消費増税後の「10-12月」のGDPが年換算で-6.3%になった(日経)という衝撃的なニュースが飛び込んできた。
政府はこれを「台風」だの「暖冬」だのに結び付け、果ては「緩やかに景気回復」という大本営発表(日経)までして、「やっぱり消費税増税は失敗だった」という世論が形成されぬように躍起になっている。
ただ、大本営発表は生活実感と乖離しているので、圧倒的大多数の物言わぬ国民は、「そんなことないべ」と鼻をほじりながら、財布のひもをしっかりと結んでいるのである。景気がよいのに個人消費が上向かない、そんなことはあり得ないからだ。
ここへきて新型コロナウイルスの市中感染拡大、という日本社会にとって特大のリスク要因が発生した。すでにインバウンドバブルの崩壊(ダイヤモンドオンライン)も確実で、常識的に考えて、1-3月期のGDPが前期よりも好転する要素はない。
そして誰もが薄々思っていることだが、「東京オリンピック」の開催も、もはや黄色信号である。もし中止となれば、大阪万博と併せ、老年期に突入しつつある「近代日本社会」の「壮年期、最後の仇花」だっただけに、実体経済はもちろん、個人消費の前提となるメンタルに与える影響も計り知れないことになるだろう。
大本営は、だからこそ「座してコロナが過ぎるのを待つ」「心頭滅却すれば火もまた涼し」という心境なのだろうが、何も手を打たなければますます状況はひどくなる・・という点では戦前の敗戦直前と類似した「誰も決断しないし、したくない」状況にあるといえよう。
斯様に、チャレンジングな状況にある日本経済において、今回の増税のタイミングは、おそらく「最悪」であったと、後世の経済学の教科書には記銘されるに違いない。
私は2019年の8月に、以下の趣旨のことを書いた。
1.参院選を冷静にみれば「野党の政策実現能力」は国民から既に見放されている。与党の「現実改善主義」だけが、現状のシュリンクし続けていく社会を少なくとも<下支え>だけはする、と国民が暗に感じているからこそ、与党は「増税」を訴えたにもかかわらず、議席を維持できた
2.これで増税は決定的になったが、もはや国民に増税を受け入れる経済的余裕はなく、消費増税を受けて、決定的に消費回復の芽は絶たれる
3.増税後は放っておいても深刻な不況が訪れる可能性が極めて高い
4.現政権は「現状改善主義(≠理念先行主義)」を取っているので、「善なる現状に国民の支持が立脚する」。したがって、不況になって「悪なる現状」になった途端、国民の支持は容易に離れていく
5.だからこそ国民は、徹底した家計防衛行動をとるべきだ。目に見える形で不況が深刻化すれば、「現状改善主義」であるだけに、政策的対処も取られやすい
この議論の核心は、「消費増税を受けて、決定的に消費回復の芽は絶たれる」というところだったが、これはたぶん小学生でもわかる理屈である。
今回の「やっぱりGDPがものすごく下がってしまいました!」というニュースに対する感想は、「やはり」という言葉しかもはやない。
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いくら「軽減税率」や「ポイント」でごまかしても、「10%」である。「消費した分の1割を持っていかれる」という数字のインパクトは、やはり大きい。
「お店で1割引きの値札を見ても、『それって税の分が安くなったというだけで、定価のままということでしょう?と感じてしまう』」なんて話も聞くので、それだけ痛税感が大きいのだ。
ここまでのデフレで「値下げは消耗戦略でしかない」ことに気づき、安易な値下げ勝負に懲りた日本企業は容易に値下げをしなく(できなく)なった。「物の量を減らす」「サービスの内容を減らす」ことで価格だけは維持する戦略を取り始めている。
物の量を減らすといえば、食料品の極端ともいえる少量化が典型例である。大義名分は「高齢者や女性でも食べきれるように」という形をとるわけだが・・
サービスの内容を減らすといえば、営業時間の短縮が典型例である。これまた大義名分は「働き方改革」「労働者確保」という形をとるわけだが・・・
増税で可処分所得は減っているので、これらは実質的にはすべて「値上がり」である。すでに日本は不況時の物価上昇、すなわち、スタグフレーションに突入しつつあるのではないか。
それを示す兆候の1つに、不動産価格の高止まりがある。
資産バブルで異常な高値が続く都市部のマンション市場は、もはや一般の家庭では手が届かない水準になってきている(「19年マンション発売12%減 価格上昇、43年ぶり低水準」[読売新聞2月22日付東京版]、「誰が買えるの?マンション1戸当たりバブル期越えの8360万円」[MAG2NEWS] など、価格高騰を懸念する記事は枚挙に暇がない)
しかし、不況が続けば結局は「今の価格では売れない」・・そんな時代が間違いなくやってくる。
現に、前回のバブル経済の象徴の1つであった別荘地の不動産は、マイナス価格でも買い手がつかない状況に陥っている場所が出てきているという(空き家問題で増え続ける「マイナス価格物件」の実態 [IT Media])。
深刻なデフレが目の前まで迫っている。それを庶民は敏感に感じ取っているからこそ、資産防衛に走るのだ(消費を手控えるのだ)。
まさに日本経済崩壊を防げるかどうかの正念場だ。
だというのに、新型コロナウイルスの影響で、レジャー、移動・・つまり「人が集まって何かをする」機運が大幅に減るなど、実体経済も深刻なダメージを受けつつある(例えば東海道新幹線は、休日の利用者が現時点ですでに1割減になっている[日経])。
***このように、ただでさえ消費マインドが下がっているときに、さらに「老後は2000万円貯蓄しないと野垂れ死ぬし、国も面倒はみないよ」(意訳)と言ってみたり、IMFに「消費税は15%、20%と引き上げていかないと国の財政は破綻するよ」(意訳)と言ってもらったり、どんどんどんどん消費の足を引っ張ることをする。
これに追い打ちをかけるように、働き方改革で「仕事量は変わらないけれど残業代は減らすよ。休みも増やすから、あとはよろしく」(意訳)となって、家計にもじわりじわりとダメージを与え続けているのである。
これで景気が上向くわけがないのだ。
財務省は、「景気に左右されない財源を確保し、税収の安定化を図ることを以て、国家国民の安寧を図る」ことを存在意義としている。国際的な下げ基調で法人税は下げざるを得ないし、景気に左右される所得税も心もとない。となると、生きている限り発生する「消費行動」に着目した、事実上の「人頭税」である消費税は、確かに「安定した財源の確保」には寄与したのだといえる。
しかし、「安定した財源」というと聞こえはよいが、これはすなわち「国は景気を安定させることではなく、どんなときでも税を徴収できる仕組みづくりを優先します」と言っていることと同義である。
すなわち、「国家の繁栄と国民の福祉増進のために税金を徴収する」ことよりも、「税金を安定して徴収するために、税金を徴収しやすい仕組みをつくる」という手段の目的化が起こっているのだ。
この倒錯した状況で、国民経済の発展や、福祉増進が為されるわけがない。
今後間違いなく大きなデフレ(資産価値上昇)が起こることが目に見えている以上、やはり国民がすべきは、徹底したデフレ対策(資産防衛)なのである。間違ってもインフレ対策(投資や消費)ではない。
・・・これが論理的にせよ非論理的にせよ感覚として持っている国民の一般的な経済観念の帰結である以上、消費が上向くことはないのだ。
これをどう逆回転させるか。まずは「このタイミングでの消費増税が失策だった」ことを出発点に政策パッケージを展開していくしかないだろう。
しかし、ああいう「大本営発表」をしているようでは・・・それを期待しようもないのだが・・・(だから、余計に消費マインドが下がるのだが・・・)。
2020年2月24日公開