日本のような「空気を読む社会」では、必然的に匿名で語れるメディアってのが渇望されていたはずです。だって、実社会で本音を語ったら社会的に抹殺されるしかないわけですから。「王様は裸だ」どころの話じゃないわけです。皆、純粋な子どもでいることを許されない。
『裸の王様』は外国のお話です。だから、普通に考えてどんな社会にも「空気を読む」という要請はあると思うのですが、しかし、それでも日本社会はその要請が濃い。濃すぎるわけです。
すでに言い尽くされているように、我が国はよくもわるくも論理性ではなく「情緒性」が支配しており、それがよくもわるくも日本の文化を形作ってきた訳です。一言でいえば「阿吽の呼吸」というやつですね。まさにこのことこそ「言わなくてもわかるだろう・・」と。それこそ、わざわざ私が話すまでもないことです。
でも、この感覚がたまに息苦しい。相当重いわけです。誰もわざわざ言わないけれど。だから、そこから逃げ出したくなるときもある。さながら、「空気」に監視された社会に閉じ込められているような感覚に襲われることは、たびたびです。
とりわけ、「集団からの解放」を目指してきた現代社会人にとって、この「空気による監視」は耐えられるものではありません。
ところで、「集団からの解放」について補足すると、現代社会は「集団でやるもの」を「個人化」することで成り立っているというのが私の考えです。ソーシャルなものをパーソナライズすることが、少なくともここ半世紀のメインストリームでしょう。その最大なるものが「核家族化」です。もっと身近な例は、"ファミリー"コンピュータですね。これですら、20年と経たず今や1人1台の「モバイルゲーム機」「スマートフォン」に取って代わられています。
閑話休題。とにかく、現代社会にとって、この「空気による監視」というものから「逃げること」は、その要請によって、なかば「必然」になるはずなのです。
そして、必要は発明の母。その「監視社会」から逃げ出すために、画期的なメディアが登場しました。それがインターネットです。
本来の目的はともかく、当初のインターネットが「脱・監視社会」の希望の元に使われたことは明らかです。少なくとも、「実名で参加しなくていい気楽さ」は当時のインターネットに担保されていました。
それこそパソコン通信の時代からはじまり、「2ちゃんねる」はじめ多くの「匿名メディア(実名で参加しなくていいという意味での)」が流行したわけです。「ハンドルネーム」なんてのは、まさに「実名で参加しなくていい気楽さ」の象徴でしょう。
結果としてこれは、今までの「声なき声」、「便所の落書き」あるいは逆に「隠された真実」をどんどんくみ出していきました。これまでの何百年よりもずっと自由な情報流通のはじまりです。
しかし、人間は本来的に「枠の中での自由」を求める性向にあるようです。というのも、人間は本来、「一人では生きられない」社会的な存在だからです。社会という集団を作ることではじめて、生を獲得できる。無制限的な自由を得ることは、実は「一人で生きる」という無理なことを選択するに等しいことですから、畢竟、自由には制限ができるように自制されてくるのです。これは、遺伝的必然と言ってもよいかもしれない。
したがって、たくさんの「声なき声」が流通するようになってくると、そこに一定のルールができます。ルールとは、言うまでもなく社会の存在そのものです。社会とは結局、相互の互助組織であり、<監視機構>のことです。だから、ルールとは社会の存在そのものとしか言えない。
ここで何が言いたいかというと、自由な言論が(実社会よりも)やりやすくなった、そのお陰で、実は却ってあんまり変な(自由な)ことができなくなった、というのがあります。その事実を指摘しておきたかったわけです。
企業の不祥事、有名人のポカ、そういったものだけでなく、一般個人のカンニングや飲酒運転、その他犯罪行為・・こういったものが、「祭り」だ「煽り」だで晒されるようになってきた。
つまり、匿名による自由な情報流通によって、結果として「匿名の誰か」による「監視社会」の構築、という逆説的な状況まで起きてきたわけです。「空気」の監視を逃れた結果が、「匿名」による監視社会という皮肉。
でも、重要なことがあります。それはあくまで「匿名の誰か」による情報流通ですから、起きている事象と無関係な限り、その参加者は「煽り」「祭り」に、「匿名」で参加できる。その事象と関係ない限りにおいてですが。
だからこそ、気楽。そして、(自分における目の前の、という意味で)現実とは違う世界ですから、好き勝手にできたわけです。現代風に言うと、「気まずさがない」。この「好き勝手さ」が、実社会にはない。
そういう意味では、同じ「監視社会」でも、好き勝手な感じはまったく違う。そういう意味での「自由さ」がつい数年前までのインターネットにはありました。
しかし・・・