■標語:「あなた1人の駆け込みで、3000人が遅刻する」
朝の中央線は2分間隔で電車がくる。でも朝の2分のロスは(そのあとの乗り換えを考えると)でかいので、1本でも早い電車に乗りたくなるのは人の性。で、無理やり電車に乗ろうとするからどんどん遅延が発生。「お客様混雑による遅延」は日常茶飯事ということになる。
そしてこの「たかが2分、されど2分」が大都市東京においてどれくらいのボリュームなのか、を冒頭の標語にしてみた。「駆け込み乗車防止」のキャッチコピーとしてはなかなかインパクトがあるような気がする。
ここではフェルミ推定の考え方を使ってみよう。
すなわち、中央線は10両編成。1両の定員がざっと150名くらいとすると、1編成あたり1500名が乗っていることになる。乗車率が180%とすると1620名くらいの人数が、ラッシュ時には1本あたりの車両に乗っていることになる(1時間にその30本分で実に4万8600人というボリュームである。ものすごい大量輸送機関なのだ、鉄道というのは)。
さて、その中央線。1本の電車が1人の駆け込みのせいで1分遅延したとすると、列車に乗っている1600人が1分だけ等しく遅刻することになる。すなわち、単純に言って1600分ぶんの社会的損失が生じることとなるわけだ。
さらにこれが2分遅れたとなると、中央線は2分間隔なので、実は「1列車分の(時間単位当たりの)輸送力が損なわれる」ことと同義になる。つまり、1600人×2(遅れた1列車分と喪失した1列車分)=3200人に影響が生じる。時間にすると、1600人×2分×2列車分で、実に6400分ぶんの社会的損失となる。
これを時給に換算してみよう。東京都の最低時給(書いている時点で907円)×106.6時間(6400分)=9万6686円。「たかが2分の遅れ」で約10万円もの損失が生じていることになる。考えようによっては、こんな理屈が成り立つのである。
さらに議論を続けよう。
2分の遅れが毎日(平日20日の8割=16日分)あるとすると、月に154万6976円となる。年にすると実に1856万3712円。「2分の遅れ」の累積が、1年間で2000万。10年で2億。かかる莫大な損失になっていることが分かる。
しかもここまでの話は、あくまで列車2本に限ったもの。ふつうは後続の列車にも遅れは波及するので(ホームには前の列車に乗るはずだった乗客が滞留するため)、もう少し話を拡大してもよさそうである。
例えば1時間にわたって「2分遅れ」が続けば、(列車は2分間隔なので1時間に30本だから、2本分の15倍で)わずか1日で約145万、月に約2300万、年ではなんと約2億7800万もの社会的損失になる・・・ということだ。実際は「2分遅れ」など生易しいもので、5分、10分は平気で遅れるのだから、その影響たるや考えるだけ恐ろしい。
ということで、最後に「あなた1人の駆け込みで、なくしたお金は2000万!?」というキャッチコピーを提唱したい。
問題は「この理屈が分かったところで、駆け込み乗車はなくならない」ということなのだが・・・
公開:2016年7月16日