物価がそれぞれ高騰しているだけで、内需は何1つ改善されていないのだ(余談だが、「働き方改革」で残業代頼みの家計が狂ってきているのも要因だろう)。

ここへきて消費増税だ。普通の感覚では、たぶん家計にとどめを刺す一撃になると直観されるわけだが、それでももはや「賛成か、反対か」の領域ではない。「どう影響をするか」だけを考えるべきフェーズに入った。

財務省は、「景気に左右されない財源を確保し、税収の安定化を図ることを以て、国家国民の安寧を図る」ことがレゾンデートルだ。「安定した財源の確保」と聞くと、何となく、理屈では分かったような気もする。

しかし、よくよく考えてみると、これはすなわち「国は景気を安定させることではなく、どんなときでも税を徴収できる仕組みづくりを優先します」と言っていることと同義である。

そもそもの「国家の繁栄と国民の福祉増進のために税金を徴収する」のではなく、「税金を安定して徴収するために、税金を徴収しやすい仕組みをつくる」というループした状況が目の前にはある。「安定財源の確保」が絶対のアイデンティティになってしまったのだ。これを「手段の目的化」と言わずして、何というのだろうか。

圧倒的大多数の国民が、少数精鋭の秀才頭脳集団の構築した強靭な理屈に勝てるわけがない。ここで国民ができることはただ1つ。家計防衛である。

今の政権は現状改善主義、すなわち「よりまし」の民意で存立している。深刻に景気が悪化すれば、民意は容易に靡く。その萌芽は、今回の参院選でもすでに顕れはじめている。超低投票率であるにもかかわらず、与党で(当然行くと思われていた)3分の2を確保できず、「N国」が国政に進出したことからも明らかだ。

「現状の良化」に現政権の支持基盤がある以上、「現状の悪化」によって、政策転換の芽が生まれるのである。だからしてドラスティックに「家計防衛」をすることで、政策対処のスピードを早めるべきなのだ。これが逆説的ではあるが、消費増税を乗り切るための解なのだと信ずる。


公開:2019年8月3日
6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16

アーカイブ