ドラえもんは、22世紀のロボット。ほんらいは未来の道具の機能とその理論を、のび太にわかりやすく伝えることができるはず・・・ですが、残念ながらのび太はその内容をほとんど理解できていないようです。
今回は、「ドラえもんの難解科学解説」と「のび太の反応」が見られるシーン(20シーン)を抜き出してリスト化してみました。
ちなみに科学解説のトップは「遺伝」でした。
巻・話 | 状況・ドラえもんの解説 | のび太の反応 | ジャンル |
17巻「あちこちひっこそう」 |
「ひっこしセット」の説明をするドラえもん。 「ミニハウスには、瞬間移動装置がついていて、ボタンをおすだけで家ごとひっこしできる。」 |
「?」 理解できていない顔。 |
相対性理論 |
20巻「へやいっぱいの大ドラ焼き」 |
「イキアタリバッタリサイキンメーカー」の説明をするドラえもん。 「新種の細菌をつくるにはいまある菌の染色体の中のDNAを改造し、その遺伝情報を・・・・・・。」 |
「むずかしい話はいいからやってみせてよ。」 (無表情) |
遺伝学 |
21巻「だいこんダンスパーティー」 |
「新種植物製造機」の説明をするドラえもん。 「細胞の中の染色体にふくまれている遺伝情報に手をくわえるんだよ。遺伝情報というのは、生物をつくる設計図みたいなもんだ。これのおかげでバラの木にはバラの花がさき、カボチャのつるにはカボチャがなる。」 |
頭痛(無言で頭に手を当てる) その直後、ドラえもんの「むずかしすぎたかな。」(無表情)が憐れみを誘う。 |
遺伝学 |
23巻「長い長いお正月」 |
「三倍時計ペタンコ」の説明をするドラえもん。 「人の三倍のはやさでなんでもできる。だから一日が三日分の長さに使えるんだ。」 |
「?」(無表情) | 相対性理論 |
27巻「ジャイアン良い子だねんねしな」 |
二十二世紀デパートから誤送された「クローン培養機」の説明をするドラえもん。 「動物でも植物でも、小さな細胞が集まってからだをつくってるんだ。その細胞のくみたて方の設計図を遺伝情報というんだよ。遺伝情報は、あらゆる細胞の一つ一つにくみこまれている。だから、たとえばかみの毛一本でもあれば、それをもとにコピーがつくれるんだ。わかった?」 |
「ぜんぜん。」(舌を出して笑顔で) まったく悪びれる様子もないのび太がむしろ清々しい。 |
遺伝学 |
28巻「しずちゃんの心の秘密」 |
遺伝情報をもとに個人データを引き出す「アンケーター」の説明をするドラえもん。 「からだじゅうの細胞には、どの一こをとっても、それぞれにその人だけの遺伝情報がふくまれている。それはその人の顔形だけでなく、性質や考え方などの基本になるものだ」 |
「説明はいい。」 冷や汗+「3」の形をしたクチ、左手を突き出して全身で「拒絶」のポーズ。 |
遺伝学 |
30巻「フエール銀行」 |
1時間で1割の利子がつく(1か月定期は2割、1年定期はなんと5割!)夢の「フエール銀行」の説明をするドラえもん。 「一時間ごとに一割の利子がつくんだよ。」 |
「と、いうと?・・・・・・・。」 説明の先を促したところはのび太の進歩とも取れる(こづかいが掛かっていたからともいえる)。 なおこの時はまったくわかっていなかったのび太だが、その後、ドラえもんの詳しい説明により、「10円が1週間で9000万円」になることを知り、髪の毛を逆立てて驚き喜ぶのび太であった。その後、安易に借金に手を出し、1時間2割の暴利によって文字通り身ぐるみをはがされてしまうことを彼はまだ知らない・・・ わずか10ページで「金利」の何たるかを学べる好編。 |
金融工学 |
30巻「クロマキーでノビちゃんマン」 |
特撮番組「ミケちゃんマン」の空撮シーンを解説するドラえもん。 「テレビじゃかんたんなんだよ。クロマキーといってね、青いバックの前でべつのけしきとあわせて・・・・・・。わかんない?じゃ、実物をだして説明しよう。」 |
(終始無表情) | 映像技術 |
30巻「お子さまハンググライダー」 | 「お子さまハンググライダー」の説明をするドラえもん。 「これこそは22世紀の航空力学による、最小の翼面積で最大の浮力をえるという・・・・・・・・・・・・、こんなこといっても わからないか。」 最後に、強烈な捨て台詞である。 |
口をぽかーんと開け、渦巻きぐるぐる。
さすがに次のコマでのび太は口を「3」の形にして少しムスッとしているのであった。 |
航空力学 |
34巻「みたままベレーで天才画家」 |
「みたままベレー」と「自動二十四色ふで」を出したドラえもん。 「"人間カメラ"といわれるぐらい、そっくりにかけるんだ。かぶった人のみた色や形を、ベレーがキャッチし、それをうけたえんぴつが、腕や指の筋肉に命令をくだして・・・・・・・・・。」 |
「うずまき」+☆3つ | 人間科学 |
34巻「タネ無しマジック」 |
「タネなしマジックハンカチ」を出したドラえもん。 「ぬい目のとこに超小型コンピュータがはいってて、元素を分解したり、組み立てたり、いろんなものをつくりだす。」 |
「???」 | 物理学 |
34巻「一晩でカキの実がなった」 |
買い物かごと財布をなくしたのび太に対し、「時空間とりかえ機」を出したドラえもん。 「現在と過去の空間をとりかえたんだ。」 |
「?」目をみひらく | 相対性理論 |
37巻「感覚モニター」 |
「感覚モニター」の説明。笑顔で。 「きみがみたり、きいたり、さわったり あじわったりすると、その感覚がこのアンテナからこのモニターにおくられ・・・・・・・・・、ぼくがみたり きいたり、さわったりあじわったりしたのと同じように感じられるんだよ。」 |
「?」口をぽかんと開ける | 人間科学 |
39巻「メモリーディスク」 |
「メモリーディスク」を取り出しながら。 「脳にたくわえられている記憶をとりだすの。」 |
「?」 | 人間科学 |
40巻「モーテン星」 |
「盲点」についての説明をするドラえもん。 「目でものをみることができるのは、ひとみから入った光が網膜で像を結び・・・・・・、それを視神経が感じ取るからだ。ところが!網膜の一部に像をうつさない場所があって、これを盲点と・・・・・・。」 |
「?」「?」「?」 | 人間科学 |
41巻「野比家は三十階」 |
夜中に家を空中浮遊させたドラえもん。「亜空間コネクター」を取り付けて。 「家が地面をはなれても、電気やガス、水道、下水道など、使えるように亜空間でつないどくの。」 |
「・・・・・・? なるほど。」うなずく。 分かっていないのにとりあえず「うなずく」というのは、大人になった証拠である。 |
物理学 |
43巻「合成鉱山の素」 |
「ゲンソってなんだ?」と聞くのび太に対して 「酸素とか、水素とか、炭素、チッ素、塩素、金、銀、鉄、銅、鉛、ナトリウム、マグネシウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・、全部で百十八種。宇宙はすべて、これらの元素の組みあわせでできてるんだ。地球も、太陽も元素でできている。水も空気も陸も、海も・・・。ぼくも、のび太も、ドラやきも。」 |
無言で片目をぐるぐるさせ、口は「3」の形に。 その後、「・・・・・・ ・・・・・・ 電池も?」→ドラえもん「もちろん」と、会話が成立。 科学系の説明で「会話」が成立したのははじめてであり、のび太の成長が感じられる。 |
物理学 |
43巻「食べて歌ってバイオ花見」 | 「バイオ植木カン」の説明をするドラえもん。 「植物でも、動物でも、その細胞のひとつひとつが遺伝情報 つまり設計図をもっていて、これを読みとれば、そっくりなクローンをつくることが・・・。あ、ごめん。きみにはむずかしかったかな。」 すでにしゃべりながら舌を出しており、もはや「理解できないこと」前提に話をしている。完全にわざとである。 |
目を見開き、歯を食いしばり、「?」「?」「?」 | 遺伝学 |
43巻「ジャックとベティーとジャニ―」 |
「人形自動化音波」の説明をするドラえもん。 「動物の形をした物にその音波をあびせると、分子配列をかえて一時的な疑似生命現象を・・・。」 |
「?」 しかしその2コマ後、「つまり、本物みたいにうごくってことだろ。」と見事な要約をして外に飛び出すのび太であった。 いつの間にかドラえもんの小難しい話を読者用に「要約」できるようになったのび太であった・・・。 |
応用生物学 |
見てみると、のび太もドラえもんの「長い説明」にだんだんと慣れてきて、時にはその意味を「理解」することもできるようになっていることがわかります。
とはいえ、ほとんどのシーンでは、のび太の理解を超えた説明がドラえもんによって延々となされています。
よく考えると、現代人だって、クルマはもちろん、エアコンやスマホ、テレビの仕組みを「詳しく」知らなくても道具そのものは使えてしまいますよね。未来でも、きっとそういうものなんでしょう。でも!ドラえもんはのび太の教育係。「原理」はしっかり説明しないと気が済まない様子です。
改めてまとめてみると、物理から遺伝、生物に至るまで、「ドラえもん」に詰まった「科学」の要素の多さには驚かされます。ドラえもんは実は、「わかりやすくかみ砕いた、初めて出会う科学マンガ」の側面もあるようです。
参考文献:藤子・F・不二雄『ドラえもん』1-45巻(小学館)
2022年2月23日 初版公開