少子化2
日本における少子化問題を論じるためのメモ。草稿。
■少子化の定義
・合計特殊出生率が人口置換水準を下回り、将来にわたって人口規模の維持が困難になること。
■少子化は何が問題なのか
・現役世代の減少により、社会保障制度、経済活動、社会関係資本、政治など様々な側面において、社会の持続可能性が棄損される可能性が高まること。
■日本の少子化の現状
1.長期化:1974年以降50年間による減少で、母親の数自体が減少している。
2.加速化:2016年に出生数が100万人を割り込んで以降、2024年には70万人も割る見通しとなった。2020年~23年のコロナ禍により、若年世代の出会いの減少、結婚・妊娠控えが起こり、出生率・出生数ともに急激な減少傾向をみせている。
■日本における少子化の要因
1.未婚化:女性の社会進出、ジェンダー意識の浸透、ライフスタイルの変化、結婚観の変化により、若い世代の未婚率が大幅に上昇している。
2.晩婚化:未婚化と軌を一にして晩婚化も進んでいる。平均初婚年齢が上昇することで、生物学的理由から夫婦の完結出生児数が減少するだけでなく、不妊治療を選択する夫婦自体も増加している。
3.夫婦の出生数の減少:「3人以上の出生数」が減少し、相対的に「一人っ子」の割合が増加傾向にある。
4.経済格差の拡大:バブル崩壊以降の「失われた30年」による経済の低成長や、新自由主義の跋扈による不安定雇用の定着により、若者の年収に格差が生じた。特に年収が低い層の未婚率は、有意に高い傾向が続いている。また特に、経済情勢が悪化していた90年代~2000年代の第2次ベビーブーム世代(就職氷河期世代)の経済支援の失策が尾を引く結果となっている。
5.結婚や子育て、教育の費用負担:「失われた30年」で育った若者にとって、将来「何が・どれだけ」負担になるかが不透明な状況が続いており、結婚、子育て、教育の費用負担(特に、都市部では公教育への不信感から「私立受験」がブームとなっている)が見通せない状況であり、結婚・出産への精神的な足枷が生じている。
6.育児の機会費用の増大:男女雇用機会均等法世代以降、女性の高学歴化および雇用労働力化が進んだことで、出産・育児のために仕事を休んだり、辞めたり、非正規雇用を選択したり、いわゆる「マミートラック」と言われるキャリアプランを選択せざるを得なくなったり、「結婚・出産・育児」に対する(特に女性の)機会費用が高くなっている。
7.仕事と家庭の両立の困難:女性の社会進出が進展した一方で、「仕事と家庭」を両立させるための社会的な環境整備が整っていない。
(1)保育園の問題
①希望する条件の保育園に預けられない、いわゆる「待機児童」問題
②緊急時や、リフレッシュ等で不定期に使用できる一時預かり制度の不足
(2)小学校の問題
①いわゆる「小1の壁(学校の滞在時間が保育園の預かり時間よりも短くなることで生じる諸問題)」の存在
・企業のフレックス勤務・在宅勤務制度等の不備
・放課後や長期休みにおいて、希望する条件の放課後児童クラブ(学童保育)に預けられない、いわゆる「待機児童」問題
②専業主婦が前提の時代を引きずったままの、家庭への前時代的な要求
・短縮日課・行事等での弁当の強制
・効果不明な「宿題」の親のチェック強要(音読確認へのチェック等)
・任意団体であるPTA活動の強制
8.「家の広さ」の問題:2010年代後半からの半ば官製の不動産バブルによって、「結婚・子育てに必要な広さの物件」の価格が急騰し、そもそも(物理的に)結婚や、子どもを育てる広さの住居へ結婚・子育て世代が入居できなくなりつつある。ここへテレワークの浸透によって夫婦の勤務スペースも住居内に必要な状況となり、家庭内で「居場所の取り合い」が起きている状況となり、ますます「結婚する」「子どもを持つ」ことが、物理的にも「贅沢な行為」となっている。
9.「おひとりさま」意識の変化:「独り身」ではなく「おひとりさま」としての生活を謳歌することを「是」とする社会的意識の変化。カップルやファミリーでなくても孤独を感じずに生活できる環境(インターネットを含む)の整備。精神的な駆け引きをする「恋愛」、他者との(面倒な「すり合わせ」の課程も含む)共同生活を余儀なくされる「結婚」、自分の思い通りにいかない「子育て」といった、"面倒なこと"を避けられるのならそれでもよい、というメンタルの浸透。人間関係の希薄化によるいわゆる「おせっかいおばさん」の絶滅。親子の「友達化」による「そろそろ結婚しなさい」という圧力の消失。コンプライアンス意識の浸透による上司や先輩、同僚からの「独身いじり」の消滅。
■日本における少子化対策とその効果
1.育児休業制度
○給付の拡充
△男性の取得率向上(取得だけでなく、休業時の育児参画も課題)
2.保育サービスの拡充
○待機児童の減少
△保育士の不足と待遇改善
△学童保育の待機児童の増加
3.若年層の雇用対策
△特に改善せず
4.教育負担等の軽減
○子ども手当等の拡充
○幼児教育・保育、高校の無償化
△自治体間格差の拡大
■少子化対策の評価
1.未婚化・晩婚化対策の不足
少子化の根本要因である「未婚化」や「晩婚化」を食い止める対策がほとんど実効性を持たなかった。
2.経済的な支援の不足
「失われた30年」に象徴されるように、国民が経済的な「成長」による果実をまったく享受できなかった(国富の多くが社会保障に費やされた)。
3.夫婦間の育児分担の観点での支援策の不足(女性の負担増)
制度的充実の半面、女性がその制度を活かして、「仕事も」「家事も」「育児も」求められる状況となり、酷薄な育児環境が存置された。
4.若年層の相対的不公平への未対処(社会保険料負担、租税負担等)
政治的な理由(票田としての高齢者のボリューム)から、相次ぐ消費増税、社会保険料負担の増加により、若年層の経済環境が、高齢者層と比べて著しく不公平な状態で留め置かれた。
展望
1.未婚化対策(不安解消社会の構築)
(1)社会保障制度改革
(2)同一労働同一賃金等の待遇・雇用環境改善
(3)租税負担・社会保険料負担の見直し
2.予算拡充
(1)教育費用無償化
(2)公教育の質向上(教員の待遇改善)
(3)住居費用支援
(4)少子化対策財源の目的税創設
3.専業主婦を前提としない社会の意識改革
(1)働き方改革(長時間労働の是正、テレワークの推進、フレックス勤務の恒常化)
(2)育児休業取得時の(本人ではなく、周囲への)制度的手当の拡充