2016年に日本の出生数が100万人の大台を割れたことは記憶に新しい。それからわずか4年で、90万人台も割れることがほぼ確実な情勢だ。前年比5%を超えるペースでの出生数減少は、1989年以来、実に30年ぶりの大幅減だともいう。
(参考)19年の出生数が急減(日経)
10年で20万人減少、そして団塊ジュニアも全員が45歳を超えて出産適齢期を過ぎた。「令和ベビー」を期待する向きもあったようだが、もはや鍋の底が抜けたような状況だ。
このような状況で、かつて2位にまで登り日本の一人当たりGDPは26位にまで転落。PICAの順位も捗々しくない。様々なデータから見ても、明らかに「国力」が減衰している。
日本人の平均年齢は48歳を超えて世界トップだ。もはや「若者の国」ではなく、「壮年の国」である。まもなくこれが「老年」となっていく。
ただ、周りがみんな平等に年老いているので、悲壮感はない。どちらかというと、黄昏時を、のんびりと過ごして、そのまま散っていく・・というような、「はかなさ」といえようか。
そんな「黄昏ゆく日本」を概観し、今後の在り様を探ってみるコラムである。
■ファミレス
あるファミレスの「サーロインステーキ」ランチを注文したところ、これまで食べたことのないような硬さと脂身で、半分以上が食べられなかった。
昔はファミリーレストランといえば「高級」「特別」が相場だったが、本当に変わってしまった。全部ではないが、今や「シングル向けの安飯屋さん」であることを存在意義にしているお店もあるようだ。「安かろう悪かろう」とはよくいったもので、確かに数百円でステーキを食べようとした自身の浅はかさを恥じるしかない。
もはやファミレスは、そもそもが「ファミリー」で行くところではなくなってしまったのかもしれない。なぜならば、標準的なファミリーはイオンのフードコートにいるからである。
■外国人観光客
「爆買い」という言葉に象徴されるように、とにかく爆発的に増えたのが外国人観光客だ。出国する日本人の数はここ20年で年間1500万ー1700万人くらいと横ばいなのに対し、訪日外国人はこの20年で300万人台からざっと2400万人台へ、2000万人以上という驚異的な伸びを示している。
ただでさえ日本人の購買力は落ちているのに、さらに「円安」とくれば、海外旅行はもはや「金持ちの道楽」である。一方でどんどん購買力をつけた外国人にとって、「円安」であればそれはもう、要するに日本は「安く行ける観光地」なのである。
もはや日本人が(ロックフェラーセンターなどを)「爆買い」する時代ではない。外国人に「買われる」立場になってしまったことを自覚するべきなのである。
■少子化
もはや歯止めの利かない少子化。男女雇用機会均等法を契機とする晩婚化・非婚化が加速し、そもそも「子どもを産める女性」が減っている現状を鑑みると、この流れはどれだけ政府が「産めよ、殖やせよ」とやったところで物理的に解消する見込みがない。
一番の原因は「将来不安」であろう。これだけ「国の借金が膨らんでいる」「年金が破綻するかもしれない」「社会保険負担が爆発的に増えている」「いつまでもあると思うな会社と雇用」と聞かされて、子どもを1人育てるのに、まずは自分たちがどうなってしまうのか、子育て世代は不安でしかない。これでは子どもはつくれない。
これに加えてありうるのが、「共働き疲れ」であろう。誰もがキャリアウーマン志向であるはずがなく、「夫の稼ぎがあれば、子育てに専念したい」という女性だっているのだ。社会が本当にダイバーシティ化を目指すのならば、「女性の社会進出が絶対善」という独善的なポリコレ志向は今すぐ唾棄し、「バリキャリは思い切り働けて、そうでない人はそれなりに」生きていける社会を志向すべきなのだ。
もはや公然の秘密となっているが、「保育園に本当は落選したい」という家庭は、実は非常に(おそらく統計に出ないレベルで)多いのである。実際はこんなこと正直にSNSに上げようものなら大炎上必至なので「表になかなか出てこない」だけだ。
育児休業の給付や企業の育休制度が「保育園の有無」で決まるから、すぐに復帰する気がない人でも、「とりあえず保育園に申し込む」(で、当選しても辞退する)のである。一部は、「当選したからやっぱり通わせざるを得ない」という人もいる。だから、倍率は見かけ上はすごく上がり、一時期ブームになった「保育園落ちた」云々みたいな家も出てくるのである。どうも、こんな厄介なことになっているのだ。1億2000万人のうち、どんなに多くても90万人×3(年間)=270万人=全国民の2.3%というニッチな問題なので、高齢者の医療問題(全国民の28.4%)と比べるとどうしても「緊急の」政策課題とはなりにくいのだ。
これは制度の問題である。保育園等に関係なく、育児休業給付金と同等の給付を一律で2年間受けられるようにすればよいだけだ(社保の免除を含む)。これだけで保育園の倍率はぐんと下がる。あとはバリキャリでも、家庭に入るでも、好きに選択したらよいのだ。
ちなみに予算規模は、例えば平均支給額151万円×90万人(年間出生数)=1兆3590億円となる。これはちょうど、(19年12月時点の)東京五輪の想定経費(1兆3000億円)とほぼ同額でもあり、また、少し古いが2015年度に会計検査院が指摘した「税金の無駄遣い」指摘額(1兆2000億円)とも近似している(※ミスリードを防ぐために申し添えておくと、17年度は過去10年で最小の1156億円とされているので、年度によってその規模はことなることは特に記しておきたい)。
たぶん、これくらいの規模で直接給付を行わないと、「子どもを産むことが不安」な社会は解消されないと思われる。
もっとも、これをしたからといって、母親の絶対数が少なくなっている以上、出生数の「下支え」にはなっても、ここから劇的に「100万人」「150万人」と出生数が回復するわけではないのだが・・・
■再雇用と賃金抑制
一昔前まで、日本は高齢化によって深刻な人手不足になるので、若者の給与水準が上がるはず・・・とまことしやかにささやかれていた。しかし、実態はそうなっていない。なぜならば、定年を迎えた団塊の世代が、豊富な「経験」と「知識」をもって、再雇用、シニアワークに勤しんでいるからである。
シニア労働者は、企業にとっては「安い賃金で経験値の高い労働者を雇用できる」というメリットがあり、政府にとっては「税金の払い手が増える(年金の貰い手が減る)」というメリットがあり、本人たちにとっても「ボケ防止になる」というメリットがある。誰も損をしないシステムなのだ。
だが、これも世の常。「経験」という誰も逆らえない財産をもとに、いつまでも一線を引かない年寄りがいればいるほど、若者の機会と、ひいては社会の活力は奪われていくのである。
もはや日本は「老人の国」。票も老人が持っていれば、カネも老人のもの。若者は金も権力もないから、絶対に逆らえない。そして、どんどんカネを吸い上げられ、いつまでも苦しんでいく。
■消費崩壊
高齢化で所得税の担い手が減り、グローバル化によって法人税も安定財源ではなくなってきた。本来、税はビルトインスタビライザーの機能を果たすべきものだった。しかし政府は「経済の安定」ではなく、「安定した財源確保」を優先し、もっとも「広く浅く」税を徴収できる手段である「消費税」を、ついに財源のトップに据えてしまった。もはや本末転倒ここに極まれり、である。
誰でも生きている限りは消費をするから、この国で生活させてやる証として、消費額の1割は税として持っていくぜ、と。つまりはそういうことだ。人頭税に等しい。
さらにここに謎の軽減税率やポイント還元が絡み合って、異常に複雑な税制となってしまった。もはや「どの店が10%で、どこが5%で・・・」と、いちいち考えてはいられない状況だ。様々な税率が絡み合い、正確にこの制度を説明できる人はもはや皆無であろう。
おじいさん・おばあさん世代でかたくなにキャッシュレスに移行しない人の言い分を見てみると、「なんだかよくわからないから」「大変そうだから」である。
どう考えても優先度の高い医薬品が「10%」で、発行者のプロパガンダメディアである新聞が「8%」など、論理的に説明のつかないことをやっている。こんなもの、誰も「よくわからない」のだ。一言でいうと、「面倒くさい」のである。
かつて三越の前身である越後屋は、世界で初めて定価販売(現金掛け値なし)を行い、その明朗会計で現代に続く栄華を極めた。
人様に金を出させるのなら、「わかりやすく、シンプルに」が一番。だからただでさえ「10%」と痛税感が高いところへ、こんな複雑なシステムを入れてしまっては、消費意欲を削ぐに決まっているではないか、と。
■ポイント、ポイント、・・・・ポイント。
官製キャッシュレスブームにより、多数のフェリカないしクレカ決済、およびQRコード決済が、まさに雨後の筍のように生まれている。
釣り文句は「ポイント還元」。事業者は、消費者のことを「ポイントに釣られるダボハゼ」ぐらいにしか思っていないのではないか・・・というくらい、徹底的にB層を狙って「ポイント、ポイント」で攻めている。
あんなに人を馬鹿にした広告で、腹を立てるなというほうがおかしい。「ポイントあげます」と、「ポイント」に言葉を変えるとソフトなのだが、「ポイント」の部分を「金」に変えると要は「金やるぞ、ほら。金が欲しいんだろ?」としか言っていない。
口を開けば誰もかれもがポイント、ポイント。これを「金」に変えると、いかに拝金資本主義の奴隷として我が国の庶民が資本に飼い慣らされてしまったか、が分かるというものだ。
こう書いたものの、消費者側からするとキャッシュレス決済にしないと大損だ。というのも、手数料無料のクレカは顧客側からはリボで、店舗側からは決済手数料で儲けている。ポイント還元の原資は店舗側からの決済手数料だ。畢竟、いくらポイントが還元されたところで価格にその原資は上乗せされているからである。
「いつもニコニコ現金払い」は、態度としては清貧だが、しかし、「同じ阿保なら踊らにゃソンソン」で、ポイントを還元してもらわないとはじまらないのだ。
ちなみに有名な話だが、「ポイント還元」と「割引」はまったく違う概念である。どちらかを選べと言われたら、間違いなく「割引」を選ぶことが肝要だ。
例えば10%の「還元」と「割引」でみてみよう。定価1000円(税抜)の品物を買ったとする。
(1)「10%ポイント還元」の場合は・・・
*1回目の買い物
【支払】1000円+100円(消費税)=1100円
【還元】1000円×0.1=100ポイント(円)*次回の買い物で同じ商品をポイントを使って購入した場合
【支払】1000円-100ポイント(円)+90円(消費税)=990円
【還元】900円×0.1=90ポイント(円)*合計のポイント(購入権利):190ポイント/2100円当たり(9.09%)
(2)「10%割引」の場合は・・・
*1回目の買い物
【支払】1000円×0.9+90円(消費税)=990円
【値引】1100円-990円=110円*次回買い物でも10%割引で購入した場合
【支払】1000円×0.9+90円(消費税)=990円
【値引】1100円-990円=110円*合計の割引額:220円/2200円当たり(10%)
ちなみにこれを数式化すると、以下のようになる(ポイント還元率(%)=xとおくものとする)。
実割引率Y(%)= X /( 100% + X )
この計算式で行くと、以下の通りとなる。
- 3%還元→ 2.91%
- 5% → 4.76%
- 10% → 9.09%
- 20% → 16.67%
よく「20%還元!」という広告を目にするが、実割引率は「16.67%」である。実店舗で「2割引」をしているのであれば、目先のポイント還元に気を取られることなく、躊躇なくそちらでの購入をしてよいことになる。
■地上波テレビ離れ
ゴールデンタイムに君臨していた「ドラえもん」と「クレヨンしんちゃん」が、ついに「土曜日の夕方」という、当の子どもすら見ていない時間に遷されてしまった。
もはや地上波テレビ局は、「子どもや若者の見るもの」ではなく、「高齢者が見るもの」に完全にシフトチェンジした感がある。
会社でも20代の若者が「テレビを持っていない」というのがもはや普通になった。肌感覚だが、地上波テレビを習慣的にみているのは、生まれた時からテレビ漬けで育った団塊の世代前後の高齢者と、30代中盤以降の独身世帯である。
統計でもなんでもなく恐縮だが、これ以外の世代は、もう、驚くほど地上波テレビに依存した生活を送っていない。
アマゾンプライムを筆頭に、「見たいときに、見たい番組」を好き勝手にみられるし、地上波で本当に見たい番組は録画することができる。タイムシフト視聴がむしろ習慣化しており、「決まった時間に、決まった番組を見る」ということはおろか、「ながら見」自体も消えようとしている。ちなみにキッズは「YouTube」でヒカキンやマイクラの実況を見ており、なおさらテレビからは遠ざかっている感がある(ヒカキンの動画の視聴数を見ると、「テレビに出演する」系の動画より、圧倒的に「やってみた」系のほうが稼いでいる)。
ちなみにまだ、かろうじて「人気のテレビ番組」は残っているが、それでも週間視聴率が20%に届かないことが普通になった。むかしは「5時から男のグロンサン」など、「名物CM」があったものだが、今や「人気のCM」などまったく思い浮かばない。
よく、「テレビ離れ」というが、何のことはない。みんな「画面」は見ているのだ。離れたのは、明確に「地上波テレビ」そして「若者」である。
ゴールデンタイムに健康ものは若者にとって興味がない。クイズも学校の勉強でたくさんだ。草食化が進んでいるのに恋愛ドラマでもない。もはや「地上波テレビ」と「若者」の組み合わせが終わっているのだ。
・・・今はそれでよい。高齢者で視聴率がとれるのだから。ただ、高齢者が入れ替わり、「習慣化(馴化教育ともいう)」を受けていない若者たちがいずれ高齢者になった時、果たして今までのような番組を見るのだろうか。
■東京オリンピック狂騒曲
驚いた。札幌でマラソンをやるとは。
驚いた。天井スカスカのスタジアムができるとは。
驚いた。ボランティアとして、学徒動員をやるとは。
驚いた。暑さ対策が「朝顔」と「氷風呂」とは。
一度はじめたら、とまらない。なぜなら、「やること」が目的になってしまっているから。異を唱えれば非国民。心頭滅却すれば火もまた涼し。戦時中の精神構造とどこが違うのか。
軽減税率で骨抜きにされたマスコミも、こぞってこの「国力衰退の象徴」たる儀式に異を唱えることなく協力するのだ。戦時中の精神構造とどこが違うのか。
もはや完全に残念なことになっている(出だしのエンブレムから)のに、臭いものにはふたをして、とにかくやっちゃえ、どうせ国民の金だから、と。
■まとめ
【政治家(せいじか)】特定の国民の利益を代表して、人のお金で自分のやりたいことをやる人のこと。
【報道(ほうどう)】国民のためと称して、国民を為政者の思うままにコントロールできるよう、一律で白痴化する手段のこと。
公開:2019年12月23日