最近は、モノが売れないのを消費者のせいにする傾向が強まっている。車が売れなければ「若者のクルマ離れ」と「草食化」がいわれ、お酒が売れなければ「若者の舌の幼稚化」と罵られ、まぁ、ことあるごとに若者(ってそもそも誰だ?)が悪者にされる。
ただ、それは感情論にすぎない。若者側も脊髄反射で「それに見合う賃金をもらっていないからだ」などとと答えるのだが、それは全てを包括する答えではない。もちろん、ミクロ的には若者の可処分所得の減少という要素も確かにあるのだが、現実にはしっかりと「人並み以上にもらっている」はずの若者層ですら、この議論で想定する時代の「若者」ほどには消費活動をしていない、というのが肌感覚だ。
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この問題、本質は、先進国病というか、要するにモノ余り時代の「消費離れ」にあることは今更書くまでもない。
そもそもお金は価値尺度であって、それに見合うか見合わないかで消費が決まる。平たくいえば消費者にとってのメリットがデメリットを上回る(もしくは等価だ)から消費するというだけのことだ。モノ余りの時代、期待ほど効用がないのに消費するほど人は愚かではない、ということである。
ましてや「いつ生活が不安定になるか」がわからない時代。あまりにも将来への不安要素が大きすぎて、多少の効用など吹き飛んでしまう。だから、消費せずに貯蓄に回す。・・マクロでは、「若者の○○離れ」というのは、大方ざっとこんな理由だろう。
これは構造的な問題なのだから、ひとり「若者」のせいにしたところで解決するものでもない。
究極には消費や投資といったフローへの課税を弱め、インフレ施策の強化、もしくは資産税・貯蓄税といったストックへの課税を強めることで、半ば国民に強制的に消費をさせるしか解決策はないと思うが、老害社会においてそれが多数派になるわけがないから、今の政府は絶対にその逆をやる。
現に政府のやろうとすることは、消費増税や意図的なデフレ施策ばかり。ようするにフロー課税ばかりを躍起になって行おうとしている。ズバリ、票田である老人の資産だけは守ろうと必死なのだ。政治家だって失業したくないのだろうから、これはよくわかる。
そして、こんな構造になってしまった社会における正解(=経済学でいう合理的行動)は、若者も「消費しないこと」なのだ。
デフレとは消費すればするほど損をし、貯蓄すればするほど得をする社会ということなのだから、これは当然のことだ。その意味で、「若者の◯◯離れ」はきわめて合理的な行動である。
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まぁ、身も蓋もないことを言ってしまうと、現況はもう詰んでいるのだ。自分の資産を守ることに汲汲とする「逃げ切り世代」がいる限りは。
今の「逃げ切り世代」は、人数があまりにも多いが故、定年後も若者の職を奪ってそのままシニアとして居座ることができるし、さらにその若者から年金を搾取できる。いわば究極の貴族だ。
一方、その奴隷として一生を過ごすのが、その「勝ち組」を支える「逃げられない世代」。逃げられないが故に、自分の生活は自分で守り抜くしかなく、勝ち組が貯金をするのとは別のベクトルで、負け組も同じように貯金せざるを得ないのである。
「供給構造を維持して、雇用を安定させ、総賃金を拡大することで、消費を支える」べき経済が、完全に逆転してしまっている。供給構造が真っ先に崩壊し、雇用が不安定化し、総賃金が抑制されているのだから、消費が支えられる訳がない。こんなこと、小学生でも分かる理屈だろう。
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もっとも、経済の本質からいって、供給構造(=投資)さえ上向けば景気は回復する・・と単純化して捉えると、そうするためのドラスティックな方策ならばいくらか思いつく。ストックを破壊し、資産の流動化を徹底的に推し進めればいいのだから。まずは政治を地盤から切り離し、ストックに重税を課し、究極のストックである土地を準公共化するというプランである。もっとも、相当の血を見るからして、今の選挙制度下では絶対に実行されないだろうが...
(1)衆院は完全人口比例の小選挙区制で、定員300名(およそ40万人に1名選出)、参院の定員は47名(1県1名選出)とし、さらに「同一選挙区とその近隣選挙区で本人もしくは3親等以内の3期以上の連続立候補禁止」を徹底する。
(2)国民背番号を導入して、国民の収支を徹底的に補足。同時に、あらゆるセーフティネットをゼロから審査し直す。
(3)一定額以上の、すべての金融資産に対する貯蓄課税を行う。実質マイナス金利ということになる。円安誘導はもちろんだが、さらに一定期間、該当の資金は外貨への切替も禁止することで、資産の安易な国外流出も防ぐ。
(4)貯蓄税導入と同時に消費税は大幅減税&非課税項目拡大。所得税と法人税も抑制する。政府の意思として、明確にフローからストックへの課税対象の変化を打ち出す。
(5)都市開発促進税の導入。駅前等の一等地を有効活用しないまま相続または贈与した場合に課税を行う。
(6)都市開発促進税対象の土地が5年間未開発のまま放置された場合は、国が路線価の5%以下で買い取り、強制的に国有化する。
(7)10~20年サイクルで「新円切り替え」を継続的に行い、強制的に預金価値を切り下げる(時期は突然発表する)
物凄いドラスティックだが、これだけやると間違いなく投資や消費は活発化する。
「誰かが得をする」のか、「みんなで辛苦を分かち合う」のかの違いだが・・・どちらがいいかは、私にはわからない。ただ、こういう発想もある、というだけだ。
しかし、人口減少社会において、これまでの発想での経済運営が許されない、ということだけは確かである。「若者の○○離れ」などといつまでも戯言を言っている前に、どうして徐々に皆が苦しくなっているのかを考える必要がある。本質は、ストックを重視しすぎた故のデフレのせいなのだ。
本当に「貯金≒日本国債」に、買い手が集中する、すなわち「安全資産」と言えるほどの価値があるのか。
資産逆バブルと言える状況が、今、ここにあるのではないか。
そして本当にバブル状態であるとするならば、政策的に崩壊させねば破綻が待つのみ、だと思うのだが・・・。
公開:2012年5月19日