2005/10/13公開の記事。
●脱・日常
ふと、日常の喧騒を離れて海を眺めてみたくなることがある。
そんなとき、お勧めなのが「海に一番近い駅」として有名な「海芝浦駅」の探訪だ。
以下の写真を見て明らかなように、この駅は海に直面している。
▲電車を降りるとホームの真横が海。この構図が面白い。
▲釣りができそうなほど海が近い(実際にしてはいけない)。
▲ホームからは「鶴見つばさ橋」を眺めることが出来る。嗚呼、絶景哉。
なお「ベイブリッジ」ではないので、ここに人を連れてきて薀蓄を語りたい人はボロを出さぬよう注意。
▲通勤電車の中から大型船の航行を眺めるという図。
日常ではなかなか味わえない醍醐味がある。
今回の取材は日中に行ったが、夕刻の海などそれはそれは綺麗なのだそうな。朝日を浴びる海というのも素敵だろう。サンライズ海芝浦。サンセット海芝浦。どちらも一度拝んでみたいものだ。
潮の干満でもこの駅はかなり表情を変えるだろう。満潮と干潮では水位はどのくらい変化するのだろうか。それだけではない。朝ラッシュ時、気だるい昼の午後、休日、荒天の日、そぼふる雨の中、雪の中、カッと晴れた夏の昼間、寒風吹き荒む冬の朝、穏やかな春のあけぼの、涼しさが肌に染み入る秋の夕暮れ・・・季節、時刻や天気によってもこの駅の姿かたちは変わっていきそうだ。夏の夕暮れなど、ムード満点だろうなぁ・・・
色々な時間に、様々なシチュエーションで、何度でも訪れてみたい名駅である。
そういえば海芝浦は「関東の駅百選」にも選ばれていたのだった。納得である。
●どうしても出られない
海芝浦駅は「芝浦」の名の通り、株式会社東芝・京浜事業場の構内にある。
そのため駅の出口が守衛所になっており、一般人は駅から出ることが許されない。
そう。海芝浦は、「海に近い」だけでなく、「出られない駅」としても有名なのである(入場には従業員証・入場許可証が必要。余談だが駅から会社構内へ向けた撮影行為も原則禁止となっている)。
ただ、「出られない駅」とはいえ、「海が見える」というムード満点の珍駅であるから、一般人でもここを訪れる人は多い。折角訪れたのに、ホームで、あるいは電車の中でただじっとしているだけというのも・・・
その事情を慮った「いなせ」な東芝の好意によって、ホームの先に「海芝公園」という小さな公園が作られた(風力発電機つき)。くつろぎのスペースである。こういうのを確かメセナとかフィランソロピーとかいったが、素晴らしい計らいである。
▲海芝公園にはベンチが設けられており一息つける。
ここから眺める東京湾はオツである。飽きない限りいつまでも眺めていられる。
フェンスには海に落ちた人を助ける「救命浮き輪」が備え付けられていた。至れり尽くせり。
▲公園からホームを望む。電車が止まっているのが見えるだろうか。
ホームは片面しかない。
なお、駅構内には水洗トイレや自動販売機(2台)もあるので安心だ。
公園の開門時間は意外と長く、9時から20時半まで。もちろん無料である。
ランチ・スポットとしてもいいかもしれない。
●アクセス方法
さて、ここまで読まれて、一度は海芝浦駅へ行ってみたい、と思った方もいらっしゃるのではないか。というかそう思っていただけると有難い。是非、多くの方に「都会の中の非日常」を味わっていただきたいのだ。
ここで簡単に現地までのアクセス方法を示しておこう。
まず、JR京浜東北線で鶴見駅へ(京急の場合は京急鶴見駅で乗り換え)。
そこから3番線(一部4番線)の「鶴見線(浅野から芝浦支線)・海芝浦行き」で約11分。
そう、たった11分の気軽なトリップなのだ。お勧めする所以である。
日中は概ね1時間間隔で運転しているので、時刻をしっかりと確認してから訪れたい。
日中の折り返し時間(海芝浦駅での滞留時間)は平日が25分、土休日が24分。景色に見とれて乗り遅れると海のど真ん中で1時間待ちの憂き目に遭うので要注意。
気になる時間とお金だが、接続がベストの場合、JR利用で
東京からだと約45分450円(乗換えを含まなければ30分ほど)。
横浜からだと約25分210円(乗換えを含まなければ20分ほど)。
・・・と大変お得。JRの「ホリデー・パス」も使えるし、東京や横浜観光の1ルートになってもいいぐらいだ。東京―海芝浦―横浜―桜木町・関内・みなとみらい―中華街 というルートはなかなか新しくてお洒落だと思うが・・。
▲東京から気持ち移動すればこの景色。横浜からだと25分。
ちょっとした旅行気分を味わうのに最適だ。
なお、鶴見線はやや特殊な部分があるので注意ポイントをいくつか。
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(1)全線無人駅なので、鶴見駅から乗る場合は一度「中間改札」を通る必要がある。「改札の中に改札がある」のではじめはびっくりするが、慌てないように。なお、鶴見から先の切符の清算は鶴見駅で行う必要がある。
(2)海芝浦駅では自動券売機が用意されている。帰りの切符はここで忘れずに購入を。
(3)便利なSuicaも使える。海芝公園の手前に「Suica簡易読み取り機」が設置されているので、出るときと入るときにそれぞれタッチしておく。これを忘れると厄介なことになるので注意。なお、読み取り機付近では監視カメラが目を光らせているので、変なたくらみをしないほうがいい。
(4)鶴見経由以外にも、尻手―浜川崎を結ぶ南武支線経由のルートもある(京急からは八丁畷で乗り換え)。 南武線方面からはこちらが便利(ただし本数が少ないので注意)。 / この場合は、「南武支線」の終点「浜川崎」駅で「鶴見線」の「鶴見方面」に乗り換え、「浅野」駅でさらに「鶴見線・海芝浦方面(芝浦支線)」に乗り換える。 / 注意すべきなのは、「浜川崎で乗り換えるときに、Suicaのタッチをしない」ということ。浜川崎駅は道路を隔てて「南武支線」と「鶴見線」の駅があって、乗換えでどちらの改札も「タッチ」してしまうと乗車扱いとなり、初乗りの130円分を余計に取られてしまう(二重清算)。ここは要注意ポイントだ。
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●おまけ
(その1)
海芝浦が有名すぎて目立たないが、隣の「新芝浦駅」も海(運河)に面した駅である。
ここもその名の通り東芝の敷地内にある駅だが、ギリギリで公道が駅前に延びているので外部との接続が可能。海が見えたからといって「海芝浦」と間違えないように注意!
▲下りホーム。吹きさらしが哀愁を漂わせている。しかも下は海。
(その2)
新芝浦―海芝浦間の駅と路盤は全て東芝の社有地なので、JRは借地料を支払っているのだとか。話題には事欠かない路線だ。
なお、ガラガラの電車で運転する様を想像していたのだが、意外と乗客は多い。駅が出来るだけのことはあるようだ。車掌も乗っている。
(その3)
海芝浦駅の開業は1940年11月1日。まもなく65歳となる。
(その4)
走っている電車はたったの3両編成。
これはかつて山手線や総武線で長い編成をくねらせ、たくさんの乗客を乗せて走っていた205系通勤電車の改造車なのだ。
かつてとは全く違う場所を走ることになった通勤電車。同じ「通勤電車」でも、10両・11両という超大編成から開放され、都会の喧騒を離れて運河沿いの工業街をひた走るその電車に、そこはかとないロマンを感じるのである。
(その5)
鶴見線には魅力的な駅が多い。
お帰りは鶴見の1つ手前、「国道」駅で途中下車するのはいかがだろうか。手軽に「昭和」にタイムスリップ出来るからだ。ちなみに、駅名の由来は駅前を走る「国道15号線」から。そのまんまである。
▲分かり易すぎる駅名。「国道」など全国にたくさんあるわけで・・・
(開業当時は「鶴見臨港鉄道」。地元の私鉄だったので付近に1本しかない"国道"で充分事足りたというのが真相だ。1943年の戦時買収で「国鉄」になっても駅名はそのまま残って、現在に続く。歴史の皮肉である。なお鶴見臨港鉄道株式会社は現存しており、鶴見駅前「ミナール」など数箇所に不動産を所有している(東亜建設工業の関連会社)。
▲駅前を正真正銘の「国道」が通る「国道」駅。
1930年開業だから今年で75年目。「昭和」の風格が漂う立派な高架駅である。
▲昼間でもシーンとした高架下の通路。どことなく「昭和初期」のイメージが。
▲レトロで味のある改札口。
改札は無人化され、2台の「Suica読み取り機」に取って代わった。時代の流れを象徴する。
▲高架を抜けてすぐの鶴見川の風景。
周辺の散策が終わったら―
国道駅から京急花月園前駅はあっという間である。真っ直ぐ歩けば3分ほど。
横浜へ抜けるときはここから京急で10―13分190円。
東京方面へ行くときは歩いて鶴見へ。国道や線路沿いなど、または駅周辺に広がった商店街などを眺めて歩けばものの12,3分で到達する。
(その6)
前述の通り、鶴見線は「鶴見臨港鉄道」という私鉄であった。
駅の造りからその「違い」が分かる。
▲JR京浜東北線(国鉄)の鶴見駅(地上ホーム)
▲鶴見線の鶴見駅(高架ホーム)
アーチ型の天井に注目。どことなく雰囲気が異なっていることが分かる。
・・・ちなみにはとが多い。
編注:一部古いリンクは削除、その他は原文ママ。本文中の所要時間や運賃等は変更になる場合がありますので、お出かけの際は、事前に必ずご確認ください。
公開開始:2011年6月28日