平和を絵に描いたようなイメージのあるドラえもん世界ですが、
実は多数の「悪役」が登場し、のび太たちを日々、危険に晒しています。
数えてみると、
『ドラえもん』で悪人の登場するシーンは、33話34シーンにも上ります。
その数は、優に50人を上回っています。
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まずは、キャラ別の「悪人に遭遇した回数」をみてみましょう(図1)。
図1:キャラ別悪人遭遇(被害)回数とその割合
さすが、のび太が貫録の第1位で、全体の25%を占めています。
以下、「悪人が登場するシーン」をすべてリスト化してみましたので、ご覧ください。
巻・話 | 人数 | 罪状 | 場所 | 武器 | 被害者 | 状況(犯行の様子⇒その後) |
1巻「コベアベ」 | 1 | 強盗、住居侵入、銃刀法違反 | 源家 | 包丁 | 静香、静香の母 | 静香と母を縛り上げ、「声を出すんじゃねえぞ。そのうち留守だと思って帰るだろう」と口止めを図る強盗。 ⇒のび太が「コベアベ」を使って、最後は交番に飛び込み、「おれをつかまえてくださあい」と警官の元へ・・。 |
1巻「ペコペコバッタ」 | 1 | 強盗、銃刀法違反 ※前科45犯 | 民家屋根上 | 包丁 | 不明 | 強盗をはたらこうとしていたが、「ペコペコバッタ」の効果で腹を切ろうとする。「こんな悪いやつは、死ぬのがあたりまえだろ。」とのび太に包丁を突きつけ訴える。 ⇒のび太、強盗に「警察へ行って、おもわりさんにつかまえてもらったら?」と提案。それを受け入れる強盗であった。 |
1巻「おせじ口べに」 | 1 | 窃盗、銃刀法違反 | 民家庭 | 包丁 | 不明 | のび太の「おせじ口べに」に感動した泥棒、庭の陰から出てきて、「ぬすんできたものだけど、持ってってくれ」とのび太に盗品を差し出す。 ⇒特に描かれず。 |
2巻「怪談ランプ」 | 1 | 窃盗、住居侵入、器物損壊、銃刀法違反 | 剛田家 | 包丁 | 剛田家 | 剛田家に忍び込んだコソ泥、家じゅう探しても十円玉が九枚しかなくてがっかり。 ⇒その後、のび太たちに見つかり大声を上げられ、あわてて家を飛び出し警官の前に出る。 |
4巻「お客の顔を組み立てよう」 | 2 | 住居侵入、窃盗、強盗、暴行、監禁、脅迫 ※前科53犯 | 野比家、空き地のアジト | バット | のび太、ドラえもん | 「モンタージュバケツ」で、前科53犯の大泥望助に変身してしまったのび太。本人とその手下に見つかり、監禁される。 ⇒「モンタージュバケツ」をめちゃくちゃに弄った犯人たち、大泥の顔はぐちゃぐちゃになり、大喧嘩。助かるのび太。 |
4巻「未来世界の怪人」 | 1 | 強盗、殺人未遂、銃刀法違反 | 路上、空き地 | 銃 | のび太、ドラえもん、ジャイアン | 22世紀の凶悪犯罪者が、時空を超えて20世紀へ。秘密を知った3人を「消えてもらおう」の一言で、消そうとする。 ⇒すんでのところで、タイムパトロール隊員により逮捕される犯人。 |
5巻「黒おびのび太」 | 3 | 恐喝未遂 | 空き地 | なし | ジャイアン、スネ夫 | 不良学生三人組、ジャイアンとスネ夫から金をせびる。「やい、こづかいよこせ。なかったら、家へとりに行け。」 ⇒「ブラックベルト」を締めたのび太、3悪党を投げ飛ばす。 |
6巻「どこでも大ほう」 | 1 | 脅迫、器物損壊、銃刀法違反 | 空き地、交番 | 銃 | のび太、ドラえもん | 「どこでも大砲」の存在をしった銀行ギャング、2人に銃を突きつけ「さっさとしないとうつぞっ。」と脅す。 ⇒交番で警官が作っているプラモの船に飛び乗った強盗、警官に御用となる。 |
7巻「ピーヒョロ ロープ」 | 1 | 脅迫、住居侵入 | 野比家 | 包丁 | のび太、ドラえもん | 「おれはどろぼうだ かねをだせ。」とわかりやすいセリフで2人を脅す泥棒。 ⇒「ピーヒョロロープ」で荷造りされて梱包されてしまう悪党であった。 |
10巻「夜を売ります」 | 1 | 脅迫、銃刀法違反 | 空き地 | ナイフ | のび太、ドラえもん | 「夜を売る」商売をしているのび太たちに、「これがあれば、昼でもしごとができる。にげようなんて思うと、これだぞ(→ナイフを突きつける)。よしよし、これぐらい暗ければ、しごともやりやすい。」と脅かす悪党。 ⇒暗闇で警官にぶつかり、御用となる悪党。 |
12巻「ゆうれい城へひっこし」 | 1 | 監禁 | ミュンヒハウゼン城(ドイツ) | なし | ロッテ・ミュンヒハウゼン | 弁護士ヨーゼフは、ミュンヒハウゼン家の財宝を独り占めしようとたくらんでいた。城を売りに出そうとする邪魔者ロッテを、ついに、地下牢に閉じ込めて・・・ ⇒タイムマシンでやってきた先祖のエーリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼンに喝破される。 |
13巻「立体コピー」 | 1 | 窃盗、住居侵入 | 民家屋根上 | なし | 不明 | 立体コピーとなったのび太が偶然指した方角には、泥棒の姿が! ⇒警官に見つかる泥棒。 |
14巻「悪の道を進め!」 | 1 | 詐欺未遂 | 野比家 | なし | 被害なし | ガラス玉を十万円の宝石として売りつけようとする詐欺師。玉子を狙う。 ⇒のび太が道具の力で家のお金をくすねたおかげで、被害者なしで終わる。 |
17巻「ムリヤリトレパン」 | 1 | 強盗、脅迫 | 路上 | 包丁 | のび助 | 警官に追われる強盗に追われるのび助。「じゃまだ!もっと速く走れ!」と怒鳴られる。 ⇒不明。 |
1 | 道路交通法違反 | 路上 | のび助 | 飲酒運転の車に追いかけられる。 ⇒不明。 | ||
17巻「家がロボットになった」 | 1 | 強要罪、住居侵入 | 剛田家 | なし | ドラえもん、のび太、静香 | 「ゴムひもか、たわしか、ちり紙、買ってくんな」と押し売り。中が子どもだけと知ると、「買わねえとひどいぞ!」と家の中へ・・。 ⇒ロボット化した剛田家により、追い出される。 |
18巻「コーモンじょう」 | 1 | 恐喝 | 空き地 | なし | のび太、ジャイアン、スネ夫 | 「おそかったな。早く税金をはらえ。」と、子どもから毎日20円を徴収する極悪人。 ジャイアン「あいつがきてから毎日がじごくだぜ。」 ドラえもん史上でもまれにみるセコさと悪徳さを兼ね備えたキャラの登場。 ⇒誰もが名前を聞くとひれ伏す「コーモンじょう」を飲んだのび太。助けを求めに向かった警察官までもがのび太にひれ伏してしまい、その様子を、耳栓をした悪党が笑みを浮かべながら見ている・・というブラックすぎる落ちでこの話は終わってしまう・・・ |
19巻「天井うらの宇宙戦争」 | 複数 | 住居侵入、銃刀法違反 | 剛田家 | 銃 | 剛田家 | リリパット星を侵略しようとした悪党のアカンベーダー一味。戦場に選ばれたのは地球、そして、基地に選ばれたのはなんと剛田家だった! ⇒ジャイアンのホームランボールで撃墜されたアカンベーダー一味であった・・。 |
20巻「設計紙で秘密基地を!」 | 1 | 未成年者略取未遂 | 路上 | なし | 静香 | 学生風情の男、静香に「よう、遊びに行こうよ。」と誘いかける・・・ ⇒監視していたのび太とドラえもんらにより、クシャミミサイルが発射され、助かる静香。 |
21巻「行け!ノビタマン」 | 複数 | 未成年者略取、監禁、銃刀法違反 | 地球型惑星 | 銃 | 新聞記者の娘 | 「宇宙救命ボート」で、偶然、地球型惑星に降り立ったのび太とドラえもん。 シンジケートの秘密を暴く新聞記者の娘を誘拐(厳密には略取)し、脅迫状を送りつけたギャング一味。 ⇒重力の弱い地球型惑星では、のび太もヒーローになれる。「ノビタマン」として、シンジケートを壊滅したのび太。この星ではのび太らの活躍が、映画化されることにまでなった。 |
22巻「カチカチカメラ」 | 2 | 恐喝未遂 | 路上、空き地 | なし | ジャイアン、スネ夫 | 不良学生にぶつかったジャイアンとスネ夫。「ごめんですむか。おまえら金を持っていたら貸せっ。」と脅され、「ここは人が通る。あっちへつれていこう。」と連れて行かれる。 ⇒空き地に備え付けられた「カチカチカメラ」の効果で、不良に勝つのび太。 |
22巻「しあわせをよぶ青い鳥」 | 1 | 出資法違反 | 路上 | なし | おじさん | 一万円を借りたおじさん、「利息が増えて、百万円よこせ」と借金取りに脅される。 ⇒「チルチルペンキ※」の効果で、幸せが訪れ(青い借金とり)、借金がチャラになる。(※「チルチルミチル」の「幸せの青い鳥」にちなむ) |
24巻「六面カメラ」 | 1 | 強盗、住居侵入、器物損壊、拉致、監禁、殺人未遂、銃刀法違反 | 路上、ならびに新宿区北新宿201くずれ荘五号室 | ナイフ | のび太 | のび太、ビル荒らしの土路坊太の写真を手にして、間抜けなことに「こんな顔の人しりませんか。ゆうべのどろぼうなんです」と偶然本人に聞いて。逆行した土路に、そのままアジトに連れ去られ、監禁される。「顔をとられたからには、いかしておけねえ。」 ⇒監禁中、これまた偶然に犯人の住所氏名をゲットしたのび太。ドラえもんに「空飛ぶ切手」で連絡し、警察官と急行。寸でのところで助かった。 |
24巻「ガンファイターのび太」 | 複数 | その他(西部劇の時代のため、罪状が現行法に当てはまらず) | モルグ・シティ(過去) | 銃 | モルグ・シティの人々 | モルグ・シティに彷徨い込んだのび太。 そこはギャングが暴れまわる無法地帯だった・・・・。 ⇒本物の銃や、「ドリーム・ガン」を使って、30人以上の悪党を蹴散らしたのび太。 |
25巻「あしたの新聞」 | 1 | 窃盗未遂、住居侵入 | 野比家の隣家 | なし | 被害なし | 「あしたの新聞」で隣家に泥棒が入ることを知ったのび太とドラえもん。隣家で張り込みをすることに・・・ ⇒異変を察知した泥棒、侵入せず。結果的に、のび太とドラえもんが住居侵入をしたことになり、玉子とのび助から説教を受ける羽目になる。 |
27巻「細く長い友だち」 | 1 | 強要未遂 | 路上 | なし | 被害なし | 「全日本おしうり組合のセールスマンだがね。なにかかってくんな。なに、いらない?かうまで帰らないぞ。」 ⇒「世話焼きロープ」に追い出される押し売り人であった。 |
27巻「しあわせトランプの恐怖」 | 1 | 窃盗 | 路上 | なし | のび太 | 最後のジョーカーになるまで、幸せを運んでくれる「しあわせトランプ」。運悪く最後の一枚を引き当てたのび太だったが、そのトランプの入ったトランクをひったくっていったのが、運の悪いひったくり常習犯であった・・ ⇒イヌにかまれ、どぶに落ち、車にはねられて、おちたところが交番だったという壮絶な不運に見舞われた窃盗犯であった。 |
30巻「することレンズ」 | 1 | 未成年者略取未遂、窃盗未遂、強盗未遂、住居侵入、銃刀法違反 | 路上、民家 | 包丁 | 会社社長 | 色々と悪巧みをする男。「することレンズ」でその企みを知ったのび太とドラえもんは、「ドジバン」を使って阻止しようとする ⇒生活に困っての犯行だったが、会社社長に見初められ、社会復帰できることになった。 |
32巻「大富豪のび太」 | 3 | 恐喝未遂、未成年者誘拐、銃刀法違反 | 路上 | ナイフ、銃 | のび太 | 「もしもボックス」により、物価が千分の一になった世界で、一万円を持って豪遊するのび太。 「金をよこせ!!」と恐喝される傍らで、身代金目的で誘拐され、さらにそれを略奪しようとする者にのび太が連れ去られた銃撃される・・と、どんどん壮絶な事件に巻き込まれていくのび太であった。 ⇒騒ぎに乗じて逃げ出したのび太、これにこりて、元の世界に戻すことにした。 |
33巻「大人をしかる腕章」 | 2 | 傷害罪 | 路上、公園 | なし | 学生 | バスの割り込みを注意した学生、チンピラ2人組に鼻血が出るほど殴られた上、「かおかしてもらおう」と公園に連れて行かれる ⇒「大人をしかる腕章」で、チンピラどもをこらしめるのび太。 |
34巻「やじうまアンテナ」 | 1 | 強盗、銃刀法違反 | 銀行 | 銃 | 一般市民 | O×銀行において、強盗事件発生。 ⇒犯人は逮捕される。 |
36巻「アドベン茶で大冒険」 | 1 | 強盗、銃刀法違反 | 路上 | 包丁 | のび助 | 「アドベン茶」の効果で、突然、銀行強盗に追いかけられるのび助。パターンとしては、17巻「ムリヤリトレパン」を髣髴とさせます。 ⇒不明。 |
41巻「野比家は三十階」 | 1 | 窃盗 | 野比家 | なし | のび太、ドラえもん | 夜、戸締りの不十分であったのび太の部屋を荒らす泥棒。 ⇒のび太・ドラえもんに見つかって、窓から逃げ出す泥棒だったが、ビルの30階相当になっていた野比家。ドラえもんがパラシュートを付けて助ける。 なお、この騒ぎでテストの答案が町中に大量に散布されるという二次被害が発生している。 |
44巻「たくはいキャップ」 | 1 | 窃盗未遂 | 路上 | なし | 被害なし | 窃盗しようとたくらむ男だったが・・ ⇒「たくはいキャップ」の力で、自分の仕事を見つめなおした泥棒。最後は「おれ、どろぼうに向いてないのかなあ・・・、まじめに働くしかないのかなあ・・・・・・。」と改心。 |
・・なかなか危険な町内ですね。
せっかくなので、登場する悪人たちには、どのような罪状が多いのかを分析してみましょう(図2)。
図2:罪状の分布
犯人は出刃包丁やピストルを持っているケースが多い(図3)ので、挙がってくるのは「銃刀法違反」がトップになりますが、強盗や窃盗、略取・誘拐、監禁といった重罪から、道路交通法違反(飲酒運転)や出資法違反(高利貸し)に至るまで、様々な罪状があることがわかりました。
てっきり、「やい、金を出せ」という典型的なものばかりが描かれているのかと思ったのですが、全然そんなことはなく、その罪状のバラエティの多さに、まとめていてちょっと怖くなったほどです。悪役にも、かなり個性がありますね・・。
参考までに、悪人の使っている武器をまとめてみました(図3)。
図3:悪人の使う武器
もう、平気な顔して包丁や銃がバンバンでてきます。
平和なようでいて、なかなか危険な場所のようです(笑)。
救いとなるのは、登場した悪人は殆どの場合、警察に捕まったり、改心したりすることとなり、結果的に「悪は必ず成敗される」という漫画における正義の原則がほぼいきているところでしょう。
もっとも、一部のストーリーでは、「悪人がその後どうなったか」が語られないものもあるので、ちょっと怖さが残るわけですが・・・。
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ドラえもん世界は、基本的には、きわめて平凡な、どこにでもある、平和な日常世界として描かれています。
しかし、かの『サザエさん』にも泥棒が頻発するように、このような「平和なパターン漫画」の刺激剤として、ここで描かれるような<悪>というものは、「必要なもの」の1つなのかもしれません。
もっとも、現実にこんなに事件が起こったら、たまったものではないのですが・・・。
参考文献: 藤子・F・不二雄 『ドラえもん』1-45巻、小学館(てんとう虫コミックス)
謝辞;
今回の調査は、「ドラ世界には思ったよりも悪人の登場が多いのに気づきました」という、Victorlさまからの貴重な投稿資料に基づいて作成いたしました。
「ドラえもん世界には実は悪人もいる」というのは、見えているようで、見えていなかった貴重な視点だと感じました。実際まとめてみると、悪役にも色々な顔があり、大変興味深かったです。
この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
最終更新: 2012年8月11日(更新番号1)
初版公開: 2012年8月11日