経験者だからつぶさに書ける、パニック発作の諸々 

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ストレス社会で誰もが起こりうる「パニック障害」。完治には相当の根気がいるらしいですが、それでも、この病気とうまく付き合っていく必要があります。
私自身に起こった病の機序はこちらからご覧いただくとして、ここではその解説を素人なりに試みてみたいと思います。

※ちなみに、私は医者ではないので、 記述の正確性については何者によっても保証されておらず、その表現内容に、いかなる誤謬を含んでいないとも限りません。 また、 本記事を閲覧・利用したことによるあらゆる結果について、管理者は一切の責を負わないという点、どうぞご承知おきください。

※なお本記事は、紙媒体で作成した文書をそのままWeb上に起こしております。閲覧に大きな支障はないかと思われますが、予めご了承ください。

【目次】

0.パニックは突然起こる
1.パニック障害とは
2.パニック障害の症状
3.パニック障害の経過
4.パニック障害の原因
5.パニック障害の診断
6.パニック障害と診断されたら?
7.パニック障害の治療
8.セルフケア
9.周囲のケア
10.パニック障害 Q&A


0.パニックは突然起こる

どんな人でも、ふと、パニック(混乱)に陥ることがあります。

予期せぬ衝撃的な事件に遭遇すれば、 誰でも右往左往してしまうものです。例えば大勢の人前で、突然頼まれたスピーチ。急に思い出した大切なこと。予期せぬトラブル—。そんなとき、私たちの心臓はドキドキし、不安が渦を巻き、冷や汗が流れ、喉が乾いて、息も荒くなります。 これは本来、人間(動物)に備わっている正常な反応です。危機に対して全身をフル稼働させようと、心身の働きが一気に高まるのです。

ところが「パニック障害」とは、実際には何の危険も問題もない状況で、突然、こうしたパニックの発作が起きてしまうという病気なのです。
それも、繰り返し、繰り返し—。

1.パニック障害とは

突然、突き落されたような「激しい不安」や「焦燥感」に襲われ、胸がドキドキしたり、息が苦しくなったり、めまいがしたり、冷や汗をかいたりする劇症的な発作が起こることを「パニック発作」といい、このような発作が繰り返し起こる病気を総称して、「パニック障害 (パニック・ディスオーダー、略してP.D.)」または「パニック症候群」と呼んでいます。ここでは、前者の呼び名を用いて説明していきます。

パニック障害は、100人中1〜2人ないし3人が「一生のうちに一度は発症する」といわれているほど、比較的よくみられる病気です(これを分かりやすく言えば、都会の満員電車に乗っていれば、1つの車両で 3〜4人はパニック障害を発症し得る、と表現することもできます)。 好発年齢は25〜30歳で、女性のほうが男性よりも2倍ほど罹患する確率が高いといわれていますが、患者さんは10代から60代過ぎまで、あらゆる年齢層に分布しています。

(1)とても体調が悪いのに、「どこも悪くない」?

ひとたびパニック発作が起こると、患者さんにとっては「この世の終わり」とも思えるような激しい不安感情と、劇症的な自律神経失調症状がたてつづけに現れます。訳も分からず身動きがとれぬまま、 病院に駆け込んだり、酷いときは救急車で搬送されたりするケースも少なくありません。

▼会社員Aさんの場合
会社の帰り道。いつものように満員電車に揺られながら読書をしていると、突然、ふらふらとめまいがしてきました。「疲れているのかな?」「揺れる電車のなかで細かい字を見ていたから、乗り物酔いでもしたかな?」などと考えているうちに、めまいはひどくなる一方です。

次第に、冷や汗が流れてきて、息がどんどん苦しくなりました。「どうしよう、このままでは倒れてしまうかもしれない」—そんな不安感を抱いたAさんは、次の駅で降りて、一休みをすることにしました。駅のホームでどうにか椅子には腰かけたものの、体中がドクンドクンと脈を打ち、頭がぐるぐる回り、いても立ってもいられなくなりとうとうその場でうずくまってしまいました。

気がついたらAさんは、異変に気づいた周囲の乗客の通報で、駅員が呼んだ救急車に乗り、近くの病院へ運ばれている最中でした。はじめての救急車に緊張しながらも、身動きが取れない自分に驚くばかりでした。

救急治療室のベッドで点滴を受けながら、血液検査やCTスキャンなど、様々な検査を受けたAさん。寝ていると、次第に体調も回復してきました。

やがて検査結果を見たお医者さんは言います。「とりたてて悪いところはないようです。疲れが出たのでしょう。あまり根を詰めず、ゆっくり休みを取ることも大切ですよ。今日は落ち着いたら、お帰りくださってけっこうですよ。」

原因が分からず、釈然としない気持ちもありましたが、とりあえず「悪いところはない」と聞かされ、安心したAさん。次の日からは、何事もなかったかのように元気に出社しています。

しかし、「また同じ発作が起こったらどうしよう」という一抹の不安を抱えながら、日常を過ごしていることも事実です。
 

上のAさんの事例は、パニック障害の典型的な「起こり始め」の症状です。

パニック発作を起こして慌ててかけつけたり、搬送されたりする病院では、心臓や呼吸器、脳・神経系、血液、腎臓の病気、または中毒などからくる急性の重篤な症状がまず疑われ、血液検査やCTスキャンをはじめとした、多くの精密検査が行われます。

しかし、こうした体調不良が繰り返しているにも関わらず、何度同じような検査をしても決して異常がみられないのが、パニック障害で起こるパニック発作の大きな特徴です。 そのような場合は、病名として、「過労」や「ストレス」が原因となる以下のような診断が下されることが多いようです。

「自律神経失調症」

自律神経の不調によってからだにさまざまなトラブルが起こる 症状全般を指します。「風邪」と同じく、原因ではなく症状を示しただけの広範な症例名です。パニック発作も広義の自律神経失調症ですから、パニック障害の患者さんの一部には、「自律神経失調症」と診断され たままになっている方がいらっしゃる可能性もあります。

「心身症」

過度のストレスにより体のあちこちに不調が出る状態です。このように診断される場合、代表的なものは胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの胃腸障害を起こしている場合が挙げられますが、ほかにも気管支喘息、心筋梗塞、狭心症、不整脈 、肋間神経痛など、その症例は多岐にわたります。

「片頭痛(偏頭痛)」

激しい頭痛や脈打つような頭痛が起こり、めまいや吐き気を催すことも あります。いわゆる「頭痛持ち」の典型的な症状であり、酷い場合は、頭痛性の嘔吐を伴う患者さんもいます。病院では、沈痛薬を注射して症状を和らげる場合もあります。片頭痛の発生も突然、また繰り返し起こることが多いため、パニック障害との見分けを 明確に付けることは、実は容易ではありません(パニック発作と併発している可能性もあります)。

「緊張型頭痛」

一日中続く頭が締め付けられるような不快な痛みや、ふわふわとした取りとめのないめまいが起こる頭痛です。片頭痛のように吐き気や嘔吐まで進むことは稀ですが、独特の「気持ち悪さ」が続く患者さんもいます。一般的には一過性であるパニック発作と比べ、緊張型頭痛は長続きするのが特徴です。このため、診断は容易に思われますが、パニック障害では発作前後も「何とも言えない体調不良」が持続することはよくあるため、一概には 「これ」と確定的な診断を下すのは難しいかもしれません。

「本態性(機能性)高血圧症」

原因が分からない高血圧全般を指し、多くは一過性、またはただちに気にするレベルのものではないことが特徴です (健常者でも強いストレス下では血圧が一時的に高くなることはあります)。

「心臓神経症」

ストレスにより心悸亢進が起こる症状ですが、とりわけそれが持続する場合に診断されます(健常者でもストレスがかかれば多少なりとも心拍数は上がります)。

「起立性低血圧症」

立ち仕事や急な起立により急激な血圧の低下やめまいを起こす症状です。まれに失神・転倒する患者さんもいます。飲酒、寝不足が誘因になることも多い症状です。1〜2回であればともかく、繰り返すようでしたら精密検査が必要です。

「過換気症候群」

主にストレスによって引き起こされる 過呼吸により、呼吸困難や不安感が起こる症状です。一時的に意識を失い、 その場に倒れこむ患者さんもいます。パニック発作とは親和性が非常に高く、少なくない患者さんが、パニック障害を併発している可能性が高いと目されています。

「過敏性胃腸炎」

高いストレス環境に暴露された状態によって、食欲不振、吐き気や下痢、軟便が続く症状です。急性の場合は、突然の激しい腹痛や嘔吐を来す場合もあります。

「ストレス性胃腸炎」

急性または慢性の吐き気や嘔吐、下痢・軟便、または便秘を繰り返す症状が起こる病気です。過敏性胃腸炎よりも病名としての汎用性が高く、急性の場合はしばしばこちらが選択される傾向にあるようです。

「機能性胃腸炎」

原因が分からない胃腸炎全般を指します。

「メニエール症候群」

激しいめまいが起こる内耳の疾患です。回転性のめまい・難聴・耳鳴り・耳閉感が主症状であり、これらが重なって繰り返すため、強い苦痛を感じます。

「良性発作性頭位性めまい」

頭の位置を動かすことで発生するクラクラとしためまいです。三半規管の障害とされ、一般に良性で予後も良好とされます。 パニック発作によって引き起こされるめまいとの見分けは非常に難しいと言えるでしょう。

「心因性めまい」

ストレスにより引き起こされるめまい、という定義ですが、運用上は、原因が分からないめまい全般を指します。

「過労」

読んで字のごとく、「疲れ過ぎ」「労働し過ぎ」の状態、またはそれによって引き起こされる心身症状をあらわします。しかしこれは「過剰に労働して疲れている」という状態を指しているに過ぎず、原因 (どうしてその症状が引き起こされているかの機序)を示しているものではありません。

「ストレス性○○」

○の中には様々な症状名が入ります。一般に、「ストレス性・・」とついた場合は、「原因不明の・・」と置き換えてもよいでしょう。

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このように、これらの症状はいってみれば「曖昧な診断」がつきやすく、対症療法(頭痛薬、めまい制御薬、 胃腸薬、 整腸剤、制吐剤、精神安定剤、栄養剤などを使って、今出ている症状だけを抑える治療)に終始して、適切な治療が行われないまま、時期を置いて発作が再発するということが繰り返されます。

発作が起こるたびに病院に駆け付ける患者さんは、何度精密検査をしてみても、「異常なし」。病名がはっきりせぬまま、ただただ、また「このような症状がまた起こったらどうしよう ・・・」と気になるばかり。

このようにして患者さんは、漠然とした不安を抱えたまま、毎日を過ごすことになります。

(2)突然始まるパニック発作は「からだの病気」によるもの

パニック障害によるパニック発作には、「普段は元気なのに、急激に体調が悪くなる」という大きな特徴があります。これといった原因が見当たらないのに、「突然始まる」ことが 、もっとも患者さんを悩ませ、また大いに苦しませます。

発作は、必ずしも緊張する場面や、「一世一代の大勝負」といったシーンで起きるのではなく、一般的に見て、「どうしてこんなところで発作が起きるのか」と、患者さん本人も周囲も、まさに「青天の霹靂」であることがほとんどです。 上記の例のように、帰宅途中や電車の中、果ては自宅でくつろいでいるときにまで、この発作は襲ってきます。「いつこの発作が起こるのか」と患者さんは常に、漠然とした「不安」を抱えることになります。

普段は普通の人と変わらず元気な分、ひとたび発症すると単に「気のせい」だとか、「気の持ちよう」、あるいは「疲れすぎ」「性格的な問題」と片付けられてしまうこともあるのですが、これは 原因を心因性だけに求められる病気ではないため、単に「気のもちよう」 で治るわけではありません。

実はパニック障害によるパニック発作は、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れることによって起こる、「からだの病気」であることが分かっています。 したがって、パニック障害は、適切な治療によって必ず治るものです

完治するまでには比較的長期間を要しますが、主治医と相談しながら、根気強く治癒に向かって取り組んでいきましょう。

2.パニック障害の症状

パニック障害には、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」という代表的な3つの症状があります。放置しておくと、 発作から不安、そして恐怖へと症状が悪化する方向へ遷移していくのが特徴です。さらにパニック障害の患者さんは、症状が進むと高い確率で鬱病を併発する傾向があ るとされていますから、病状が進行する前に、早めの対処をすることが大切です。

(1)パニック発作

パニック発作は、パニック障害の「入口」となる症状です。発作時には、次のような自律神経に関係する症状のうちのいくつかが突然、併発して起こります。「この症状だったらこの病気」と判断のしにくい症状 (不定愁訴といいます)が、多彩に現れるのが特徴です。内科的にみて「異状なし」と診断されるこうした発作が繰り返して起こるようになると、一般的には「パニック障害」と診断されます。

パニック発作で引き起こされる主な症状をみてみましょう。以下のうち4つ以上が同時多発で発生した場合は、パニック発作の可能性が濃厚です。

①-a 急性循環器系症状: 動悸、心拍数の増加・胸や心臓がドキドキする(心悸亢進)

突発的に、循環器系で起こる激しい症状で、「からだ全体がドキンドキンと脈打っている」「からだの中から心臓の音が聞こえてくる」「心臓をギューっと前につかまれたようだ」「心臓が今にも張り裂けそう」「心臓が口から飛び出してきそう」「のどの血管がドキドキする」 「血管から血が張り裂けそうだ」「どうすることもできないくらい胸が苦しい」などと表現されます。 これらは心臓や血液に関わる症状ですので、いたずらに不安感をあおり、その他の症状を悪化させます。

①-b 急性循環器系症状:急性の血圧変動、鬱血感、むくみ

パニック発作では、脈が急速に速くなり、血圧が急上昇(または急降下)することがあり、同時に脈打つような激しい頭痛や強い立ちくらみを覚えます。そのような場合は、「頭が膨れる感じ」「頭に血がのぼる感じ」 「首から脳へ大量の血が逆流している感じ」といった血圧変動に伴う症状や、「首や顔、目(の血管)が浮いてくる感じ」「鼻の粘膜から血が出そう」 「身体がふくらむような感じ」「頭のどこかが鬱血したような感じ」 「顔がむくんできた」「首が破れそうなほど脈打っている」などと表現される鬱血症状が現れます。 心悸亢進症状と併せて起こりやすい、大変不快な症状です。

②発汗症状:大量の冷や汗、脂汗をかく

パニック発作では、 突然、血の気が引くような感覚と同時に、大量の冷や汗をかいたり、脂汗が全身から吹き出たりと、普段は経験をしないような「変な汗」が顔や額を中心に出てくることがあります。 これらの汗は、「何とも言えない不安感 、不快感、焦燥感」を伴って、発作直前、または最中に起こることが多いものです。しばしば、他人から見ても分かるほどに全身が汗でびっしょりになり、顔面が蒼白になります。それがさらなる不安感を煽り、さらに汗が吹き出るという悪循環につながっていきます。 吐き気や戦慄と一緒に起こることも多い症状です。 こうしたとき、患者さんの顔は大抵、ひんやりと冷たくなっています。中には、「自分の顔が冷たくなっていくのが分かる」という患者さんもいるほどです。

③身体や手足の震え(戦慄)

「手の指が小刻みにゆれる」「足がぶるぶる震える」などと表現されます。酷い場合は、 手足全体が痙攣するように小刻みに揺れ続けたり、顎や歯があたかも寒中で水泳をしたときのようにガチガチと震え続けたりすることもあります。また、あまりの震えに、こむら返りを起こしたり、翌日、筋肉痛が残 ったりすることもあります。
こうした戦慄は自然に起こることもあるのですが、むしろ「自分自身で震えをコントロールしているような震え」「震えたいと思ってわざと震わせているような震え」と表現される、本人にとっては大変不快な震え(実際はコントロールできていないのにあたかも自身でコントロールしているかのように錯覚するような異常な感覚)となって起こる場合もあり、 そのことが不安感を増幅させます。しばしば大量の発汗や吐き気と併発します。また、身体のどちらか片側だけにこの症状が起こることもあります。 寒さで鳥肌が立つこともあります。

④呼吸器症状:息切れ、呼吸が速くなる、息苦しい感じ、息が詰まる、窒息感(呼吸困難)

症状が軽い場合は、ちょうど激しい運動をした後のように「ハッハッハッ」と息が荒くなる程度ですが、大きな発作になると、いわゆる過呼吸様の症状がでます。
一般的には、 「空気が薄い感じ」「どう呼吸していいか分からない(呼吸の異常感覚)」「のどがえずいてウッ、ウッともだえる」「今にも窒息しそう」 「のどが痙攣する」「とにかく苦しくてどうしようもない」「のどに何かがへばりついていて、それを取ろうとしても取れずに息が苦しい」などと表現されます。
過呼吸症状が酷い場合は顔面が紅潮したり、逆に蒼白になったりして、そのまま失神することもあります。さらに症状が進むと、テタニー症状といって、ピリピリとした手足の震えや痙攣 ・こわばりが併発し、一時的に手足や唇がかなり冷たくなって、紫色になってしまうこともあります。

⑤胸の痛みや不快感

あとで 「心臓発作かと思った」と思い出されるような、うずくまってしまうほどに重く激しい胸の痛みを伴う重症発作から、肋骨部がチクチク痛む程度(肋間神経痛様の症状)という軽いものまで、胸部にさまざまな不快な症状が出ます。場所が心臓や肺の付近であるため、 発作時の不安感を高め、他の症状を悪化させます。
この症状が出る前後に、心臓や肺に薄い膜かゴムのような何か異物がへばりついたような、異常感覚(胸部違和感)がみられることもあります。 「胸にゴムのようなものがくっついている」と表現されることが多いようです。

⑥耳鳴り、耳が遠くなる感じ、耳の違和感、難聴

キーンという耳鳴りのほか、「(ちょうどトンネルの中に入った時のように)空気がツーンと詰まった感じ」「ひとの声が聞こえにくくなる」「音が普段と違って低く(高く)聞こえる」などと表現される、不快な症状が起こります。 また、特定の音(機械音や子どもの甲高い声、車の走行音、テレビの音など)に過敏になることもあります。
こうした耳の異常は、特に頭痛や強い不安感の前駆症状、パニック発作そのものの前兆として現れやすいものです。

※なお、こうした症状が「パニック発作」とは無関係に単独で発生した場合、「外耳炎」「中耳炎」「内耳炎」、もしくは、強いストレスなどが原因で難聴を来す「突発性難聴」の可能性もまれにありますので、ただちに耳鼻科を受診し、適切な診断を受ける必要があります( 特に突発性難聴は恐ろしい症状で、放置しておくと聴力を失う可能性もあります。通常は投薬治療を行いますが、症状によっては入院により 、比較的長期間の絶対安静が求められます)。

⑦胃腸症状(胃):吐き気や腹部の不快感

「胃をギューっとつかまれて引っ張り上げられる感じ」「お腹がぐるぐる回って変な感じ」「胃の鈍い痛み」「このまますべてを吐き出してしまいそうな恐怖」 「胃の内容物が動いているのが目で見えるような不快感」「胃が口から出てきそう」などと表現される胃腸の異常感覚で、強度のストレス性胃炎や急性胃炎と似た症状が起こります。
胃に実際の異常があるわけではないので、そのまま嘔吐まで進むことはまれですが、嘔吐の前駆症状として生唾や生あくび、空咳が出やすくなり、口内が急速に乾いてくることもあります。特に嘔吐感が強いときは、生唾の嚥下困難や強い空咳が起こり、呼吸までが苦しくなることもあります。 のどの異物感などを併発することもしばしばあります。こうした吐き気は不安感を増幅させ、他の症状をさらに悪化させます。 特に冷や汗や戦慄を併発することが多いようです。

⑧胃腸症状(腸管):急激な腹痛、下痢

「今すぐに腸そのものや内容物がそのまま全部出てきてしまいそうな猛烈な腹痛」「全身のふるえや不快感を伴う激しい腹痛」「腸を上から下へ思いきり引っ張られる感じ」「お腹がぐるぐるとうずく」などと表現される症状が特徴の、激しい腹痛が起こります。 しばしば1回〜数回の下痢(水様のこともあれば粘膜様、軟便のこともある)を伴います。お腹を抱えて慌てて トイレに駆け込む際、「腸の内容物が動いているのが感覚的にわかった」というケースもあります(腸部の異常感覚)。
急激な下痢をしたあとは、全身の激しい震えとともに猛烈な嘔吐感、脱力感、めまいが襲うことがあり、急性胃腸炎や神経毒系の食中毒を疑って、余計に不安になることがあります。しばしば、手足の小刻みな震えや微熱(熱感)、だるさ、腹部筋肉の痛みや痙攣を併発します。

※経験的に、排泄を済ませることにより、他の症状(めまいや異常発汗など)が、ケロッと治まる場合があります。こうした症状が出た場合、その場で我慢することなく、トイレ等に駆け込む方が対処法としてはよいようです。 後述する通り、腸管にはセロトニンが多数集合しているため、からだのバランスを胃腸症状の発現によって整えているのではないか、と言う仮説も成り立ち得ます。

⑨めまい症状:めまい、血の気が引く、頭が軽くなる、ふらつき、気が遠くなりそうな予感

パニック発作のめまい症状は、急激に起こることが特徴です。 「頭からサーっと血の気が引く感じ」「脳の血管が切れたような感じ」「頭を後ろから引っ張られるような感じ」「このまま気が遠くなるような感じ」 「頭がクラクラして気持ちが悪い」「急に乗り物酔いをしたような気分」「二日酔いや悪酔いをしたときの感じと似ている」「立ちくらみをしたような気分」「頭がモワーっとして気を失いそうになる」などと表現されます。 とにかく「気分が悪い」感覚です。
このときのめまいは回転性(目がクルクルと回る)のこともありますが、しばしば頭がクラクラするような「非回転性めまい」や頭がフワフワするような「浮動性めまい」として起こることが多い傾向にあります。 酷い場合はその場でうずくまったまま、立ち上がったり、まっすぐ歩いたり、そのままの姿勢で落ち着いたりすることができなくなります。また、起立性低血圧(いわゆる脳貧血)に似た症状を示すことがあり、実際に顔面が蒼白になって、 激しい吐き気を催したり、急に失神したりすることもあります (赤血球数やヘモグロビンの濃度を調べることにより、パニック発作による症状か、脳貧血を起こしているかの判別が容易にできます)。
このような急激なめまい・ふらつきが起こると、不安感がかなり増幅されるため、他の症状と相俟って、発作はさらに悪化する傾向にあります。またこれらの症状は、 発作最初期からはじまって発作収束後にも残遺しやすいという特徴があり、患者さんにとっては特に不快な症状の1つです。

⑩片頭痛様の激しい頭痛

「こめかみの脈打つような頭痛」「後頭部から側頭部にかけてのキリキリとした頭痛」「こめかみからおでこ、目の上にかけての不快な痛み」「悪心を伴う頭痛」「目の前がチカチカする頭痛」「ズキズキとした頭痛」などと表現されます。
これらはいわゆる片頭痛様の症状で、激しい痛みや、しばしば併発する悪心、めまい、強い吐き気のために、その場でうずくまってしまうこともあります。 パニック発作が起こってしばらくしてから突然、この症状が発現することも多くみられます。 また、しばしば緊張型頭痛様症状と併発します。

⑪緊張型頭痛様の鈍い頭痛

「頭を鉢巻などでギューっと締め付けられたような頭痛」「目の周囲の痛みを伴う頭痛」「後頭部の両側からじわじわと襲ってくる鈍い痛み」「頭の上の圧迫感」「頭重感がダラダラと続いてだるい」 「後頭部からこめかめにかけての鈍い痛み」 「フワッとめまいのするような頭痛」などと表現されます。
これらはいわゆる緊張型頭痛様の症状で、頭部のうっとうしさ、ダラダラと続く不快感が特徴的に起こります。前駆症状として、ひどい肩や首のこりを併発することが多く、発作中はしばしば、軽い吐き気や浮動性のめまいを併発します。こちらも、 片頭痛様の症状と同様、発作が起こってしばらくしてから発現することが多い症状であり、片頭痛様症状と併発して起こる傾向があります。

⑫非現実感や自分が自分でない感覚(現実感の喪失)

突然、 「フワフワとした浮遊感」「頭に雲かもやがかかったような変な感じ」「自分だけ別の世界に取り残されたような感覚」「自分が自分でないような感じ」「自分を客観的に眺めている感じ」 「自分をもう一人の自分が動かしている感じ」「自分だけ取り残された感じ」「自分と周囲の存在がピンとこない感じ」「感情が湧かないという感情を感じる」「妙な胸騒ぎがして 、いてもたってもいられない」「妙にそわそわする」 「頭の上がぞわっとする」「脳の中を何かに抑えつけられているような感じ」「頭の中に手を入れられてかき回されている感じ」 「体は苦しくてどうにもならないのだが、妙に落ち着いていてそれが逆に怖い」などと表現される、平常時では考えることのないような異常な感覚を来す、各種の精神症状が起こります。

⑬このままおかしくなってしまう、自分は狂うのではないかという不安感・恐怖感・焦燥感(自己コントロールや精神異常に対する恐れ)

「どうしようもできない」「居ても立ってもいられない」「身の置きどころがない」「大声で叫んでこのまま倒れこみたい」「思い切り走りだしたくなる」 「このまま狂ってしまうかもしれない」「よく分からないがこのままではまずい、しかしどうしようもない、でも何とかしたい」などと表現される、極めて不安な感情の発作です。
この不安は、同時に発生しているあまりにも強い身体症状に伴う 、自分自身の身体に対する自己防衛的な不安であると同時に、「不安が不安を呼ぶ」とでもいうような、心の底から湧きあがってくる感情そのものでもあり、コントロールが非常に難しいものです。もっともはじめに出現することが多い、パニック発作の中心的な症状の1つです。

⑭強い恐怖感

代表的なのは、「このまま死んでしまうのではないか」と強い不安感に襲われる(死亡恐怖)、「ここで嘔吐してしまうのではないか」と固まってしまう(嘔吐恐怖)、「ここで漏らしてしまうのではないか」と震えてしまう(失禁恐怖)、「気を失ってしまうのではないか」と気が狂いそうになる(失神恐怖)などが挙げられます。たいていはその場でうずくまってしまいますが、「助けて!」と大声で張り上げ たり、中には恐怖のあまり涙を流したりしてしまう患者さんも見受けられます。いずれもほとんど起こり得ない非現実的な妄想が不安感を増幅している、いわば「自分の生みだした恐怖感」なのですが、発作時は「現実に起こり得る可能性が非常に高いこと」と認識され、患者さんを恐怖のどん底に陥れます。しばしば循環器系症状やめまい症状と併発する傾向にあります。

⑮四肢の異常感覚(しびれやうずき感)、強い肩こりや筋肉のこわばり

「手の先がピリピリする」「手足が冷たくなって指が曲がらなくなる」「体が固くなってくる」などと表現されます。足がジンジンしたり、全身あるいは腕などをはじめとした特定部位の神経がピリッとするような感覚もあるようです。 しばらくして、「体の一部がしびれて動かない」「身体中がぞくぞくして鳥肌が立つ」ような感覚に襲われることもあります。また発作前後に、急激に肩や首筋が岩のように固くなる (こわばる)場合があります。これはしばしば頭痛や急激なめまいの症状と併発します。

⑯寒気またはほてり、のぼせ感(皮膚の異常温冷感)

外気や直前の体調などに関係なく、手足を中心に震えるほど寒くて寒くてたまらなくなる場合もあれば、顔や頭などに妙なあたたかさ(のぼせ感)を覚える場合もあります。発作の中期から発現し、発作後もある程度続きやすい異常 な感覚です。

⑰目の異常感覚

発作の直前または最中に、「目がチカチカする」「目がかすむ」「目がくらむ」「目が異常にかゆい」 「目が妙に乾燥する」「目を開けているのがつらい」「目の前が真っ暗になる(眼前暗黒感)」「視力が急に落ちる」「視野が狭まった感じがする(視野狭窄感)」「色の見え方がいつもと違う」 「片目ずつ見え方が違う(ピントが合わない/見える色がそれぞれ異なる)」などと表現される 、目の異常を覚えることがあります。 頭痛の前駆症状として現れる場合は、「目の前がフラッシュ状に光る/もやもやしたもの(光や黒い点など)が見える/ 格子状のパターン(しばしば黒と白)が見えたり、それが渦を巻いたりする/突然、視野が狭まる」症状(これを閃輝暗点といいます)がしばしばみられます。 これらは、めまいや片頭痛様症状と併発することも多くあります。

⑱だるさ、脱力感

主に発作後に、急激なだるさや脱力感が襲ってくる場合があります。特に猛烈な吐き気の直後に訴えられることの多い症状で、手足のピリピリとした「しびれ」がしばしば併発します。

⑲のどの渇き、唇の異常乾燥

主に発作後に、身体から水分が失われたような感覚を覚えます。実際に唇が異常に乾燥している場合、吐き気や嘔吐感・下痢を併発しているとき、異常発汗等がみられるときは、 突然の脱水症状を起こしている場合があるので、 経口(嚥下困難時は点滴)での補水が必要です。

⑳微熱

発作前後に、原因不明の微熱が続くことがあります。熱が出る前に、戦慄(震え)を伴う猛烈な寒気を感じることもありますが、高熱が出ることはまれです。

これら 様々な症状がありますが、いずれも、患者さんを恐怖に落とし得るに十分な「破壊力」を備えています。

繰り返しになりますが、 こうした症状を伴うパニック発作は、「前触れのない突然の発作」です。症状は、多くの場合10分以内でピークに達し、通常は30分〜1時間で落ち着いてきます。しかし場合によっては半日程度、不快な症状が残ることもあります。 特にめまいや微熱、だるさや脱力感、それに「不安感」は残りやすいようです。

発作そのものは比較的短時間で落ち着くのですが、 いくつもの症状が劇症的に併発する大発作の場合や、長期間治療されずに放置されたとき、あるいは治療が不十分な場合は、しばしば「残遺症状」が発生します。 この残遺症状では、上述したような自律神経失調症状のうち 、発作の時に経験された中心的な症状が、2〜3程度、いつの間にか現れて、それがだらだらと続き、本人も気付かないうちに消えていきます。

この症状はパニック発作と比べると数段軽く、発作と比較すればたいていは耐えられるものですが、1日から長い場合で数日持続するため、患者さんにとっては大変不快なものに感じられます。これを特に、「非発作性愁訴」と呼ぶことがあります。代表的な症状には以下のようなものがあります。

①息苦しさ

何となく息がしずらかったり、のどがえずく感覚が続いたりします。空咳や心拍数の増加(心悸亢進)といった症状がみられることもあります。

②ざわつき感

胸がざわざわしたり、頭がぞわぞわする感覚がだらだらと続きます。こうした感覚は、生活上の何らかの刺激(ちょっとした外出など)をきっかけに急激に起こることもあるため、新たな不安発作の引き金になることも多い症状です。

③めまい、ふらつき

「地面が揺れるような感覚」「頭がふわふわしている」と表現されるような、浮動性のめまいが周期的に起こります。発作時ほどの強さではありませんが、発作時からずっとふらつきや血の気が引いたような、「気持ちの悪い感覚」が続いているように感じられるため、大変不快です。乗り物酔いに似ている症状を引き起こすこともあり、軽い吐き気を覚えることがあります。

④頭痛、頭重感

片頭痛様あるいは緊張型頭痛様の症状がだらだらと続きます。発作時よりは痛みの程度は軽いものの、不安の増幅を引き起こします。

⑤身体のだるさ

風邪をひいたときのように、とにかく全身がだるく、じっとしていたいと思えるような感覚です。「体が鉛のついたように重い」と表現されることもあります。

⑥現実感の喪失

しばしば、「雲の上を歩いているような感じ」「自分が自分でないような感じ(自己客観視)」という異常な感覚が続きます。

⑦手足のしびれや震え

手足がじんじんとしびれたり、手先が震えたりする症状が続きます。

⑧微熱

原因不明の微熱がだらだらと続き、風邪に似た寒気や頭痛などの不快な症状が併発します。

⑨目の異常

目のかすみ、瞼の小刻みな痙攣、目の周囲のちくちくとした痛痒さ、ピントが合いにくいなど、目に異常感覚が起こります。

⑩耳の異常

しつこい耳鳴り、(トンネルに入った時のような)耳の空気が抜けたような感覚など、耳の異常が発生します。

このように激しい身体症状が現れている(あるいは残遺症状として続いている)にも関わらず、病院で精密検査を受けても異常(「器質的な異常」といいます)はみつかりません。その結果に納得がいかず、病院や医師を変えて検査を繰り返す場合も多いのですが、その間に適切な治療を受けないでいると、却って病状は悪くなっていきます。

パニック障害によるパニック発作は、内臓や血液、脳の器質的な異常が原因ではないことを理解しましょう。 さらにここで、「パニック発作」は「パニック障害」の1つの症状であるということを正しく理解しておかねばなりません。

パニック発作が繰り返し起こり、これに「不安」や「回避行動」を伴うものが「パニック障害」と呼ばれるものです。単発的なパニック発作は、パニック障害以外の疾患でも発生することがあります 。たとえば高所恐怖症の人が展望台で下を覗くとパニック発作を起こすことがあります。また通常の人であっても、急激な緊張感を抱いたり、突然の恐怖に遭ったり、 嫌な思い出(トラウマ)を急に思い出したり、ウイルス性のかぜなどでかなりの高熱が出る前には、パニック発作様の症状を引き起こすことがあります。 特にトラウマによりパニック発作が発生する症状を、PTSD(心的ストレス後外傷)と呼ぶのは有名です(ただし、PTSDで必ずパニック発作が発生するわけではありません)。

(2)予期不安

パニック障害でひとたびパニック発作を発症すると、翌日から数日以内にかけての比較的短い間に再び発作を起こしたり、大発作を起こした場合は特に、1週間〜1か月のスパンで軽い発作が続いたりします。あるいはひとたび治まったかのように見えた発作が、症状の比較的軽い小発作の時期を経て、数か月〜半年後に再びぶり返すこともあります。

すると「あの恐ろしい発作がまた起きるのではないか」という不安感が生じます。これを「予期不安」といい、パニック障害の典型的な症状です。発作を繰り返すことでこの不安はさらに強くなっていき、より症状を悪化させていきます。

「予期不安」と呼ばれる症状には、以下のような症状があります。

①発作を起こしてしまうことそれ自体への恐怖(当然恐怖)

「またあの発作が起きたらどうしよう」
「もう二度とあんな発作は経験したくない」
という、パニック発作を起こした人であれば誰でも当然に起こる、不安な気持ちです。

②発作によって引き起こされてしまうことへの恐怖(想像恐怖)

発作が起きた時に、
 「そのまま死ぬのでは」
「自分は何かの大病(不治の病、重篤な精神障害)なのでは」
「その場で気を失ってしまうのでは」
「突然事故を起こすのでは(特に自動車の運転時)」
「何かあった時、誰も助けてくれないのでは」
「その場からすぐに逃げ出せないのでは」
「取り乱してしまい、人前で恥をかくのでは」
「突然、倒れたり、吐いたり、失禁したりして醜態を晒すのでは」
「他人に迷惑をかけるのでは」
といった、発作によって起こりうる状態をあれこれと想像して起こる強い不安感です。

これらの不安感は、パニック障害の症状が進めば進むほど、またパニック発作を起こせば起こすほど広く・深く抱くようになる感覚です。これはいくら周囲の人が「気の持ちよう」「病は気から」と励ましてみたところで容易に解消されるものではなく、むしろ「そう思ってはいけない」と患者さん自身が思うことで、却って不安感を誘発することになります。不安感の増幅は、やがて患者さんの日常生活や社会生活に大きな影響を与えていくことになります。

(3)広場恐怖

パニック発作を繰り返し経験し、予期不安が高まると、患者さんは「特定の場所や状況」を避けて行動するようになります(回避行動)。これを「広場恐怖」といいます。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

①発作が起きた時にすぐに助けを求められなかったり、逃げ出せないような場所を避けるようになります

例えば、

●新幹線や特急列車、飛行機など

高速で長距離を移動する交通機関を避けるようになります。

●電車やバス、フェリーなど

自分で乗降場所を指定できない交通機関を避けるようになります。特に「快速」や「急行」など、停車場所を飛ばすものは恐怖が増し、典型的な例では「各駅停車しか乗れない」 「電車そのものに乗れない」といったこともしばしば起こります。

●自分で自動車を運転すること

特に、自由に乗り降りのできない高速道路や高架橋、山道などでは恐怖感が増幅します。やがて、今までは何でもなかったクルマの運転を避けるようになります。

●駅や通勤電車、百貨店・映画館・劇場など

人ごみはパニック発作との親和性が高く、患者にも「思い当たる節」「不安な要素」がたくさんあるため、これらの場所を避け、畢竟、引きこもりがちになります。

●地下街・地下道・地下鉄・トンネル・エレベーター、タクシーなど

「広場恐怖」という名前がついているものの、「閉鎖的な空間」は、「容易に出られない」という点で、患者の恐怖感を倍加します。

●美容院・床屋やマッサージ、サウナ、歯科、ジェットコースターなど

特殊な身体的拘束を要求される場所は、上述の「閉鎖的な空間」と同様、「容易に抜け出せない」という意味で、患者にとっては大きな恐怖となります。

●スーパーのレジやエスカレーターなど

自分の意志だけでコントロールの出来ない行列は、「人ごみ」「閉鎖的空間」「拘束性」といった悪い要素が揃っており、広場恐怖に陥りやすいものです。これを特に「行列恐怖」と呼びます。

●大きな公園など、広い屋外スペース

「広場恐怖」の名の通り、あまりに開放的な空間では、却って「逃げ場」がないことを感じ、広い屋外スペースを避け、かつ、恐れるようになります。

②過去にパニック発作の起きた場所で、もう一度そこに行くと同じような発作が起きるのではないかと思い、そのような場所や状況を避けるようになります

例えば、オフィスでパニック発作を起こした場合は出社恐怖につながることがあります。症状は人によって様々で、発作が起こったときに着ていた服を着られなくなったり、発作を起こした時に食べていたものを口に入れられなくなったり・・・多くの事例があります。

広場恐怖は、パニック障害の中ではもっとも最後に発現する症状です。

広場恐怖の全くない方もいますが、ほとんどはある特定の状況(誰かと一緒に映画館に行くなど)を避けるだけで、通勤・通学・ショッピングもでき、日常生活にはほとんど支障がないという場合が多いようです。

しかしパニック障害が重症化すると、ほとんどの交通機関が独力では利用できなくなったり、近場の最低限必要な場所にしか出かけられなくなったりし、最終的には付き添いなしでは外出すらままならず、ほとんど家に引きこもってしまうというケースもあります。

この「広場恐怖」が発生し、拡大する前にパニック障害の病状を喰い止めていく必要があります。

3.パニック障害の経過

パニック障害は、適切な治療を受ければ必ず治る病気ですが、多くの人がパニック障害という病気を知らないため、パニック発作が起きても「疲れがたまっているのだろう」と病院へ行かずに休養だけで済ませたり、劇症化して慌てて病院に駆け込んでも検査結果に異常がないため 、「自律神経失調症」「過労」というはっきりしない病名を告げられて、適切な説明や治療を受けられず、本来の病気がなかなか改善しないことがあります。

「過労」や「ストレス性○○」と診断されている人の中には、間違いなく「パニック障害」を抱えている人がいるものと考えてよいでしょう。

患者さん本人も普段は元気ですから、「休めば治る」と思いがちです。さらに周囲が患者さんに「あまり気にしすぎないこと」などと声をかけることで、病気の進行には目が向けられず、余計に症状を悪化させてしまうこともあるようです 。しかし、「気にすること (不安になること)」そのものがパニック障害の病状であることを忘れないでください。

パニック障害は放置すると慢性化します。慢性化したパニック障害は、やがて「鬱病」や「心気症」発症の原因となります。 パニック障害は、一般に次のような経過をたどっていくといわれています。

(1)パニック発作の頻発

パニック障害の初めの時期は、パニック発作が頻繁に起こります。多くの人では、初めての発作から1週間以内に第2回目の発作が起きます。同じ週に3〜7回も起こることがあり、中には1日に1回以上発作を起こす人もいます。 この時点でなるべく早く適切な治療を受けることが、治療を長引かせないためにも重要なポイントです。

パニック発作では、ふつう4つ以上の症状が同時多発的に出現します。仮に一度発作が起こらなくなったと感じても、しばらくして再び発作が再発した場合は、それまでに残遺症状や、症状が1〜3程度の軽い体調不良(非発作性愁訴)が続いていなかったかどうかを確認する必要があります。

発作症状数が多くなるに従って(大発作といいます)、そのパニック障害は重症化しており、それだけ病気が長引く可能性が高いと判断できます。

(2)予期不安と回避行動の発現

パニック発作を繰り返していると、発作が再発することへの恐怖(予期不安)や発作を恐れて外出ができなくなる(広場恐怖)という回避行動が発現します。

(3)気分の落ち込みと抑うつの発生

予期不安や広場恐怖の深化に伴い、気分が落ち込みがちになり、鬱病を発症することもあります。 症状を「鬱病」にまで悪化させないうちに、できるだけ早期に、適切な治療を根気強く続けていくことがパニック障害克服のポイントとなります。

(4)鬱病を防ぐために

パニック障害患者の約半数は、以下に挙げるような「鬱状態」または「鬱病」を併発するといわれています。様子がおかしいときは、すぐに医師に連絡しましょう。早期発見・早期治療がポイントです。

①意気消沈型鬱状態

発作の程度が軽くなっても、なお発作(症状が1〜3個以下の非発作性愁訴を含む)が続いているままで放置していると、常に「予期不安」がある状態が続き、やがて自分の病気以外には周囲のことに全く関心がなくなり、意欲がどんどん減退していく 、抑うつ的な症状が進んでいきます。

このような状態を、「意気消沈型鬱状態」と呼びます。この鬱は、本人はもとより、家族にもなかなか気付かないまま、ゆっくりと忍び寄ってくる症状です。

周囲から見て、患者さんの関心の幅が狭まっていたり、妙にやる気が衰えていたりと、何となく「おかしい」という感覚を持った時には、すぐに主治医に相談しましょう。この状態は、適切な治療(抗うつ薬の処方)によって 、急速に回復することが多いようです。

パニック障害の治療には通常、抗不安薬も使用することになりますから、パニック発作の症状が軽くなっても、常に医師の指示を守り、自己判断で薬は中断しないようにすることが大切です。

②パニック障害併発型鬱病

パニック発作が消失する前後、またはパニック発作が起こる前に、強い抑うつ気分が出現する「鬱病」が発生することがあります。これを「パニック障害併発型鬱病」といい、パニック障害の治療に加えて、 専門的な鬱病の治療が必要になります。

パニック発作の前後に、次のような症状のうち4つ以上が持続的に認められれば、「パニック障害併発型鬱病」がかなり強く疑われます。 本人、または周囲の方が気づいた場合は、ただちに主治医に相談しましょう。

a.ほとんど1日中気分が落ち込んでいる

周囲から見て、「笑顔が消えた」「表情に乏しい」、あるいは自身を振り返って「問いかけに無反応でいるほうが楽な気がする」「何となく感動が減った」などの症状がある場合は 、注意が必要です。

b.何に対しても興味も喜びも持てない、楽しめない

じわじわと忍び寄ってくる無感動症です。家族でテレビを見ている時、笑うべきシーンで一人だけ笑っていない、などという状況から発覚することもあります。

c.食欲がない、または食欲がありすぎる、そのため体重の急激な変化(増減)がある

食事に対する感動が異常に減っていたり、逆に以前とは比べ物にならないほどの「どか食い」をしていたりするときは要注意です。

d.3日以上続く不眠や睡眠の悩みがある(寝付けない、寝過ごす、早朝や深夜など変な時間に目覚める、あるいは寝すぎる)

よく見られるケースが、なかなか寝付けなかったり、深夜や明け方に何度も目が覚めたりするというものです(眠りが浅い こと。この症状がひどい場合は総称して「不眠症」と呼ぶことになります)。逆に、「寝すぎてしまう (寝ても寝ても眠い、または次の日の夕方まで寝続けてしまう、昼間に眠くなるなど、つまり「過眠」)という悩みを抱える場合もあります。こうした睡眠の異常が頻繁に起こるようでしたら、早めに医師に相談しましょう。

e.頭の回転が鈍い気がする(うまく話せない、頭が空回りする)

仕事中に自分が何を話しているのか分からなくなったり、物事の優先順位が付けれらなくなったり、急に頭が真っ白になって「フリーズした」という感覚に襲われたら、 脳が危険信号を出しています。簡単な言葉が出てこなくなったり、忘れっぽくなったり、人の話を上の空で聞いたりしているようでしたら、すぐに医師に相談しましょう。

f.理由もなくいらいらする

自分自身が「こんなことでいらいらするのはおかしい」「ささいなことでキレやすくなる」と感じるようなことがあった時は、脳からの注意信号ととらえましょう。

g.疲れ易く、活力が出ない

1週間ほど休暇を取っても気力が起こらない場合は要注意です。

h.やる気が起こらない

好きなジャンルの本や音楽、テレビの内容が頭を素通りしていると感じた時が脳の注意信号です。 最初のバロメーターは、習慣的に読んでいる朝刊や朝のニュースなどを見る機会が減っていないか、です。

i.些細なことに申し訳ないと悩む

ここ1カ月ほどを振り返ってみて、「すいません」などの「お詫び言葉」が異常に口癖になっている場合は要注意です。

j.自分は価値のない劣等な人間と思う

周囲の人から見て、患者さんが自己卑下をするような発言が多くなったと感じた場合は、早めに医師へ相談するよう勧めてください。

k.根気がない(落ちた)

何事をするにも簡単に疲れてしまい、長時間続けられなくなったと感じたら、要注意です。

l.日常の簡単なことが決断できない、集中力がない(落ちた)

典型的な症状の1つで、簡単な仕事の企画がまとまらない、献立のメニューを考えるのが難しくなる、簡単な買い物ができない、などのちょっとした ことから気づくことがあります。

m.特に朝方に憂うつになる、気分の変動が激しい

朝方は気分が悪いが、夕方や夜になると元気になる、1日の中で気分の変動が激しい、強く落ち込む時間が決まっている、特定の時間に感極まって泣き出してしまう・・・などの特徴がみられます。起床前の1時間ほど、ベッドの中で悶々と1日の嫌な事に対する考え事をしてしまう・・などの症状が毎日のように現れたら要注意です。

n.生きていても仕方がないと思う

自殺にもつながる重篤な症状です。ただちに医師に相談しましょう。

4.パニック障害の原因

パニック障害の原因はまだすべて解明されてはいませんが、脳内の神経伝達物質のトラブルが関係していることが明らかになっています。

(1)脳内不安神経機構の異常

ヒトの脳には約1000億といわれる脳神経細胞(ニューロン)があり、複雑なネットワーク(ニューロンネットワーク)をつくっています。その間を情報(電気信号)が伝わることで、運動や知覚、感情、自律神経などの働きが起こっています。この情報伝達を仲介するのが「神経伝達物質」です。

主な神経伝達物質とそのはたらき

●セロトニン・・・・・・・・興奮や不快感を鎮める。

●ドーパミン・・・・・・・・何らかの行動を引き起こすときに発生する。

●ノルアドレナリン・・・神経を興奮させる。不安や恐怖、覚醒、集中力、記憶などに関わる。

脳神経細胞の先端にある神経終末(シナプス)から放出された神経伝達物質は、それを受け止める受容体(レセプター)と結合して情報を伝達します。シナプスとレセプターとの間で絶えず行われるこのやりとりによって、感情や思考の活動がスムーズに行われるのです。

パニック発作・予期不安・広場恐怖などもそれらの脳の機能の現れ方の1つですが、これは神経伝達物質の中の「セロトニン」と「ノルアドレナリン」などのバランスが乱れることにより発症すると考えられています。

①ノルアドレナリンの過剰分泌

脳の青斑核という部分で、ノルアドレナリンが分泌され、危険が迫ったときに警報を発動する神経が作動するようになっています。パニック障害の場合、このノルアドレナリンの過剰分泌が発生しているか、あるいはそれに対応するレセプターの過敏が起きているのではないかと考えられています。

②セロトニンの不足

ノルアドレナリンにより引き起こされる「不安感」がいきすぎないよう抑える働きのあるセロトニンが、何らかの原因で不足したり、またそれを受け入れるレセプターが鈍くなっているためと考えられています。

③ギャバ・ベンゾジアゼピンのレセプター異常

不安を抑える働きのある神経伝達物質「ギャバ」のレセプターや、これと連結しているベンゾジアゼピン・レセプターの感受性に問題があるのではないか、ともいわれています。

このように、パニック障害の原因は脳内の生物学的な問題にあるため、内科領域の検査をしても異常は見つからないのです。

(2)パニック障害は「からだの病気」

パニック障害は、心因性(環境・ストレス、幼児期の不快体験、強いトラウマ、体質、または精神的な障害によって引き起こされる)の病気ととらえられがちです。しかし、性格や環境 、ストレスなどとパニック障害との直接的な関連は、まだはっきりとは分かっていません。

もちろん、過労やストレスなどが間接的な原因でパニック発作を引き起こしたり、悪化させたりする可能性は、状況証拠からしてむしろ高いといえるのですが(例えば慢性的なストレスによって「糖質コルチロイド」というストレス物質が産生され、これがセロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの慢性的な不足状態を引き起こすことが知られています)、むしろパニック障害の症状が起こる直接の原因はあくまでも「脳内神経伝達物質のバランスの乱れ」という生物学的なもの、すなわち身体因性で考えるべきというのが、医学者の一致した見解です( 一言でいえば「脳機能障害」、要するに、「からだの病気」であるということです)。

そのため、パニック障害の治療にあたっては、薬によって乱れた脳内神経物質のバランスを整える方法が主な手段になっています。

「お腹が痛い」「のどが痛い」から病院に足を運んで薬を処方されるのと同じように、「パニック障害」という脳機能の病気を、病院で診てもらい、薬で治すのだと考えましょう。

(3)パニック障害を誘発するもの

「原因は身体因性」ということが分かっても、そもそもなぜ「脳内不安神経機構の異常」などという「生物学的な機能異常」が起きてしまうのでしょうか?

医学的にみると、体の中で起こる様々な生物学的現象は、体の外側からの影響や刺激によって引き起こされる化学変化として説明できます。したがって、 パニック障害における様々な失調は、特定の外部刺激(特定の物質、過労、ストレスなどの外的な要因)によって、体内の生物学的なバランスが崩れた結果と考えることができるのです。

例えば以下のようなものがパニック発作を誘発するといわれていますので、特に注意しましょう。

①コーヒーを代表とするカフェイン飲料

カフェインは脳内のノルアドレナリンを活性化させ、パニック発作を起こしやすくします。 パニック障害の患者さんは、体質的にカフェイン過敏になっている可能性が高いと指摘されています (コーヒー5杯ぶん程度のカフェインを体内に吸収させると、パニック障害の患者さんのみ、かなりの確率で パニック発作を引き起こすことが分かっています[カフェインによる選択的発作])。 コーヒーのほか、風邪薬、コーラや市販のドリンク剤などにも多くのカフェインが含まれていますので、カフェインの飲みすぎ・摂りすぎには充分注意しましょう。 特に、一度でもコーヒーが引き金となってパニック発作を引き起こした(と思い当たる)ことのある方は、カフェイン飲料の摂取は厳に控えましょう。 体調がすぐれないときに「健康ドリンク」を飲んで却って「めまい」や「頭痛」などの症状を悪化させた、というケースはごまんとあります。

②喫煙

煙草の主要成分である ニコチンそのものには抗不安作用がありますが、ニコチンの血中濃度が下がった際に、リバウンド効果で不安発作が好発します。このような理由から、喫煙者が発症するパニック障害は、予後が不良であるといわれています。 喫煙はパニック障害にとっては百害あって一利なしです。これを機会に禁煙しましょう。なお本人が喫煙者でなくても、受動喫煙により症状を悪化させる可能性がありますから、外出する際は分煙の進んだ場所を積極的に利用するようにしましょう(副流煙が過呼吸や動悸、心悸亢進 を誘発し、パニック発作を引き起こす場合があります)。

③アルコール飲料の摂取

アルコールは体液や血圧のバランスを崩しやすく、パニック発作の引き金になることがあります。またアルコールには一時的な抗不安作用がありますが、アルコールの血中濃度が下がった際には 、ニコチン同様、やはりリバウンド効果で不安発作が起こりやすくなります。 さらにパニック障害の治療薬はアルコールと過剰反応を示す場合が多いため、アルコールが禁忌とされている場合が少なくありません。飲酒をする場合は、必ず医師と相談するようにしてください。

④咳止め薬や気管支拡張薬の使用

気管支を広げる薬は、ノルアドレナリンのレセプターを刺激し、パニック発作を引き起こしやすくします。服用の際は必ず医師に相談しましょう。

⑤覚醒剤などの薬物

覚醒剤は脳・神経系のシステムに多大な悪影響を及ぼします。言うまでもなく、摂取は厳禁です。

⑥低血糖状態

朝食を抜くのが習慣化していたりジャンクフードを摂りすぎたり、と食生活の乱れが続くと、インシュリンが大量に分泌され、低血糖症を引き起こし、パニック発作の誘因となります。 夜遅くの時間帯まで働いていて、しばらく何も口にしていないとき、また風邪などの体調不良や腹痛、下痢などで食欲が低下し、栄養を十分にとれていないときも脳内にエネルギー(糖分)が十分に行きわたらない低血糖状態になりやすいので注意しましょう。

⑦疲労、過労状態

だれでも活動をすれば、疲労します。身体活動時に産生される疲労物質である「乳酸」は、パニック障害患者に対し、選択的にパニック発作を引き起こす物質であることが知られています (「乳酸ソーダ」という物質を注射すると、パニック障害の患者さんだけにパニック発作が起こることが分かっています)。日頃から過労状態を防ぐとともに、体調が悪いときは過度の運動 を控えましょう(激しい運動直後にパニック発作を引き起こす可能性があることも知られています)。 ただし軽く汗をかく程度の有酸素運動(ウォーキングなど)は、精神的なストレスの解消に有効です。自分なりの気分解消法を見つけるのがポイントです。

⑧(悪い)ストレス

ストレスとは刺激のことです。ストレス全般が悪いというよりは、「よいストレス」と「悪いストレス」があり、適度の刺激はむしろ日ごろの生活に対するスパイスにもなり得るものです。しかし、悪いストレス、あるいはストレスの掛り過ぎは、多くの病気がそうであるように、パニック発作の大きな誘因となります。特に精神的ストレスは、肉体的なものと比べて身体が「症状」として認知するまでに時間を要するため、充分な注意が必要です。一般的に、強いストレス状態から解放されたとき、パニック発作が引き起こされる傾向にあるようです。

⑨睡眠不足

睡眠不足は脳を疲労させます。特に徹夜明けや断眠をした直後に、パニック発作が誘発されやすいようです。「早寝早起き」を心がけましょう。 不眠症の傾向がある患者さんは、併せてその旨も医師と相談するようにしましょう。

⑩風邪などの体調不良

風邪などの体調不良は、パニック障害の大きな誘因になるとされています。身体のバランスが崩れることが原因でしょう。日ごろから体調を崩さないよう、疲れている時はからだを冷やさないようにして栄養を取り、早めの休養を心がけましょう。

⑪花粉症などのアレルギー反応

風邪と類似の症状を引き起こすアレルギー症状の代表格「花粉症」も、パニック障害の誘因となることが疑われます。ただでさえ不快なアレルギー症状は、身体のバランスを大きく崩します。花粉症の時期は 、早めに抗アレルギー薬を服用し、症状を最小限に抑えましょう。

⑫二日酔い

二日酔いはパニック障害に強く影響するといわれています。実際、二日酔いの状態で初めてパニック障害を発症したり、発作を悪化させたりしたという例があります。パニック障害が完治するまでは、節酒を強く心がけましょう。 お酒に頼らない生活、がキーワードです。

⑬不規則な生活

栄養バランスのとれた食事とともに規則正しい生活は毎日の健康に欠かせないものです。睡眠不足や過労、かぜ、二日酔いなどはパニック障害に影響したり 、誘因となったりしますので、不規則な生活から脱却しましょう。

⑭過呼吸と炭酸ガス

パニック発作の結果として過呼吸が誘発されることもあれば、逆に過呼吸によってパニック発作が併発することもあります。そのメカニズムは不明ですが、 実験では、炭酸ガスに対する過敏反応で過呼吸が誘発されることが知られています。 これは、パニック障害患者の8割程度に見られる反応です。 このことから、パニック障害の患者さんは、先天的に炭酸ガスに過敏であるといわれています。体調が悪いときには、換気の悪いところ (喫煙室をはじめ、デパートや劇場・映画館などの人ごみ空間、カラオケボックスや居酒屋などの換気の悪い個室、排気ガスの多いトンネル内や道路の付近など)はできるだけ長居を避けるようにします。また、体調の思わしくないときは、炭酸飲料などの摂取も控えめにすることが望ましいでしょう。

⑮蛍光灯などのちらつく光線

パニック障害の患者さんは、蛍光灯の直下で不安感を増幅させることがあります。これは蛍光灯のフリッカー効果(ちらつき)が原因だと考えられています(光のちらつきは脳への刺激が強 く、脳の過剰反応を促すものです。テレビの「ポケモン・ショック」をご記憶の方も多いでしょう)。できるだけ人工の光を直接見ないようにするなど、自己防衛しましょう (古くなった電球の下で長時間過ごさない、自宅の読書灯などはちらつきの少ないインバータライトに取り換える、など)。 同じ理由で、テレビや映画館、テレビゲームなどでちらつきの多い人工映像が流れた時は、なるべくそれを直視しないよう心がけてください。カメラのフラッシュを直視したことでパニック発作が誘発されることもあるようですので 、疲れている時や暗闇での写真撮影にも注意が必要です。

⑯急激な熱気・寒気、湿気(温度や環境の急変化)

温度や湿度の急上昇、または急変化がパニック発作発症のきっかけになることがあると言われています。とくに6〜7月頃の梅雨のシーズンや雨上がりの午後などは、急激に熱気と湿気を帯びることがあります。このようなときは外出を控えめにし、水分を多めにとり、風通しの良い服を着るなどして、体感温度・湿度のコントロールをするようにしましょう。 同様に、冷暖房の効いた部屋からすぐに温度の違う場所へ出たり、熱いお風呂に入った後に身体を急に冷やしたりすると不安感が増幅することがあります。温度や湿度に対しては、徐々に身体を慣らすように意識し (人間は「3度」の温度変化で体調を崩してしまう、と言われるほどです)、特に外出先では暑さ対策・防寒対策をしっかりと取りましょう。

⑰季節・天気の変わり目

季節の変わり目(急に暑くなる/寒くなる)や天気の変わり目(低気圧が近づいているとき)などはパニック発作が起こりやすいといわれています。疲れている時などは無理をせず、早め の休息を取るようにしましょう。

⑱強いにおい

強い香水や化粧品の香り、カビ臭い部屋などが、刺激となって不安発作を誘発することがあります。 周囲を清潔にするとともに、換気に注意し、それでも空気の悪い部屋には長時間居ないようにするなど、自己防衛を図るようにしましょう。

以上のような誘因が指摘されていますが、現在では、パニック障害という病気自体が、各種の未解明の病気(ある種の刺激に対する過敏症、ホルモンバランス失調症など)の集合体である可能性も指摘されています。より詳しいメカニズムや治療法が、将来の研究により明らかにされていくでしょう。

5.パニック障害の診断

これまで見てきたように、パニック障害には、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」といった症候がみられます。

パニック障害の診断では、これらの症状がみられるかどうかだけではなく、本当に心臓や呼吸器、脳神経など、からだの異常が原因で発作が起こっていないかを慎重に判断します。

パニック障害の診断の中心は問診となります。病院では、以下のような質問を分析して最終的な判断を下します。過去に何度も発作を起こしている患者さんの場合は、「いつ」「どのようなときに」こうした症状が出たのかをまとめておく(体調の記録を作る)とよいでしょう。

はじめて発作が起こったとき、 発作時の症状、発作を経験した回数、一番最近の発作はいつ起こったか、発作の持続時間、今の気持ち(不安である、○○をしたくないなど)、きっかけや原因として思い当たるもの、最近ストレスを感じていること 、最近新しくはじめたこと(就職・転職・結婚その他)、仕事の内容、他の病気にかかっているか、飲んでいる薬はあるか、コーヒー・酒・煙草といった嗜好品の摂取量など。

パニック発作では、動悸や息苦しさ、手の震え、めまいや頭痛といった多彩な身体症状がでるため、これらが他の病気によるものではないことも必ず確認します。

動悸      → 心電図検査、不整脈検査 → 狭心症、心筋梗塞など

息苦しさ    → 肺レントゲン検査、肺活量検査、血中酸素濃度検査 → 喘息、結核、肺炎、呼吸器疾患、過換気症候群など

めまい・頭痛  → CTスキャン、MRI、眼振検査、四肢末端感覚検査 → 起立性低血圧、メニエール病、片頭痛、緊張型頭痛、癲癇、脳腫瘍、脳出血など

だるさ      → 血液検査、尿検査 → 低血糖症、甲状腺機能亢進症、糖尿病、急性白血病、急性肝炎、アレルギー、薬物中毒、感染症など

パニック障害は、発生のメカニズムへの理解が必要であるとともに、投薬・治療のタイミングに慎重な判断を必要とする病気です。 「パニック障害」という診断名を使う医師であれば、パニック発作をあくまでも「病気」としてとらえ、患者から取り除くべきものとして処置します。

かつて「不安神経症」という名称だった頃、この病気の治療法は、「この病気は"くせ"のようなものであるから、発作もその都度やり過ごせれば、やがて程度も軽くなり、いつか忘れたように治る。病気というよりは、立ち直って乗り越えていくべきものと患者に意識させる」という「精神療法」が主体でした。この病気が身体疾患ではなく、「精神疾患」 とだけ捉えられていたためです。

しかし、「パニック障害」は「精神疾患」でもありますが、一方で「身体疾患」でもあります。必ず薬で治るという意味では「克服のできる病気」なのですから、自信を持って闘病しましょう。 その際は必ず、「パニック障害」という診断名を使う専門医の診断・治療を受けるようにしたいものです。

6.パニック障害と診断されたら?

パニック障害は気のせいや、性格の問題ではなく、身体的に原因のある病気です。治療によって治りますから、できるだけ早期に、適切な治療を続けることが大切です。

(1)自分の病気と向き合う

パニック障害は決して特別な病気ではありません。自分の病気を知り、積極的に治療に取り組みましょう。パニック障害になると、「いったい原因は何だろう?」「自分の性格や人間関係づくりの問題だろうか?」などと思い悩み、自分の内面の問題にこだわってしまいがちです。

しかし、このように考え込んでいても、そもそのそういう発作や悩みの出てしまう「病気」なのですから、答えや解決法がみつかるものではありません。むしろ、その間に症状は悪化する一方です。

症例も多く、医学的にはパニック障害のメカニズムや対処法はずいぶんと解明されてきています。少なくとも、この障害が原因で死に至ることはありません。自分の症状はあくまでもひとつの「からだの病気」なのだと割り切り、前向きに治そうと考えていくことが大切です。

(2)パニック発作を恐れない

パニック発作はとてもつらいもので、もう二度と経験したくない症状です。しかし、この発作で死ぬことはありません。また症状は短時間で必ずおさまります。「発作が起きること」を必要以上に恐れないようにしましょう。

人は、あなたが思っている以上に「いざ」というときにあなたをサポートしてくれるものです。どうか人を信じて、「何かがあったら助けてもらおう」というぐらいの大らかな気持ちを持って、行動しましょう。

(3)あせらずゆっくり、治療する

パニック障害は必ず治る病気です。しかし、完全に発作がなくなり、薬を飲まなくてもよくなるまでにはある程度時間がかかります。

「早く治そう」と焦ったりするより、「いつか時間が解決してくれるさ」と、おおらかな気持ちで治療に当たりましょう。発作が寛解しても、特定の場所や空間への恐怖感は残ることがありますが、いつか不思議なほど、まったく気にならなくなります。

多くの患者さんは、治療を開始したころは少しでも早い回復を望み、医師の指示通りに服薬を続けます。しかし、発作が出なくなり、症状が落ち着いてくると、「薬の力にはたよらずに自力で治したい」「薬の依存症になったらどうしよう」「副作用で取り返しのつかないことになるのではないか」と、自己判断で服用を中断してしまうケースがあります。

しかし、急に薬を中断すると、その反動で症状が再発(フラッシュバックと言います)することがあります。通常、症状が治まってきた場合は薬の濃度を調整し、徐々に薬をやめていく治療に切り替えます。自分本位な服用を続けていくと、パニック障害が再発したり、場合によっては慢性化して、より長引くこともあります。

まずは主治医の判断を信じ、一緒に治療に取り組むようにしましょう。

7.パニック障害の治療

パニック障害の治療とは、パニック発作を完全に消失させ、不快な発作やそれに伴う不安感が二度と起こらなくなるようにすることです。

パニック障害の症状は、人により軽いものから重いものまで様々な段階があります。したがってその症状に応じて「薬物療法」と「心理的療法」を組み合わせて行います。

(1)薬物療法

パニック障害の最初の治療は、不快なパニック発作をできるだけ消失させることです。そのために、脳内神経伝達物質のアンバランスを調整する薬が用いられます。

①抗うつ薬の投与

「抗うつ薬」とは、その名の通り主に鬱病の治療に用いられる薬です。鬱病とは端的に言うと、脳内の神経伝達物質の量そのものが減少し、脳のエネルギーが枯れてしまう病気です。したがって、 神経伝達物質であるセレトニンやノルアドレナリンの機能を高める投薬治療が行われています。「パサパサの脳に、うるおいを与える」のが抗うつ薬の使命です。

パニック障害は神経伝達物質のバランス異常から引き起こされた病気ですから、それらの機能を亢進させるという点で、抗うつ薬はパニック障害の治療にも有効とされています。現在は、副作用の比較的少ないSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という最新の薬を用いて、脳内のセロトニンのバランスを調節する方法がとられています。

この薬の効能をごく簡単にいえば、

脳内のセロトニンがへ逆流する「再取り込み口(トランスポーター)」を阻害することで

セロトニンの流れを変え(セロトニンが逆流する量を減らし)

神経伝達過程におけるセロトニン濃度を意図的に高めることで

セロトニンを受容体(レセプター)と結合しやすくし

パニック発作を起こりにくくする

ということになります。このSSRIのほかに、SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)三環系・四環系抗うつ薬などが使用されることもあります。

抗うつ薬の効果はゆっくりと現れます。個人差がありますが、飲み始めて数日してから効果を感じ始め、1週間〜4週間程度ではっきりと効果が現れてきます。はじめは「ふらつき」や 「震え」「吐き気」などの副作用がみられることもありますが、慣れによって数日間で軽快します(同時に制吐剤などが処方され、当面の副作用を和らげることもあります)。根気よく薬を飲み続けるようにしましょう。

②抗不安薬の投与

パニック障害の症状の根幹となるものは「不安」です。発作時に急激に起こる不安から予期不安にいたるまで、まさに「不安が支配する病気」と言っても過言ではありません。

したがってパニック障害の治療には、抗うつ薬とともに、比較的即効性の強い「抗不安薬」が処方されることがほとんどです。抗うつ薬が「原因療法薬」だとしたら、抗不安薬は「対症療法薬」ということになります

特に治療初期では、SSRIの効果がはっきりと表れるまでの数日〜数週間は、軽度のパニック発作を繰り返す可能性もありますので、頓服用として別に処方されることもあります。比較的安全性が高い薬ですから、SSRIとともに医師の指示通りに飲むようにしましょう。

③比較的長期にわたる服用が必要

抗うつ薬と抗不安薬の併用で、パニック発作や予期不安は相当程度まで解消します。

こうした薬物療法でパニック発作の症状がすっかりとれるのには3〜6か月程度かかります。ここで薬を急激に中断すると、症状がぶりかえすことがありますので、さらに数か月から1年間、 場合によっては数年間、薬の量を減らしながら飲み続ける必要があります。 療養は長期間になりますが、パニック障害を撲滅するために、根気強く薬を飲み続けるようにしましょう。

(2)心理療法

薬物によってパニック発作はほぼ確実に消失します。しかし、この状態ではまだ「薬でコントロールしている」段階にすぎません。パニック障害治療の最終目標は、「薬によらずに、パニック発作を起こさないようにする」ことです。

そのためには、SSRIと抗不安薬で発作をコントロールした状態で、薬を徐々に減量しながら、心理的療法も併用することになります。 薬物療法によってパニック発作はもちろん、予期不安も相当程度に消失しますから、患者さんは心理療法によって、いわばリハビリ的な治療の段階に進めるようになるのです。

その方法としては、次にあげる「認知療法」と「行動療法」があります。

認知療法によって、患者さんの「パニック発作」に対する考え方・捉え方を変化させるとともに、行動療法によって、「パニック発作」や「予期不安」に対する心理的な免疫力をつけていきます。最終的には、「広場恐怖」の解消を目指し、それまで避けていた状況や場所に徐々に挑戦してもらう治療を行います。これを暴露療法(エキスポージャー療法)といいます。

①認知療法

患者さんに「パニック障害」のメカニズムや治療法について十分に理解をしてもらい、発作的に起こる身体症状に対して、以前のように「パニック」に陥らず、感情的にコントロールできるよう導きます。

例えば、

「急にめまいがしてきた」→「またか。どうしよう。急に気分が悪くなってきた。このまま気を失ったら・・・ああ、ああ・・・」

と感情的に反応してしまうところを、

「急にめまいがしてきた」→「これはパニック発作だ。今週は寝不足気味だったからな。あれこれ考えずにまずはしゃがんで呼吸を落ちつけよう。どうせすぐに収まるさ。そして今日は早く寝よう。よし、ここでしゃがむぞ。目をつぶって。呼吸を落ち着けて・・・」

と、冷静に考えられるように感情をコントロールしていきます。

②行動療法

動物は、それがいかに不安や恐怖を感じさせるものであっても、ある特定の状況(パターン)に曝されていると、次第にそれに慣れていくことが分かっています。これを「学習効果」といいます。

行動療法とは、この学習理論に基づき、回避行動を修正していく療法です。

その中でも「暴露療法(エキスポージャー療法)」と呼ばれている手法では、患者さんが予期不安や広場恐怖のために避けている場所に、あえて患者さんを連れていき「慣れ」をつかませていきます。もちろん、いきなりその場所へ連れていくのは症状を悪化させ逆効果ですから、スモールステップで対応していきます。例えば、「電車に乗れない」という患者さんの場合は、「駅前のコンビニまで歩く」→「駅の改札口まで行く」→「家族の付き添いで各駅停車に乗って隣の駅で降りる」→「誰かの付き添いで快速に乗って次の停車駅で降りる」→「ひとりで急行に乗って往復する」などです。

また、「自律訓練法(リラクゼーション法)」と呼ばれている方法もあります。これは、不安やパニック発作が起きた時に深呼吸やアロマテラピーなどのリラクゼーション 効果によって、自身の感情の暴走をコントロールする方法を身につけるものです。体の緊張を解すことで、心のリラックスを期待します。

他にも、敢えて自分を別の状況下におく方法も提唱されています。一種の暴露療法なのですが、発作の起こり始めの段階で、周囲を思い切り走ったり、敢えて横になろうとせずに立ち続けたり、仕事をし続けたり・・・今起こっている発作という状況から敢えて自分を遠ざける、という考え方です。

8.セルフケア

パニック障害は「心の病」というよりは「からだの病気」です。「自分がおかしくなってしまったのではないか」「何か自分の精神に変調が来されているのではないか」と心配することはありません。「病気なのだから仕方ない。ゆっくり治そう」というおおらかな心で闘病に臨むことが大切です。

また内科的にみれば重篤な疾患ではありませんから、「塩分を控える」とか、「運動は控える」などといった禁欲的な生活を意識する必要もありません。むしろ、過度に気にはせず、普通に日常生活を送りましょう(過度に気を遣って過ごす生活は、知らず知らずのうちに、余計なストレスを、蓄積させるだけです)。

しかし、パニック発作が起こりやすい状況というものは存在します。日常生活では、特に以下の点に注意しましょう。

(1)規則正しい生活を心がけましょう(早寝・早起き・栄養のとれた食事)
睡眠不足や不規則な生活、低血糖状態はパニック発作の誘因となります。

(2)ストレスをためすぎないようにしましょう
ストレス・過労はパニック発作の誘因です。休養はしっかりととりましょう。

(3)体調管理を心がけましょう
風邪をひくとパニック発作を引き起こしやすくなります。うがいや手洗い、十分な休息を取って風邪の予防に努め、保温も心がけましょう。

(4)嗜好品は控えめに
カフェイン飲料(特にコーヒー)、アルコール飲料、煙草などの嗜好品・刺激物は不安発作を引き起こしやすくしますので、摂りすぎに注意しましょう。特にSSRIなどの薬品はアルコールと過剰反応をすることがあり危険です。服薬中はアルコールを取らない (取り過ぎない)方が賢明です。

9.周囲のケア

パニック障害の治療には、周囲の人(特に家族)の病気に対する「理解」と治療への協力が必要です。

パニック障害は「気のせい」や「気の持ちよう」「性格的な問題」で起こるのではなく、ましてや本人が「仮病」や「詐病」を使って「わざと」で起こしているものでもありません。身体的な病気であることを正しく理解し、温かく見守ってあげることが大切です。家族の理解と協力が得られないと、患者さんは強い孤独感を抱き、ますます症状を悪化させます。

パニック障害は適切な治療を通じて必ず治る病気なので、あせらずにじっくりとバックアップしてください。特にパニック発作が起こった時は、そばにいて安心感を与えるようにしてあげましょう。

パニック障害を持つ患者さんと接するためのポイントは次の5つです。

(1)患者さんの抱える問題を知ってください
何よりも、 周囲の人がパニック発作について正しく理解してあげることが大切です。まず「見た目には異常がなくても突然発作が起こる病気が存在する」ことを知ることが理解の第一歩です。またこれは、仮病や詐病ではなく、気の持ちようで治るものではないこと、そして治るまでには長い時間がかかることを理解してあげてください。 パニック発作は、誰もが「二度と経験したくない」と思えるほどのつらい症状です。「またあの発作が起きたらどうしよう」という患者さんが抱える大きな不安は、パニック発作を経験した人でなければ理解しにくい感情です。しかし、パニック障害は治療をすれば必ず治る病気であるということを理解して、温かく見守ってください。周囲の人の正しい理解こそが、患者さんにとっては何よりのくすりとなります。

(2)もしも発作が起こった時は
パニック発作が起こると、患者さんはときに「このまま死んでしまうかもしれない」という激しい不安感に襲われます。周囲は驚きますが、それを表わすと本人の不安を増幅させるだけです。焦ることなく、患者さんを楽な体勢にさせ、身体をさするなどして落ち着かせてください。なるべく声を掛けてあげるようにします。 そのときは、「大丈夫?」と問うよりは、むしろ「すぐに治まるよ」などと安心を促す言葉を掛けるほうがよいようです。

(3)広場恐怖がある時は
家から出られない状態(広場恐怖の重症化)になったときは、さらに鬱病などの二次的な症状に移行する可能性が高くなります。誰かが付き添うことで外出できるのであれば、なるべく手伝って、外出のサポートをしてあげてください(ただし、無理やり外出を誘うと症状がさらに悪化することがあります。必ず本人と相談しましょう)。

(4)少しでもいいから、話相手になってあげてください
パニック障害の患者さんは、元気なようでいても、外からは想像もできないほどの強い不安を抱えています。身近な人と話すことは患者さんにとって大きな安心になります。今日の面白かった出来事や、他愛もない世間話をするといった小さなことでもいいので、患者さんの安心感が得られるように協力してあげてください。 特に発病の初期は、毎日の体調をちょっとした機会に聞いてあげるだけでも、大きな支えになります。

(5)一度でも、診察に同行してあげてください
症状が重いときは、家族の方が診察に同行することをお勧めします。家族の方も一緒に医師の説明を受けることによって、パニック障害への理解が深まり、治療の進行がスムーズになります。

10.パニック障害 Q&A

Q1.パニック発作は治まったようですが、いつになったら薬が止められるのでしょうか。

A1.症状によって異なります。必ず医師と相談しましょう。

パニック障害の症状が治まるのには、服薬をはじめてから通常、3〜6か月程度かかります。ただしこれは患者さんの症状の程度によっても異なります。 一般には、症状がとれてからも数か月〜1年間、場合によっては数年間は薬を飲み続ける必要があります。

比較的軽症で症状がパニック発作のみであれば治療にそれほどの時間はかかりませんが、症状が進み、広場恐怖や鬱病が発症している場合にはさらに時間がかかることになります。症状が治まったからと言って服薬を自己中断すると、たいていは症状がぶり返します

症状が再発すると、さらに治癒までの道のりが長引くことになります。薬の減量については、医師と相談したうえで、段階的に行っていくことが望ましいでしょう。

Q2.周囲から「薬に頼りすぎるな」と言われました。私は薬に甘えているのでしょうか・・・。

A2.パニック障害の治療の近道は薬物療法です。

パニック障害において、薬の服用は「甘え」などでは決してなく、治療への一番の近道であることを忘れないでください。

こういった脳神経系の疾患で 「薬物治療」というと、精神的な失調を「精神安定剤」で紛らわすという対症療法的な捉え方をされることがあるようですが、パニック障害に用いる薬物は、パニック障害の原因そのものを物理的に抑えていく「原因療法」です。適切に薬を飲むことで、パニック障害は確実に良化していきます

もちろん、薬だけに頼らない心理的な療法も必要ですが、薬を急に中断することは「百害あって一利なし」と考えましょう。

Q3.「パニック障害」と診断され治療を受けていますが、通院が長引き、めげそうです。この病気とうまく付き合うコツを教えてください。

A3.「必ず治る病気である」ことを思い出し、おおらかに構えましょう。

パニック障害は必ず治る病気ですが、治癒までにはある程度の時間がかかります。焦っても早く治るものではありませんから、「時間がかかるかもしれないが、死ぬわけでもないし、いつか治るだろう」と気楽に構えましょ う。

パニック障害と診断された患者さんは、「なぜこんな厄介な病気にかかってしまったんだろう」「周囲に迷惑がかかってしまって申し訳ない」 と思い、自分を責めてしまいがちです。そのようなときはよく、「そのように考えないで気楽に構えましょう」というアドバイスがなされがちですが、 病気のせいでこのような思考になっているため、アドバイスをするならばむしろその逆で、そう思ってしまうなら思い切りそう思えばいいのです。実際、 なかなか厄介な病気であることには違いないし、周囲にだって少なからぬ迷惑をかけてしまっているわけですから—。

ただし大切なのは、そのことであまりくよくよと気にしないことです。周囲の誰がいつ、どんなに「厄介」で「周囲に迷惑がかかる」病気にかかるかなどということは、今の時点では何も分からないのです。「たまたま」「あなたが」そういう病気に「出遭ってしまった」だけで、むしろ、「自分はこの病気には詳しくなったんだから、 治ったら会社でちょっとしたアドバイスくらいできそうだぞ。誰がいつどんな病気になるか分からないんだし、お互い様だよな。」くらいに思ってしまうほうがいいのです。

もちろん、定期的に通院したり、薬を飲むというのは大変根気のいることです。治療がマンネリ化してくると、だんだん、「薬だけをもらえればいいや」 「話だけ聞いてもらえばいいや」などと考えるようになりがちです。しかし、ここはぜひ意識して、治療の見通しや生活の状況を医師と積極的に相談するようにし、毎回の診察で1つでも「これからの自分のためになること」を吸収するよう心がけてみましょう。毎回、「話す内容」の目標を持つのは、治療に張り合いを持つためにもいいことです。

なかなか見通しの持てない辛い病気ではありますが、「不治の病」ではないのです。おおらかに構えることが、実は一番の「くすり」かもしれません。

Q4.内科で、「検査をしてもどこも悪くない」「精神的な部分が関係しているかもしれない」と言われ、一度専門医に診てもらうように言われました。どんな病院へ行けばよいのでしょうか?

A4.心療内科や精神科を受診します。

パニック障害の治療に熟達しているのは、精神科(神経科・精神神経科)や心療内科です。現在では、「メンタルクリニック」とも呼びます。

精神科
精神の病気、つまり「こころの病」が専門です。気分障害(鬱病・躁鬱病)、不安障害、統合失調症などを診察対象としています。意識や思考、判断や記憶などといった精神機能に障害がみられる症状が対象となります。パニック障害の疑いが強いけれども、その症状が、とくに精神面(不安感や焦燥感 、非現実感など)に強く表れていると感じられる場合は、まずこの科を受診することをお勧めします。

心療内科
からだの不調が心理的な問題(悩みや過労、ストレス)から起こっている心身症状の診断や治療を専門としています。心身症(ストレス性潰瘍・一部の気管支喘息・摂食障害・過呼吸)のほか、鬱病(特に 気分的な不調が表に出るもの)や気分障害、パニック障害などを診察対象としています。精神科と比べると、精神そのものというよりは、精神 (メンタル)からくる「からだの不調」を対象としているという特徴があります。

似たような名前の医科に、「神経内科」があります。この科は、精神科や心療内科とは違い、脳出血や脳挫傷、脳梗塞などによって脳や神経が実際に傷ついたことで起こる障害の診断や治療を専門としています。頭痛、手足の麻痺やしびれ、めまい、筋肉のこわばり、認知症などの診断治療を行うため、 パニック障害で発現する症状と類似の領域を扱うことになるのですが、パニック障害の診断・治療は専門外となります。ご注意ください。 ただし頭痛やめまい、しびれなどが続いているときは神経内科や耳鼻科で原因を一度見てもらうのもよいでしょう。背後に、癲癇や脳腫瘍、脳梗塞などの、重篤な疾患が隠れている場合があるからです。

Q5.パニック発作はどのようなときに起こることが多いのでしょう?

A5.「これ」といったときはありません。人によって様々です。

パニック障害のパニック発作は、通常、日中の外出時や勤務中に起こることが多いといわれています。

しかし、自宅でくつろいでいる時に起こったり、まれに睡眠中に起こることもあると言われています (ただし睡眠中にあまりにも頻繁に発作が起こるようであれば、特殊な睡眠障害や癲癇など別の重篤な疾患の可能性がありますので、専門医へ相談してください)。仕事や私生活上に特に問題を抱えていなくても、起こる時には起こる発作が 、パニック障害におけるパニック発作の典型的な症状です。

このように、何の前触れもなく突然発生し、予測できないことが多いのですが、発作を繰り返している時期のほか、逃げ出したり助けを求めることが難しい空間で起こしやすいという傾向はあるようです。人によっては忙しいことから解放されて「ホッと一息ついたとき」に起きやすいとか、椅子に腰かけているときに起こりやすい、という好発作のパターンを持っている場合もあるようです。

またまれにですが、一定の場所でのみ発作を起こす患者さんもいます。例えば、車を運転中のときや、電車に乗ったときだけにしか発作が起きないといった例です。しかし、このような人であっても、自宅でくつろいでいるときに、「発作」というほど激しくない症状であっても、不意に近いタイプの 「気分の悪さ」を経験したことがあるということがしばしば聞かれます。これは、知らないうちに小発作(3つ以下の症状が発生する)を起こしているものと考えられます。

Q6.医師にコーヒーを控えるように言われました。なぜでしょうか。

A6.コーヒーに含まれるカフェインが脳を刺激するからです。

コーヒーの中に含まれるカフェインは、脳を刺激して興奮しやすくする作用があり、パニック発作を誘発することがあります。

必ずしも「厳禁」というわけではありませんが、あまりガブガブと飲みすぎないほうがよいでしょう。 市販のドリンク剤やコーラなどにも多量のカフェインが含まれていますから、同様に注意が必要です。

医師が特にコーヒーを控えるように勧めるのは、一般的なカフェイン飲料の中で、コーヒーのカフェイン含有量がずば抜けて高いからです。 一度でもコーヒーを飲んでパニック発作を起こした経験があるのであれば、体質的にカフェイン過敏になっている可能性が高いですから、当面の間、少なくともコーヒー やドリンク剤は口にしないことをお勧めします。

どうしてもコーヒーの風味を楽しみたい場合は、デカフェ(カフェインレス)のコーヒーをいただくようにします。

Q7.パニック障害になりやすい体質はありますか?

A7.因果関係ははっきりしませんが、「なりやすい気質」の人はいます。

パニック障害を発症しやすいタイプの人として、気が弱い、人の顔色を伺う傾向が強い、まじめで几帳面、完璧主義、凝り性でこだわりが強い、責任感が強い、頼まれると断りにくい、他人の評価を気にしすぎる、優先順位をつけずにすべてをいっぺんにやろうとする、割り切りが下手、「〜ねばらなない」「〜べき」が口癖、二者択一で物事を捉えやすくあいまいさを許さない、自己否定的、悲観主義といった「考えすぎ」「とり越し苦労」 「自己犠牲的」なタイプの人に見られがちという傾向はあるようです。

しかし、性格が原因で発症する病気ではないことは再三述べてきた通りです。

Q8.急に息苦しくなって、腕や足などを引っ掻いてしまうことがあります。パニック発作と関係があるのでしょうか?

A8.発作時に自傷行為を行ってしまうケースがあります。医師の診断を受けましょう。

パニック発作で苦しいときには、何とか自分の精神を落ち着かせようと、爪を立てて手足を引っ掻く患者さんがみられます。中には、自分を殴ったり、手を噛んだり、 髪の毛を掻きむしったり、シャープペンシルなど先の細いものを腕や手に突き立てたり、といった行為も見られます。これらは、いわゆる「自傷行為」と呼ばれるものです。

こうした自傷の理由としては、肉体が傷つくと、多幸感をもたらす「エンドルフィン」と呼ばれるホルモンが分泌されて精神的な安定感が得られるため、それを無意識的に引き起こしているからだと考えられます (エンドルフィンは「脳内麻薬」と呼ばれるほど強い作用を示し、肉体・精神双方の苦痛を和らげてくれます)。いわば自己防衛反応といえますが、自らのけがや、思わぬ出血を見てさらに 第二第三のパニック発作を誘発する可能性も否定できませんので、まずは落ち着いてから、医師の診断を受けましょう。

なお周囲の方が自傷行為を見つけた場合、命に関わるほどの行為(頸動脈のカットなど)を行っていない限りは、その場で無理やり止めると余計に発作を悪化させることがあります。びっくりするかもしれませんが、 自傷は通常、数秒以内とすぐに治まりますので、近くで様子をみて、発作が落ち着いたころ、本人に声をかけてあげてください。

Q9.「パニック発作」と「セロトニン」の関係について詳しく教えてください。

A9.こころとからだの調子を整える物質「セロトニン」の不足がパニック発作の原因と考えられています。

嬉しいことがあった時、脳内にはドーパミンが増え、興奮します。嫌なことがあった時、脳内にはノルアドレナリンが増え、不快になります。

こうした心の高ぶりを鎮め、落ち着かせ、安らぎの気持ちを作りだすのが「セロトニン」という脳内物質です。

セロトニンは脳の「ほう線核」でごく微量が作られ、脳全体の神経および体内に分配されます。体内で分泌されるセロトニンのうち90%が消化管、8%が血小板、2%が脳内に取り込まれ、 以下のように、こころとからだの調子を整える役目をしています。これが不足することで、体の様々な部位に不調が生じることが分かっています。

▼こころを整える

こころの安定作用
セロトニンはその分泌を増すことで、ノルアドレナリンによって引き起こされる不快感を抑える働きをします。また、ドーパミンを抑制することで、快感を適度に抑え、行動にブレーキをかけるはたらきをしています。
ところで、 脳の神経終末(シナプス)に放出されたセロトニンのうち8割は、元のシナプスに再び取り込まれ、2割が酸素によって排出されていきます。セロトニンの配給量には限りがあるため、脳内でリサイクルをしているわけです 。
しかし、脳が疲労などで慢性的なストレスにさらされると、「糖質コルチロイド」というストレス物質が蓄積されるようになります。糖質コルチロイドはレセプター(受容体)にあるセロトニンの取り込み口をふさぐ性質があるため、セロトニンの 受け取りが阻害されます。すると、体内に排出されるセロトニンは増えるにも関わらず、受容体に供給されるセロトニン量はごくわずかですから、脳内が慢性的なセロトニン不足となってしまうのです。すると、不安や恐怖といった感情の爆発が起こりやすい状態が引き起こされます。

▼からだを整える

胃腸のバランサー
体内でセロトニン含有量の最も多い消化管(胃腸部)では、運動(収縮と弛緩の繰り返し)による食べ物の攪拌・消化と、食べ物を下方に輸送する蠕動運動が絶えず行われています。このはたらきは、主として消化管神経にあるセロトニンによる筋肉への刺激のためであるといわれています。
消化管のはたらきに指令を出す、脳内の嘔吐中枢はセロトニンによって刺激されています (異物を飲み込んだ時の嘔吐や吐き気は、セロトニンによる刺激があるために起こります)。したがって、セロトニンの量が急上昇すると、吐き気が好発します(SSRIの服用初期に副作用として吐き気が起こりやすいのはこのためです)。一方、セロトニンが不足すると、胃腸の動きが鈍くなり、便秘になりやすくなります。 このように、セロトニンのバランスが崩れると胃腸の調子も崩れてしまうのです。

呼吸のリズムづくり
セロトニンを分泌するほう線核は、脳内の呼吸中枢にセロトニンを送って呼吸量を調整しています。体内の毛細血管中にはほう線核のセンサーがあり、血液中の成分や酸素のバランスを監視しています。体内の酸素量が不足した時は、ほう線核は、セロトニンの分泌量を増やし、脳内の呼吸中枢を刺激し、呼吸量を増やします。しかし、酸素不足を感知しても、セロトニンが不足していると、呼吸中枢の刺激が不充分のままとなり、酸素が不足したままとなってしまいます。睡眠時に「息苦しさ」で何度も目覚め、熟睡できなかったり、睡眠時間をたっぷり取っても寝不足状態が続く「睡眠時無呼吸症候群」は、セロトニンの不足によって引き起こされるのです。

睡眠の調整
睡眠には「レム睡眠(夢を見る—脳は覚醒している)」と、「ノンレム睡眠(夢を見ない—脳が休息している)」の2種類があります。セロトニンは一日中分泌されている物質ですが、睡眠中は、セロトニンに関係する神経の活動は弱まって、深い眠り(ノンレム睡眠)を演出します。朝方になるとセロトニン分泌量が増えることによって(レム睡眠)覚醒に至ります。しかし、セロトニンが十分でないと、いつまでも寝付けなかったり(不眠症)、なかなか深い眠りができなかったりという症状が出ます。

体内時計の安定
海外旅行や徹夜明けなどに起きる「時差ボケ」を直すのは、メラトニンと呼ばれる物質です。このメラトニンはセロトニンによって生成される物質で、生体時計を司ります。セロトニンの不足によって体内時計のリズムが狂ったままとなると、やがて眠る時間にも秩序がみられなくなり、ホルモン分泌にも異常が出て、体全体のバランスに影響します(夜に分泌される成長ホルモンや、朝に分泌される副腎ホルモンのバランス異常など)。

体温の調節
一般的に体温は、朝起きると(筋肉や神経の働きを高めるために)上がり、夜は逆に下がります。この変化は、セロトニンの1日の分泌量の増減とほぼ一致しているといわれます。ほう線核は血中のセンサーで血液の温度も感知しています。しかし、セロトニンが少ないと、血液の温度が低下しても、体温を調節する脳内の温熱中枢を十分活発化できず、低体温症や、冷え性になりやすいため、身体機能が活発化できません。体温の低下は、集中力の低下なども引き起こします。

満足中枢の制御
セロトニン量が十分なときは、食後に満足感や充実感を得ることができます。またセロトニンによって身体の各機能が活発化して基礎代謝が上がり、脂肪を燃焼させるなどの効果もあります。しかし、セロトニン量が不足すると、脳の視床下部にある満腹中枢への伝達が阻害され、さらに耐糖能も障害されるため、肥満のみならず、糖尿病や摂食障害になりやすくなります。一見痩せて見える人でも、セロトニンが不足気味の人は内臓脂肪などが増える (いわゆる「隠れ肥満」です)傾向にあります。

頭痛の抑制
セロトニンは太い血管を収縮させ、細い血管を拡張させます(片頭痛とは真逆の作用です)。したがって、セロトニンの濃度を低下させると必ず片頭痛を引き起こし、逆に血中のセロトニン濃度をあげれば片頭痛は改善します。
片頭痛患者は一般的にセロトニン代謝が障害されていると考えられています。 片頭痛の発作が発生すると、尿中や血漿中には、「セロトニン代謝産物」が増加していることが分かっています。これは頭痛発作時に、当座の頭痛解消のため、 体内のセロトニンが大量に消費されて分解されたことを意味します。

骨格の刺激
セロトニンは脊髄を通って、腹筋や背筋などの「抗重力筋」を常に刺激しています。セロトニンが少ないと、抗重力筋へのはたらきかけが足りず、姿勢が崩れやすくなる原因となります。

Q10.自分はパニック障害だと思うのですが、自己判断をする方法はありますか?

A10.自己診断は危険です。必ず医師の診断を仰ぐようにしましょう。

パニック発作と思われる症状が表れたとしても、それは必ずしもパニック障害(パニック発作)であるとは限りません。重篤な内科疾患が原因で類似の症状が起こっている場合もありますので、はじめに内科や循環器科、脳神経外科、神経内科などで、 身体に「器質的な異常」がないかどうかの診察を受けてください。

そのうえで「異状なし」と判断された時にはじめて、メンタルクリニックを受診します。「自分はパニック障害かも?」と思っても、勝手な自己判断は避けましょう。

以下に、パニック発作と思われる症状が発生して、なおかつ「器質的な異常がない」と判断された方向けに、医師にかかる前に、簡単にできるセルフチェックを示します。「もしかして・・・」とお考えの場合は、一度次のチェックをしてみましょう。

直近に経験した発作の起こった1か月前後の時期を思い出してみて、これらの項目に3つ以上当てはまるようでしたら、早めにメンタルクリニックを受診をされることをお勧めします。

□ 満員電車やバス、人ごみの中を歩くとクラクラとめまいがする。
□ なんでもない時にめまいがしやすくなった。
(ここでいう「めまい」とは、必ずしも回転性のものだけでなく、「ふらつき」「くらくらする感じ」「乗り物酔いに似た感覚」を含むものです)
□ 照明やテレビの明かりなどが「チカチカ」「クラクラ」と眩しく感じられるようになり、どちらかというと「暗い」空間が落ち着くようになった。
□ 神経がピリピリしており、物音や呼ばれた声などでびっくりして、過剰反応することが多くなった。
□ 集中力が不足し、1つのことを持続して行ったり思考したりするのが、以前よりも難しくなった。
□ マイナス思考になり、ネガティブなことを発言したり、くよくよと悩んだりすることが多くなった。
□ 生活のリズムが一定でない。または、十分な休養がとれていない。休み足りない感じがする。
□ 睡眠が不足している感じがする。もしくは、以前よりも眠りが浅い気がする。もっと寝ていたい。
□ 毎日自分の体調のことが気になり、何か行動を起こすときにもあれこれと悩んでしまいがちだ。

もちろん、このチェックはあくまでも「目安」でしかありません。思い当たる節がある方は、なるべく早くメンタルクリニックの門を叩きましょう。

Q11.パニック障害に似た症状を起こす病気はありますか?

A11.パニック障害と類似の症状を起こす病気は数多くあります。自己判断はやめましょう。

様々な病気の中で、「パニック障害」と類似の症状を起こす病気はたくさんあります。その中でも特に、間違いやすい病気をご紹介します。

自分では「パニック障害」だと思っていても、それが実は内科疾患だったり、またはその逆ということがあり得ます。自己診断は避け、必ず専門医の診断を受けるようにしましょう。

▼喘息
喘息発作に伴う気道閉塞が起こす、息苦しさや呼吸困難は、パニック発作と同様、不安感を併発することが多いものです。ただし喘息は特有の咳(喘鳴という)を伴うことがほとんどで、診断法も確立しているため、内科・耳鼻咽喉科で容易に判断が可能です。

▼心筋症・心筋梗塞
胸が締め付けられるように苦しくなり、呼吸困難を引き起こすこともある心臓病ですが、これは心電図検査によって診断が可能です。心電図に異常がみられないにも関わらず、何度も心臓を押さえつけるような激しい発作が起こる場合は、パニック発作を疑います。

▼更年期障害
更年期障害の症状にも、パニック発作と似た動悸・息切れ、めまい、ふるえや倦怠感などがみられ、体のほてりや脂汗なども起こります。ただしこれらは発作的なものというよりは恒常的なものであるほか、パニック発作が起こりやすい年齢層(20〜30代)も考慮すると、症状は似ていてもパニック障害とは区別されることがほとんどです。

▼その他の病気
これらのほかにも、パニック発作と類似の症状を持つ病気はさまざまにみられます。代表的なものには、低血糖、褐色細胞腫、僧坊弁逸脱症 、甲状腺機能亢進症、不整脈、側頭葉癲癇、メニエール病などが挙げられます。これらは心電図検査や血液検査、CTスキャンやMRIで判別がつきますので、これらに当てはまらない場合はパニック障害を疑ってみるのも一計です。

Q12.パニック障害以外でも「パニック発作」を起こすことはありますか?

A12.はい。「パニック発作」は「パニック障害」の一症状です。発作そのものは様々なシーンで発生し得ます。

上述の通り、「パニック発作」とは「パニック障害」の一症状です。身体的な病気や精神的なものでも「パニック発作」を引き起こすことがあります。以下にその例を挙げます。

▼身体的な原因で引き起こされるパニック発作
パニック発作は、肺疾患や神経疾患、心血管疾患、内分泌(ホルモン系)疾患でも起こることがあります。そのほかにも、アルコール依存や薬物依存の「中断発作」や、薬物中毒などでも引き起こされます。 もっとも身近なものは、コーヒーの飲み過ぎ(1日5杯以上が目安です)で起こる「コーヒー中毒」、あるいは普段大量にコーヒーを飲む人が急激にコーヒーを飲まなくなったときに引き起こされる禁断症状 (カフェイン中毒)が挙げられます。ただしこれらの症状は、心電図検査や血液検査、尿検査やレントゲン検査などでパニック発作であるか否かを判断することが可能です。

▼精神的な原因で引き起こされるパニック発作
鬱病や人格障害、心気症、精神分裂病といった精神障害のほか、強迫性障害、外傷後ストレス障害(PTSD)、また一時的な恐怖感(高所恐怖・閉所恐怖・・・)など、数多く挙げられます。パニック障害も精神疾患の一種ですが、これらの症状はパニック障害とは別物であり、治療の方法も異なるものとなります。

いずれにしても「自己診断」は危険です。メンタルクリニックの医師は、「パニック障害」であるか否かの診断ができますので、自己診断で決めてしまわずに、医師の診察を受け、正しい治療を行いましょう。

Q13.パニック障害の「完治」とはどのような状態を指すのでしょうか。

A13.一言でいえば、「薬なしで自分自身をコントロールできるようになった状態」です。

パニック障害は適切な薬物治療と精神療法によって、必ず治る病気です。ただし、薬を飲みながら日常生活を送っている状態は「完治」あるいは「克服」と呼べる状態ではありません。また当然ながら、「完治」とは、二度と再発しないことも意味しています。「完治」とは、薬を飲むことなく、安心して日常生活を送れるようになった状態を指します。

もっとも、健常者でも、風邪をひいたり、ちょっと大きな刺激やストレスを受けると、誰でも情緒不安定になります。これは「病気」でもなんでもなく、ごく普通のことです。薬を使わなくなった時、少々体調が悪くなっても、それが即、「再発」だと思うことはやめましょう(不安は誰でも抱える感情です)。ちょっとした情緒不安定 や不安感が起きた時、これが「普通のことなんだ」と思えるようになること、それこそが、「薬なしで自分自身をコントロールできるようになった状態」、つまり完治なのです。

Q14.パニック障害を患うようになってから、ほぼ同時に蕁麻疹が出やすくなりました。関係はあるのでしょうか?

A14.ただちに「関係がある」とはいえないですが、ストレスのかかり具合から、「相関がある」レベルでは可能性があり得ます。

蕁麻疹には、大別してアレルギー性と非アレルギー性の2種類があり、非アレルギー性の蕁麻疹には「ストレス性蕁麻疹」という種類のものもあります。特に食べ物や刺激物といったアレルゲンとは無関係に、毎日決まった時間(たとえば夕方や深夜など)にお決まりのように蕁麻疹が発生するようであれば、それは「ストレス」からくる体の反応としてとらえるのが自然です。そのストレスがパニック障害の一因でもあるとするならば、蕁麻疹とパニック障害との相関性はあるかもしれません。 したがって、パニック障害と蕁麻疹はただちに無関係とは判断できません。「蕁麻疹は心の涙」という表現もあるくらいです。

ただし蕁麻疹の症状そのものは、脳のセロトニン等のはたらきとは無関係で、血管のアレルギー反応(肥満細胞からのヒスタミン放出によって血液中の血漿成分が漏出し、全身にむくみやかゆみが起こる)によるものですから、いかなる原因であれ、治療のためには皮膚科等で抗アレルギー薬を処方してもらう必要があります(ややこしいようですが非アレルギー性の蕁麻疹とは原因が非アレルゲンという意味であり、蕁麻疹の発生機序そのものは身体のアレルギー反応によるものです)。


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