「接触を8割減らす」。どうもこれが、今、日本社会において国民・市民が参画できる唯一にして最大の社会貢献であるようだ。
もっともこれを明確に解説していたのが、小池都知事とヒカキンの対談動画であった。ここで「接触を8割減らすことの意義」が非常にわかりやすく解説されていた。すなわち、
- 感染者1人を何もしないで放っておけば5日後には2.5人が感染し、1か月後には406人にまで感染が拡大する。
- 2次感染者を半分に減らせば、5日後にはこれを1.25人にできるので、1か月後には15人にまで抑えられる。
- そして接触を75%減らすことができれば、5日後には感染者が0.625人となり、1か月後には2.5人という水準にまで減らせる
というロジックである。だから、「8割減」が必要なのだ。
ちなみにこの動画は、大量に存在するであろう「テレビ非視聴者」層へのリーチとしては、現時点で最も効果が高い動画だと感じられた。ピコ太郎の「Wash Hand」もそうだが、「動画インフルエンサーの、拡散力」は、社会にとって今、必要な力である。
そしてこの「8割減」は、可及的速やかに為される必要がある。日経の記事(4月11日付)で、「「接触7割減」では収束まで長期化 北大教授が警鐘 」という記事が掲載されていた。
これによると、
- 7割減のままでは、感染拡大抑制まで34日、効果の確認まで2か月弱かかる
- 2週間かけて段階的に(4割→6割→)「8割減」を目指すと、感染拡大抑制水準まで39日、効果の確認まで2か月程度かかる
- 8割減にしてはじめて、感染拡大抑制まで15日、効果の確認まで1か月程度になる
という。
そしてこれは誰もが懸念していることだが、この記事でも指摘されていた通り、「外出自粛を1か月以上続けると、実行が難しくなる」ということには留意しておかなければならない。何より、実行する側の精神衛生の問題にかかわってくる。もちろん、経済的にもだ。実際は学校の休校は2か月目に突入しており、これが仮に夏頃まで続くとなると、子どもの学業はもちろん、親の精神的負担はいよいよピークに達することとなる。
国も地方自治体も「経済的影響」を気にしてちぐはぐな政策をパッチワーク的に当てこんでいるようにしか見えないのだが、とにかく何が何でも「接触を8割減らし、自粛期間を最小化する」ことが、結局は長期的な経済的ダメージを最小化する最適解のようである。
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では接触を「8割減らす」とは具体的にどういうことなのか。これについては、TBSの「新・情報7DAYS ニュースキャスター」(4月11日放映)で非常にわかりやすい解説をしていた。普通のサラリーマンが「会社に出勤する」ことで「接触」が拡大することの意味することが、危機感を持って伝わる内容であった。
私なりに、その放送内容を踏まえて「オフィスに通勤するとはどういうことなのか」を記述してみる。ちなみに、「半径2メートル以内」を「接触」とここでは定義する。
すなわち、
駅の改札付近で3人に接触
駅のホームで7人に接触
朝の通勤電車の中で20人に接触
オフィスのエレベーターの中で10人に接触
オフィスの中で15人に接触
お昼のランチで、同僚3名+店員2名+客4名の計9名と接触
帰り道のコンビニで店員1名+客1名の計2名と接触
夜の居酒屋で、同僚3名+店員2名+客3名の計8名と接触
夜の通勤電車の中で15人に接触
帰り道のスーパーで店員1名、客3名の計4名と接触
とすると、1日のうちに93名と接触することになる。
仮に、オフィスへの通勤を取りやめ、在宅勤務に切り替えるとすると、
スーパーで店員1名、客3名の計4名と接触するだけとなり、容易に「8割減」を達成することができるのだ。通勤は最も「接触機会」を増やす触媒となるということが、よくわかる。
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しかし、実態は「8割減」とは程遠い。
内閣官房が「新型コロナウイルス感染症対策」というページで、所謂ビッグデータを活用し、NTTドコモの携帯電話位置情報を基にした「都市別の人口変動の推計」を公表している。
これによると、例えば4月10日(金)の渋谷周辺の人出は、2019年11月比-57.7%、宣言直前比-30.0%という水準だが、宣言発効翌日の9日比では+1.9%と「増えている」。この傾向は横浜、千葉、船橋、大宮といった都市部でも観測されている。中でも、浦和は2019年11月比でわずか-10.9%しか人出が減少しておらず、宣言直前比でも-7.7%、そして発効翌日の9日比率でも+1.7%の増加となっている(※ただし、居住者のデータを含むので、千葉・船橋・大宮・浦和といった衛星都市部では、むしろ都心部よりも人口の滞留があることは含みおいておく必要がある。参考:「横浜40%、浦和は10%… 緊急事態宣言で人の数が減少 ドコモ調べ」[産経 4/9の記事])
この減少幅では、まったく足りないことは素人目にも明らかである。「もう少し、企業が協力してくれるだろう」と高をくくっていた感のある政府は慌てたはずだ。だからこそ、散々「休業要請はもう少し様子を見てから・・」などと弱腰だった政府をして、「「出勤、7都府県は7割減」 首相、接客伴う飲食自粛を」(日経 4/11)というかなり強めのメッセージを発出せざるを得なくなているのだ(安倍首相は「どうしても必要な場合でも出勤者を最低7割は減らす」とまで言い切っている)。
政府の狙いは明確で、「緊急事態を1カ月で終える」ことだ。すべては経済のため。しかし、結局は「自粛要請はするが、カネは出さない」のであるからして、本当に実効性があるのかはかなり怪しい。
「経済を優先するあまり、目的を見失っている」のが今の政府の状況である。本来は「国民の生命財産を守る」のが政府の存在意義であって、国民の健やかな生命あっての「経済」であるはずだ。
いくら鶏が金の卵を産むからといって、無理して産ませ続けてその鶏の健康を損ねてしまえば、その「金の卵」も手に入らなくなるだ。国民の健康が損なわれてしまえば、経済もさらに立ち行かなくなる。
このままではますます国民の健康は害され、「緊急事態宣言」の対象地域が全国に拡大し、結局「緊急事態宣言」の期間が延び、政府が優先するところの経済は崩壊する。蔓延状況次第では、あれだけアレルギー反応を起こしてきた「ロックダウン」を、本当にやらなければならない非常事態に陥る危険性だってないとはいえない。
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すでに、危険な香りは漂い始めている。11日、国内の感染者は初の700人を超えるという未曽有の領域に達した(「新型コロナ 国内感染、新たに745人」[毎日 4/12])。
累計感染者の増え方を見ると、すでに「感染爆発」にタッチしてしまった可能性は高い。
1000人→2000人台(3/31) 11日
2000人→3000人台(4/3) 3日
3000人→4000人台(4/6) 3日
4000人→5000人台(4/9) 3日
5000人→6000人台(4/11) 2日
6000人→7000人台(4/??) 1日?(※)
※すでに4/11の時点で6900人となってしまっているので、直近の感染ペースを鑑みると6000人台→7000人台まで、ついにわずか「1日」となってしまう可能性が極めて高い(4/12 1:10現在の情報)。【上記累計データの参考:時事 「国内感染5000人超す」(4/10)】
3月までは、まだ「増え方」がゆるやかであった。それが4月に入り、急激に拡大の一途をたどっている。約1週間で2倍である。これを爆発的増加と言わず、なんというのか。
もう時間的猶予はない。ここは「とにかく外に出るな。補償はする」という強いメッセージを発出して、向こう2週間でもよいから「人が出歩くことがない環境」を徹底してつくることしかない。そして、お為ごかしの現金給付でごまかすのではなく、緊急の「一律現金給付」や回復後の「期限付き消費税減税」など、これまでには考えられなかった大胆すぎる施策をセットで打ち出し、「政府が責任をもって何とかする。回復後は国民一丸となって復興のために立ち上がろう!」というメッセージを打ち出すしかないのではないか。
「自粛はしろ、でも自己責任で生きろ」というのは、普段酷税に苦しむ側からすると、あまりにも惨い話である。「とにかく外に出るな。補償はするから」というメッセージをただちに出すこと以外に、事態収拾の術はないのではないか。
公開:2020年4月12日